2024年11月22日( 金 )

【中洲クライシス】見えてきた #中洲の未来(前)

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(株)ヤマシタ 代表取締役社長 山下 俊也 氏/(株)サクラグル─プHOLDINGS. 代表取締役社長 松岡 三貴 氏

(株)ヤマシタ
代表取締役社長 山下 俊也 氏
(株)サクラグループHOLDINGS.
代表取締役社長 松岡 三貴 氏

 新型コロナ対策のため1月27日から福岡県に適用されていたまん延防止等重点措置(まん延防止)が3月6日に期限を迎えた。第6波の急激な拡大にともなって病床使用率が一時は9割近くまで上昇していたが、直近の病床使用率が改善傾向にあることで服部誠太郎知事が国に措置の解除を要請、なんとか延長を免れたかたちだ。コロナ関連破綻(負債1,000万円以上)が140件と、全国でも高い水準の福岡県。コロナ禍が県経済にじわじわとダメージを与えているなか、歓楽街「中洲」も度重なる営業自粛要請の影響でまちはその在り様が変わろうとしている。

オミクロン株の脅威~急激な感染拡大で「中洲クローズド」状態

 ──中洲の老舗として名高いクラブ「うるわし」と会員制クラブ「ショパール& Member'sキャッツ・アイ」を運営する、(株)ヤマシタの山下俊也代表。(株)サクラグループHDは、「櫻ロワイヤル」を筆頭に質の高い接客空間を演出することで“次の中洲の顔”として名前が挙がるようになっています。中洲の夜を知り尽くしたお2人に、中洲のいまと未来を語っていただきたい。まず、まん延防止措置が始まって以降の対応は?

 山下俊也氏(以下、山下) 福岡県では1月27日からまん延防止措置が適用されましたが、うるわしとキャッツ・アイは24日から休業していました。

 松岡三貴氏(以下、松岡) 当グループは2月1日から休業させていただきました。

 ──2020年4月に出された1回目の緊急事態宣言から昨年7月の4回目の緊急事態宣言まで、政府は大がかりな行動規制をかけることで新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうとしてきました。とくに夜のまちは感染拡大の温床と名指しされていたわけですが、今回のまん延防止措置の影響は前回までの規制と比べてどうでしたか。

 山下 前回までよりも明らかにお客さまが減っていましたね。人が出歩く姿をほとんど見なくなりました。だから前回までは規制そっちのけでオープンして過去最高の売上を記録していた店なども今回は赤字になり、結果的に店を閉めています。

 松岡 中洲の仲間と話していても「今回は(前回までよりも)閑散としていて、寂しいね」とおっしゃる方が多いですね。

(株)ヤマシタ代表取締役社長・山下 俊也 氏
(株)ヤマシタ
代表取締役社長 山下 俊也 氏

    ──クラブうるわしでは店を閉めている間も一定額の補償金のようなものをお店の女の子たち(キャスト)に支払っていましたが、今回はいかがですか。

 山下 まったく同じ対応をとっています。もちろん補償金額をどうするのかは考えざるを得なくて、たとえばお昼に仕事をもっている方についてはそれほど出せないなどの微調整はあります。完全に当店一本のレギュラーで出ている女性については最低でも家賃代くらいは出してやるべきだろうと。あとは、実際には午後9時までは営業できるわけで、ただしそれをあえてオープンすることで従業員が感染しては元も子もない。店をいつまで閉めるかによって出す金額も変えざるを得ませんでしたので、先に出す金額をある程度決めてからどう分配するかを考えました。さすがにやみくもに支給するわけにはいきませんので。

 松岡 私たちもうるわしさんと同様に、キャストには給料補償をさせていただいています。

 ──前回の規制より、まん延防止措置に従う店も多いようですね。

 松岡 確かに多いと思います。ただし、それが「感染防止対策」のためなのかはわかりません。実際には「客が入らないから閉める」というお店も多いと思いますが、感染防止という観点では結果オーライというところでしょう。

 ──重症化が特徴だったデルタ株に取って代わって、比較的軽症ではあるものの感染力が数倍にも上がったオミクロン株が急激に拡大しました。中洲で感染拡大第6波がきたのを体感したのはいつごろでしたか。

 山下 まん延防止措置が出る1週間ほど前ですね。ものの見事に、その週からまったくお客さんが入らなくなりました。

 松岡 私も同感です。今年に入ってすぐにそういう予兆が出始めていました。

 ──福岡県では新型コロナウイルス感染症の陽性と判定された方が累計で約23万8,800人、新型コロナで亡くなったとみられる方も963人と、日増しに被害が積み上がっている状況です(数字は3月2日時点)。福岡の人口が511万人として4.6%、これまでに全県民の約20人に1人が感染した計算になります。

 山下 知人の子どもさんが通う学校でも感染者が出て、仕事を休んで迎えに行ったそうです。身近にそういった話を見聞きするので、感染拡大の初期と比べて他人事という感じではなくなりました。それが第5波までとは違うと思います。子どもを経由して家族が感染することも多いですが、症状自体は軽いようで、知人もかかりましたが「インフルエンザよりは楽」とおっしゃっていた。

 松岡 ただの風邪だからと甘くみて外出してしまって、それで感染者が増えたということもあるのでしょうね。

 山下 中洲でも「発熱した」とかいう話はけっこう聞くので、それはもうアウトとみるべきなのかもしれない。当店では従業員全員に抗原検査キットを配りました。たまたま通販で買うことができたので、100個くらいそろえて女の子たちの自宅に届けました。少しでも怪しいと思ったら検査しなさいと伝えています。

まん延防止期間中の中洲
まん延防止期間中の中洲

ライバル店の垣根を越えて~まち全体としての取り組みを

 ──感染拡大を防ぐ規制のかけ方についてはさまざまな意見があります。単なる風邪なんだから、行動規制をかける必要はないと断言する専門家もいます。飲食店を一律に閉める必要があるのかという声もあります。

 山下 まず前提として我々は客商売なので、国の対策についてどうこういうよりも、お客さんがまちに出てこなければ商売にならないという厳然たる事実があります。そういう意味では今回はかなり人出が減っていますので、さすがに開ける店は少なかった。国の規制がなかったとしても、「開けても赤字になるだけだから」という理由で閉めるわけです。逆にみれば、前回までは需要があった(規制がかかっても客がいた)からこそ店を開けていたということもできるわけです。

(株)サクラグループHOLDINGS.
代表取締役社長 松岡 三貴氏

    松岡 新型コロナウイルスの扱いを「5類」(※)に下げないことで、たいした症状でなくても「周りに迷惑をかけるから」という意識が人の足を止めていることが多いのだろうと思います。今回のまん延防止措置を含め、また緊急事態宣言になるのかどうかという話もありましたが、実際にいつまでこの不安定な状態が続くのかという思いはあります。しかし、感染の波を乗り越えていくにあたっては国や地域が方針を出したうえで、一丸となって取り組む必要があると思います。私たちもライバル店などの垣根を越えてまち全体としての対策をとっていく必要があり、何が正しいのかわからないなかでも少なくともとるべき道だろうと。中洲自体のイメージが悪くなっていますので、そこは徹底したいものです。

 ──なぜ飲食店ばかりがやり玉に挙がるのか、という声もある。満員電車や会社、学校など、どこでも感染する危険性はあるのに、なぜ飲食店ばかりかと。

 山下 逆にいえば、僻(ひが)みもあるんですよ。コロナで打撃を受けているのはほかの業種も同じなのに、飲食店だけに助成金や補助金が出ている現実があります。飲食店相手に商売をされている方には出ていないので、そういった人たちから「あんたのとこは(補助金が)出とるけん、いいやん」と言われることもありますよ。補償もないままに売上が立たず、苦しんでいる方々はたくさんいらっしゃいます。5類に下げることは私も賛成ですが、これは服部知事もおっしゃっていましたが、「5類にすると補償がなくなる」ということも考えなければなりません。新型コロナに関してはワクチンも医療費も無料で補助金を出すなど、5類のなかで住み分けをすることになるのか。インフルエンザは有料でコロナは無料となると、これもまたおかしな話になるのかもしれない。インフルエンザのほうがひどい症状のこともありますので、議論にはなるでしょうね。結局のところ人は自分が得することしか考えませんから、難しい問題ですよね。

※新型コロナの感染症法上の位置付けを、結核や重症急性呼吸器症候群(SARS)並みに危険度が高い「2類」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げるべきだという意見がある。

【中洲クライシス取材班】 

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【ドキュメント】中洲クライシス そして中洲(ここ)で生きていく(前)


<COMPANY INFORMATION>
(株)ヤマシタ
会員制クラブ「うるわし」
 福岡市博多区中洲2-6-12 第五ラインビル5F
会員制クラブ「ショパール& Member'sキャッツ・アイ」
 福岡市博多区中洲3-2-12 第三ラインビル2F

(株)サクラグループHOLDINGS.
「櫻ロワイヤル」
 福岡市博多区中洲2-6-26 日港ビル2F
「しらゆき」
 福岡市博多区中洲2-8-2 パインコート中洲B1F
「たまより」
 福岡市博多区中洲2-3-12 八和ビル9F
※すべて完全会員制


山下 俊也(やました・としや)
1959年生まれ。79年、20歳のときに中洲で働き始めて今年で43年目。趣味は筋トレとサウナ。

松岡 三貴(まつおか・みつたか)
1973年生まれ。学生時代には空手に熱中。大学生のときにクラブ「うるわし」でアルバイト経験も。

(後)

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