2024年12月22日( 日 )

コロナ禍の特定技能制度~登録支援機関は生き残れるか

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 先進国のなかでも最も早いペースで、日本の人口減少が加速している。総人口は、統計のある1950年以降で最大の落ち込みとなり、生産年齢人口は激減して65歳以上人口は増加傾向が続く。労働力の確保はもはや先延ばしにすることは許されない時代に入った。コンビニ店員が全員外国人という風景がすでに日常のものになった日本。労働力補完の切り札とされた特定技能外国人制度はいまどうなっているのか。

単純労働外国人は受け入れ不可

 日本では、2018年に当時の安倍晋三首相が「一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については(中略)考えていない」と国会答弁しており、現段階では移民政策は「ありえない」とされている。

 しかし、国家としての方針とは別に、単純労働を中心にすでに外国人の存在なくしては経済が「まわらない」のが実態であり、国民の理解・受け止め方は徐々に変化してきている。各種世論調査では、移民政策については消極的反対も含めた「反対」が約6割を占めるなか、外国人労働者の受け入れについては消極的賛成も含めれば受け入れ派が7割以上(2020年のNHK調査)にのぼり、現状を追認するかたちでの外国人労働者受け入れの機運はすでにできあがっている。

 整理すると、日本の移民・外国人労働者に対する現状と政治的・社会的スタンスは以下の通り。

 ・外国人が日本に入国して合法的に在留するためには、「出入国管理及び難民認定法」に定められたものか、入管特例法による「特別永住者」の在留資格を取得する必要がある
 ・専門的・技術的労働者の獲得は、国家間競争激化の影響で出遅れている
 ・単純労働者は原則として受け入れないが、実態としては合法的な日系人から不法就労者まで混在する。雇用調整が容易で安価な労働力として利用されており、建前と実態の乖離が大きい

特定技能制度の概要

 外国人労働者の新たな受け入れ手段として、19年4月1日にスタートしたのが、新たな在留資格である「特定技能」制度だった。18年12月の臨時国会で、同資格の新設を柱とする「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が可決・成立し、この年から、人手不足がとくに深刻な産業分野において、特定技能枠での新たな外国人材の受入れが可能となった。

 よく混同される「技能実習生」制度とは、その目的からしてすべてが異なる。技能実習生は、発展途上国に対して日本の技能を海外移転するためという「国際貢献」が大目標となるが、特定技能制度については、ずばり「労働力の獲得」が目的となる。

 特定技能に関連する制度の現実的目的は、中小・零細事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するためで、人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有した即戦力となる外国人を受け入れていくことがその手段となる。新たに新設された在留資格「特定技能」には次の2つの分類がある。

 特定技能1号=特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
 特定技能2号=特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格

 特定技能2号資格は家族の呼び寄せや永住権申請も可能となるためハードルが高いとされてきたが、今年4月14日に、岐阜県各務原市の建設現場で働く30代の中国人男性が全国で初めて同資格を取得したことが全国ニュースにもなった。2号は在留期間に上限がなく、家族を呼び寄せることもできる。今回認められた中国人男性は2010年に技能実習生として来日して20年に特定技能1号に認定され、その後に技能検定1級を取得して現場責任者を務めたことなどが評価されたという。

特定産業分野に属する、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格

 具体的な特定産業分野は、以下の通り。

 特定産業分野(14分野)= ①介護 ②ビルクリーニング ③素形材産業 ④産業機械製造業 ⑤電気・電子情報関連産業 ⑥建設 ⑦造船・舶用工業 ⑧自動車整備 ⑨航空 ⑩宿泊 ⑪農業 ⑫漁業 ⑬飲食料品製造業 ⑭外食業
(※特定技能1号は14分野で受入れ可。下線の2分野のみ、特定技能2号の受入れ可)

 特定技能制度においては、受け入れる外国人に対する支援を手厚くすることを個別具体的に細かく定めていることも特長だ。これは、外国人実習生受け入れにあたって諸外国から「現代の奴隷制度」と非難されるような悲惨で過酷な状況が長く放置されていたことが背景にあり、さらには外国人労働者の奪い合いが始まったとされるなかで、外国人に「選ばれる国」になったという現実を反映したものともいえる。

 たとえば、特定技能外国人を実際に受け入れて支援する企業・個人事業主等の受入れ機関(特定技能所属機関)は、外国人材と雇用契約(特定技能雇用契約)を結び、同契約では外国人の報酬額が日本人と同等以上であることを含めた所要の基準に適合していることが求められている。転職も認められており、安価な使い捨て労働者として扱われるのを防ぐねらいがうかがえる。

 さらに、受入れ機関には「特定技能1号外国人に対する支援」義務が課されており、受け入れ機関は支援を委託することができるとも定められている。委託を受ける側については「登録支援機関」制度が新設された。登録支援機関は出入国在留管理庁長官の登録を受けることが必要で、支援内容も細かく規定されるなど、より外国人の生活に寄り添った個別支援を行うことが定められている。

1号特定技能外国人に対する支援内容(概略)

登録支援機関の現状

 19年4月1日にスタートした特定技能制度だが、コロナ禍に巻き込まれたかたちであまり機能しないまま2年以上が過ぎた。「5年間で約35万人」の特定技能外国人受け入れを目標にしていたが、21年12月時点で4万9,666人と、目標からほど遠い数字に低迷している。

主な国籍・地域別 特定産業分野別 特定技能1号在留外国人数(2021年12月末時点)

 一方、特定技能制度による需要をみこして各地で設立された登録支援機関は激増し、20年12月時点で5,449機関、22年4月末時点で7,098機関。単純計算では、20年12月時点で1社あたり2.87人の支援しか行うことができず、もはや事業としての体をなしていない状況に陥っていた。現在は多少回復して1社あたり約7人にまで伸びたが、まだまだ十分な人数とはいえない。

 ある調査によると、支援機関として登録されている事業者のうち、登録のみで営業活動を行っていない「名ばかり支援機関」が疑われるものが24%ちかくあるという。さらに、稼働中の支援機関でも、50社以上を支援している事業所は全体の2%、「支援人数が5人以下」の登録支援機関が80%、「10人以下」で90%と、登録支援機関単体で収益化している事業所が極端に少ないこともうかがえる。

 登録支援機関は、支援対象者1人につき月額いくら、というかたちで受け入れ機関から支援委託料を支払われることが多い。その委託料についてもダンピングが進んでおり、5,000円から2万円まで幅がある。仮に10人を支援すると仮定して、委託料を中間値付近の1万5,000円に設定しても月に15万円の売上にしかならず、支援機関単体では人件費を捻出することすらできないのが実情だ。

登録支援機関の概要(公益財団法人 国際人材協力機構のHPより)

 支援単価についてはサブスクリプション(定額制)で月額とするもののほか、個別の支援内容ごとに設定するものがあるが、夜間の支援対応や専門的な知識が必要な支援については高めに設定するなど、各社、競合他社を横目でにらみながら単科設定に頭を悩ませている。ただし、支援内容の差別化が難しいことからどうしても価格競争(ダンピング)にならざるをえず、そのことも委託費の下落に拍車をかける材料となる。すでに登録支援機関の淘汰が始まっているという見方もあり、母体をもたない支援機関を中心に撤退が始まり、最終的には現状の10分の1程度の数に落ちつくという意見が主流だ。

生き残る登録支援機関~内製化の動きも

 福岡県内のある登録支援機関は、母体事業所の1つの部署として登録支援機関を位置づけて人件費などの必要経費を賄っているが、それでも事業の先行きはかなり暗い。支援対象の外国人が勤務する企業は九州他県に加えて本州北部の遠方にもあり、「パスポートをなくした」「寂しくて故郷に帰りたい」などの細かな訴えに向き合うほどに通信費や交通費などのコストがかかり、開設以来ずっと大幅な赤字を出し続けたままで2年がすぎた。

 また、支援経験のある人材を外部からスカウトして支援体制を拡充しようとしていた矢先にコロナ禍におそわれたために人員も増やすことができず、1人部署体制=「ワンオペ」支援にならざるを得ないのが現状だ。そうなると自信をもっていた支援内容すら劣化する恐れも出てきた。

 外国人1人を支援するためには、いかに安価に見積もっても月に1万5,000円以上はかかるとみるべきで、支援員の人件費を年収360万円に設定するとすれば月に最低でも30万円を売り上げる必要がある。そうなると月に1万5,000円として20人、2万円なら15人を支援しなければならない。事業単体として成り立たせるならば、支援員1人あたり30人以上を抱える必要があり、そうなると時間も人手も限られることから支援そのものの質が低下するため、何らかの効率化を図る必要もでてくる。特定技能制度では外国人の転職も認められているため、支援の質の低下は安易な転職につながることも危惧される。

 また、新たな動きとして、特定技能外国人の募集・採用から支援に至るまでを内製化する動きも顕在化している。内製化することで外部に委託した場合の初期費用や毎月の支援委託費用などを抑えられることに加え、募集段階から優秀な外国人人材に一貫して関わってより深い人的関係を築くことで離脱(転職)を防ぐ効果も期待されており、今後、特定技能人材獲得の主流になる可能性もある。

 こうした内製化の動きもにらみつつ、支援機関は付加価値の高い支援をより効率的に行うという困難な課題に取り組む必要がある。支援機関は特定技能制度の制度趣旨からして厳密な法令順守が求められており、なによりも外国人が安心して働き、生活できる環境を整えることが長期的には日本全体の利益にもつながることはいうまでもない。

 福岡県内の登録支援機関の代表は匿名を条件に次のように語っている。「今後、登録支援機関は、語学力向上を中心に据えた支援とともに、高い付加価値を産む支援を行うことで支援単価を上げることが必要になってきます。ダンピング競争では支援内容が落ちるとともに悪質な業者が生き残ることになるため、日本にとっても外国人にとっても良くない状況になるのは間違いありません。ようやくコロナ禍の水際対策が緩和されて特定技能枠で入ってくる外国人も増えると思います。正常な淘汰機能が働くことで、特定技能がより良い制度になってほしいですね」。

【データ・マックス編集部】

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