驚異の資金調達力が裏目 親会社への融通が泥沼化(前)
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(株)建商
設立当初から豊富な受注を有していた建設業者・(株)建商(福岡市博多区)は4月下旬、元親会社・(株)総合電商(東京都中央区)に連鎖し破産手続開始の決定を受けた。総合電商への際限のない資金融通で自らの首を絞めていったが、不可解なことに、総合電商から株式を買い取り自立経営になった後に資金融通が加速した。末期には取引先から違法な超高利で借金し、被害を広げてしまった。
総合電商の福岡支店を分離し設立
(株)建商は電力ベンチャー・総合電商の福岡支店を分離して設立された。大手ハウスメーカーに勤務経験のある田中智之代表は、(株)総合電商でコンビニや飲食店などの建設分野で成果を上げ、福岡支店は建設不動産部門を兼ねていた。2019年1月、同部門の売上高が20億円に迫ったところで分社化された。当初は全株式を総合電商が保有していたことに加え、田中社長を含む役員3人全員を総合電商の役員が兼務していた。資金繰りも総合電商の経理担当役員が行い、経営は総合電商の支配下にあった。
建商で営業に特化した田中社長は自身の強みを発揮。店舗や倉庫建設などにおける用地選定から届出代行など竣工までに必要な業務をワンストップで手がけることで、顧客の囲い込みを行った。法人化後初の12カ月決算となった20年5月期は19億4,542万円の売上高を計上。翌21年5月期も17億4,841万円を売り上げた。
億単位の資金融通で屋台骨揺らぐ
建商の親会社・総合電商も21年5月期には、過去最高となる売上高59億1,194万円を計上している。総合電商の本業は変圧設備「キュービクル」を活用し、取引先の電力価格を引き下げるビジネス。競合がキュービクルの販売で収益を上げていたのに対し、総合電商は既存キュービクルの買い取りを行っていた。代わりに総合電商が電力を販売することで収益を上げる。取引先はキュービクル売却代金と、安価な電力を購入する。さらに買い取ったキュービクルを投資家に転売して資金を獲得する。投資家には家賃名目の利用代を支払うというスキームだ。斬新な発想でシェアを広げ、表面上の売上高は右肩上がりだった。
しかし、急拡大にともなう販管費の増加で資金繰りは火の車だった。また、投資家に支払う家賃は時に年利10%という高配当(家賃)となっていた。この手法は目先のキャッシュが握れる一方で、事業が拡大するほど後の自転車操業が深刻になることを意味していた。
21年6月29日、困窮した総合電商に対し建商は4,000万円を貸し付けている。10日後には返済を受けているが、2,500万円のみだった。借入残がある状態にもかかわらず、7月30日には追加で7,000万円を貸し付けている。8月30日にも8,000万円。10日後に返済があったものの、満額には程遠かった。その後も回収を上回る貸付が繰り返されていく。総合電商への貸付残高が1億3,500万円まで膨らんだ10月下旬、ついに建商の資金繰りが変調をきたす。28日、田中社長は個人で800万円を建商に貸し付けている。ここに至って11月3日、田中社長はかねてから望んでいた建商の全株式の買い取りをはたす。役員兼務は総合電商の破綻前まで続くが、経営の支配権は分かれた。
ところが、建商はこの時を境に急速に資金融通の度合いを高めていく。総合電商の要望はエスカレートし、債務や支払利息の立替払いまでおよぶようになる。11月8日、建商はそれに応え、計4,610万円を立て替える。その2日後、総合電商による投資家への賃料の支払遅延が顕在化する。建商に資金融通を依頼するにあたり、総合電商社長はキュービクルの販売先を多数保有していることから資金繰りが改善する見通しであると伝えていたとされるが、内部を知る者とすれば総合電商が最終局面に入ったことは明白だった。
建商の資金繰りも容易ならざる状況に陥ったが、11月10日、取引先から1億円を借り入れている。ところが、同日に総合電商に1,000万円を貸し付けている。さらに11月末には追加で9,000万円を貸し付け、1億円がそっくり貸付に回った計算だ。それだけでなく、同日に1,500万円の立替払いまで行っている。この間に、田中氏は個人で追加の500万円を貸し付けている。一連の貸付は連鎖倒産を回避するための判断だったと言われているが、度を越えた資金融通を続けた理由は何だったのか。
注目に値するのが、田中社長の株式取得方法だ。契約した21年11月から5年間の分割払いだった。そして田中社長は総合電商が破綻するまで同社の役員を兼務していた。田中氏は総合電商においては、購入希望者に対してキュービクルの営業・販売を行う立場にあった。総合電商から見れば、キュービクルを投資家に販売するけん引役を担い、田中氏自身が総合電商のビジネスモデルの重要な歯車だった。理由は判然としないが、田中氏は最後まで総合電商のくびきから逃れられなかった。
(つづく)
【鹿島 譲二】
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