2024年11月21日( 木 )

日伊首脳会談開催 記者会見の内容を紹介

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ディサント(株) 代表取締役
ディサント・ダニエレ

 5月4日、岸田文雄首相とイタリアのマリオ・ドラギ首相が、ローマで首脳会談を行った。日本国内ではロシアによるウクライナ侵攻問題を始めとするさまざまなニュースにかき消されたかたちとなり、残念ながら日伊のトップによる会談内容が詳しく報道されなかったが、イタリア関連の事業従事者にとっては興味深い話題が多かった。

 そこで、読者の皆さまのために、今回の会談後の記者会見の内容を紹介したい。(イタリアの首相官邸による記者会見ライブの全文から抄訳)

(写真 Copyright: Agenzia DIRE)
(写真 Copyright: Agenzia DIRE)

 まずは、【マリオ・ドラギ首相】の会見から紹介する。

● 日伊が永続的な平和条約を締結して156年になるが、両国の交流はさまざまな分野、とくにG7やG20などの場を通じて促進されてきた。また、映画の分野においても、数世代にわたり両国の監督が互いに影響を受け合ってきた。この首脳会議は、すでにすばらしい友好関係を築いている我々両国にさらなる推進力を与えるだろう。

● 我々はロシアのウクライナ侵攻への非難を再確認した。民間人の避難、和平交渉の促進のための対応はじめ、引き続きウクライナを支援し、ロシアに圧力をかけ、敵対行為を直ちに停止するよう求める。日本政府が、国内の液化天然ガスを欧州に向け融通することを決定してくださったことにも感謝したい。

● イタリアと欧州、日本はインド太平洋地域における安定・安全の重要性、北朝鮮のミサイル実験への懸念を共に認識している。東シナ海における、規則に基づく国際的秩序の断固たる防衛において団結していることを示し続ける必要がある。

● 日伊の同盟関係は経済・商業分野においても顕著。日本はイタリアにとってアジア2番目の輸出市場で、昨年の貿易額は120億ユーロに達した。とくに再生可能エネルギー、バイオテクノロジー、製薬、ロボット工学、航空学などの分野で、産業パートナーシップを強化したい。

● また、両国がこれまで友情を育んでくることができたのは、市民同士の交流のおかげでもある。たとえば科学技術分野においても、両国間で協力するたくさんの大学や研究機関があり、新型コロナウイルス感染症問題から制限されてきた両国間の往来を再開しなければならない。日本からの旅行客のために観光においてもイタリアは国境を開放している。欧州からも日本を訪問できるよう、労働・留学ビザの即時発行、欧州市民への観光ビザ取得の免除が早期に実現されることを願っている。

 対露問題についての両国間の認識や協力体制などについての会見内容は、多くのニュースで紹介されているので割愛する。

 まずは、ドラギ首相によるあいさつの冒頭で、日伊の映画界における交流について言及されており、意外に思われる方も多いかもしれない。これは、日伊映画共同製作協定の早期締結を目指し現在協議が進められていることを受けてのこと。映画製作の分野でも両国のパートナーシップが深まることに大いに期待したい。

 また、両国間の経済交流においては、再生可能エネルギー、バイオテクノロジー、製薬、ロボット工学、航空学の分野においてさまざまな民間企業や研究機関における連携が近年進められており、相手国に進出をはたしている企業やスタートアップなども増えている。

 最後に、ドラギ首相は日伊の往来の再開を目指し日本の国境開放への期待をアピールした。現在日本からイタリアや欧州への入国はコロナ前の基準と同様に戻っているが、欧州から日本への外国人の入国は、観光以外の商用や就業を目的とするビザで一定の条件が課されているためである。これまで、日本の企業や自治体は、Made in Japan製品やインバウンドのプロモーションに力を入れてきた。新型コロナ問題が早期に収束し、再びこれらの市場が活性化されることを願いたい。

 つぎに【岸田文雄首相】の会見を紹介する。

● 外務大臣として2016年にローマを訪問して以来6年ぶりの訪問であるがドラギ首相の温かい歓迎に感謝する。G7メンバーであり普遍的価値を共有するイタリアは日本にとって大切なパートナーである。

● 国際社会は大きな岐路に立っており、ロシアによる侵略を終わらせ、平和秩序を守り抜く正念場を迎えている。日伊は前例のない強力な対露制裁を実施するとともに、ウクライナ支援を強化する。G7を始めとする国際社会が毅然と対応することが重要。

● ウクライナの政府・国民を全力で支えていくという共通の責務である。ウクライナ侵攻が欧州のみならずインド太平洋を含む国際社会秩序の根幹を揺るがす中、インドがインド太平洋に関する文章を策定し地域に関与していく意思を示したことを大変心強く思う。自由で開かれたインド太平洋の実現に向けイタリアとの協力を深めていきたい。

● 経済面においては、私の提唱する新しい資本主義にドラギ首相から、心からの同意をいただいた。日伊両国の企業間で水素エネルギーや鉄道分野で連携が始まっている。再生可能エネルギーや連結性に資する企業間協力が進展するよう両国政府としても後押しをしていく。

● 本会談の機会にワーキングホリデー協定の署名が行われたことを歓迎する。新型コロナによって停滞した両国国民の人的交流が再び活性化する一助となることを期待。

● 本日も北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイル発射を行うなど東アジアの情勢は緊迫の度合いを深めている。東シナ海における力を背景とした一方的な現状変更の試みや急速かつ不透明なかたちでの軍事力の強化、拉致問題、核ミサイル問題を含む北朝鮮への対応などを含む地域情勢やグローバルな課題についてさらに議論を深めていきたい。

 こちらについても、対露問題や北朝鮮問題への言及は報道されており既知の方も多いと思うので、あまり紹介されなかった会見の後半部分について簡単に紹介したい。

 まずは、経済面について。マリオ・ドラギ首相といえば、イタリア銀行と欧州中央銀行の総裁などを歴任してきた人物で、首相就任にあたりイタリアを救済する「スーパー・マリオ」と評判になった人物である。岸田首相提唱の「新しい資本主義」に対しドラギ首相のお墨付きをいただいたという点については評価されるべきではないだろうか。

 そして、日伊ワーキングホリデー協定についてであるが、今年5月2日に締結されたばかり。これは日伊の若者にとって非常に喜ばしいニュースだ。今後この制度が始まれば、ワーキングホリデーの査証を取得することで、1年間の現地滞在、そして旅行資金を補うために休暇の付随的活動として就労することが可能になる。留学以外に日伊の若者が相手国で経験を得る機会となり、国際的な人材がより豊富に育まれていくきっかけとなることだろう。

 今回の日伊首脳会談をきっかけに、日伊の協力関係がより強固となることを期待する。

ディサント(株) 代表取締役 ディサント・ダニエレ

 

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