2024年11月22日( 金 )

驚異の資金調達力が裏目 親会社への融通が泥沼化(後)

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(株)建商

 設立当初から豊富な受注を有していた建設業者・(株)建商(福岡市博多区)は4月下旬、元親会社・(株)総合電商(東京都中央区)に連鎖し破産手続開始の決定を受けた。総合電商への際限のない資金融通で自らの首を絞めていったが、不可解なことに、総合電商から株式を買い取り自立経営になった後に資金融通が加速した。末期には取引先から違法な超高利で借金し、被害を広げてしまった。

無類の調達力も果てしなき資金融通で終焉

(株)建商 倒産までの主な経緯

    12月2日の1,070万円の債務立替が、総合電商への最後の資金融通となった。総合電商は12月8日に事業を停止し、16日に自己破産開始決定を受けた。10月26日に1億3,500万円だった建商への債権は3億680万円に膨らんでいた。いうまでもなく全額回収不能となったが、そこから驚異的な粘り腰を発揮する。

 12月9日に1億円の銀行融資を獲得。今年1月6日には3億4,600万円の介護施設の案件を受注し、同28日には前渡金2億円を受け取っている。同日には、施主にファミリーマート店舗などの社有不動産4物件を1億1,000万円で売却し、資金化している。ただし、銀行借入については総合電商破綻により債権譲渡契約を余儀なくされた。加えて、2月10日の支払いや取引先への借金返済に充てると、資金は残っていなかった。

 下請には3月10日付の支払いについて支払い延期要請を行うが、このころには逆に前払い要請や業者撤退も生じ、自力での工事継続が不可能となった。その後は本社事務所から人の出入りが確認されなくなった。この間、工事の引き受け先やスポンサー探しを行う一方で、コンサルティング業への業態変更を模索するが、もはや引き受け手はなく、4月8日の自己破産申請に至った。

虚偽説明が信用不安に拍車

 悔やまれるのは、対外的に信用不安を打ち消すために虚偽の説明をしていたことだ。総合電商の破綻直後、建商担当者はデータ・マックスの問い合わせに対し、会社設立当初から資金繰りは独自で行っていると説明した。確かに資金融通できるほど自前の与信を有していたが、設立当初から資金繰りは総合電商の支配下にあった。また、総合電商への債権の有無について、過去の取引実績を引き合いに100万円以下の見通しであると説明していた。その際、「精査中」という表現を用いて信憑性を高めようとした。これも事業面での債権はなかったが、稀にみる資金融通を行っていた。「本業への影響は軽微」という説明がかえって後の信用不安に拍車をかける一因となった。

工事が中断されたままの現場
工事が中断されたままの現場

    総合電商の破綻後、取引先などに対して従業員が対応していたが、田中社長については従業員を通じて「事後処理で多忙」と聞かれるのみで、対応していたのかどうかは最後まで確認できなかった。

 「もはやこれまで」と思ってから自社の置かれた状況を完全透明化したことで、金融機関や取引先、経営者仲間の支援を得て回復した例が少なからず聞かれる。一方、瀬戸際に至って小手先の隠蔽で乗り切ったケースは聞かれない。

退路塞いだ終盤の経営判断

 建商の破産申請時の負債総額は6億円を超えた。ところが、21年11月に取引先から借り入れた4,000万円は全額返済されている。しかも、返済額1,400万円(12月20日)と3,150万円(22年1月28日)と550万円の金利が支払われている。単純計算で火の車の状態で金利60%超えの満額を返済したことになるが、管財人が400万円以上の過払金請求権を見逃す可能性は小さい。また、21年12月1日には代表の自宅も親族とみられる人物に贈与されている。建商の破綻は4カ月後。支払い不能の状態に陥る6カ月以内の贈与だけに、これも否認される可能性が高い。

 建商の営業力、与信力が総合電商への果てしない資金融通の一因となった。そして経営が悪化した昨年10月以降、代表個人で1,300万円の個人資産を会社に投入している。経営者としての覚悟とみるべきだろう。一方で、法定金利超えの資金調達や虚偽の説明、自宅の贈与などは稚拙だった。

 田中代表は総合電商の破綻までその役員を兼務していたが、電力ビジネスの総合電商と建設業の建商の事業の親和性は薄い。また、建商の受注先には大口不良債権の発覚後も、一度は建商を信頼し億単位の前渡金を渡す優良顧客もあった。さらに、資金難に陥った11月以降の数カ月で、銀行借入や不動産売却などで計4億1,000万円を調達している。

 粘り強さと営業力をもって代表が株式取得した21年11月に総合電商への資金融通を止めて、本業に専念していたらどうだったか。建設業者としては能力が高かっただけに、後味の悪さを残す結末となった。

(了)

【鹿島 譲二】

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