2024年11月21日( 木 )

アベノミクス見直し否定の黒田日銀総裁と岸田首相

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 6月22日に公示された「参院選(7月10日投開票)」で、有権者が最も重視する政策に急浮上したのが物価高対策だ。「物価高と戦う」「生活安全保障」を掲げる立憲民主党は、泉健太代表が「岸田インフレ」「(円安を招いた)アベノミクスを見直さないのか」と追及。共産・社民・れいわとともに消費税減税を求めてもいる。

 これに対して岸田首相は公示4日前の18日、山形自民党大会で挨拶、山形駅前でも街頭演説をしたが、「世界規模の物価高はウクライナ侵攻が原因」「有事における物価高騰だ」と外的要因ばかりを強調、円安加速を招いているアベノミクス(柱は金融緩和など)を見直す姿勢はまったくなかった。そこで街宣後、山形駅に向かう岸田首相に「『岸田インフレ』と言われていますよ。金融緩和、見直さないのか。円安加速で物価高になるのではないか」「『資本家の犬』と言われていますよと大声を張り上げたが、無言のまま改札口に向かって行った。6月1日の予算委員会で消費減税を否定した岸田首相を「資本家の犬」と一刀両断にした大石晃子衆院議員(れいわ)の簡単明瞭な表現を引用、岸田首相にぶつけたが、無反応だったのだ。

 山形では「有事の物価高に国民は耐えて当然」と言わんばかりの問題発言が岸田首相の口から飛び出していた。エネルギーと食料に特化した物価高対策をして効果を上げていると訴えた後、こう続けたのだ。

 「たとえばアフリカにおいては食料の不足にも耐えながら平和を守るためにしっかりと(ロシアへの経済制裁に)協力をしている。ヨーロッパではエネルギーのとんでもない価格高騰の中でも平和を守るために多くの国民が協力をしている」「なんでこんな物価高騰が起こっているのかに思いをめぐらせていただき、平和を守るために日本も力を合わせていかないといけない」。

 岸田首相の本音が透けて見える。「今は有事なのだから諸外国と同じように日本国民も物価高を我慢すべきだ」と上から目線で捉えているようにしか見えない。「家計の物価値上げ許容度も高まっている」と庶民感情を逆なでして発言撤回に追い込まれた黒田東彦・日銀総裁と岸田首相が二重写しになるが、アベノミクス見直しを拒むことでも両者は足並みをそろえている。

 “物価高許容発言“以降で黒田総裁が初めて会見に臨んだ6月17日、私は次のような質問をした。

 「『先進国の中で物価高と賃金下落を招いたのは日本だけだ』と金融緩和政策を批判している研究者がいるが、結局、アベノミクスの柱である金融緩和は、大企業・お金持ちは株安円安で儲かっても、庶民は物価高で苦しむというのが結論・結果だと思うが、これを是正しないのはなぜなのか。『大企業・金持ち優遇、庶民は二の次』というのが日銀の考えなのか。アベノミクスを否定すると、安倍さんに怒られるとか忖度しているとか、そういう理由なのか。このままだと『黒田インフレ』と言われかねないと思うが、反論をお願いします」。

日銀・黒田東彦総裁
日銀・黒田東彦総裁

    黒田総裁は「まったくそういうふうに考えていない」と否定したうえで、こんな説明をしていった。

 「2013年1月に日本銀行の政策委員会の独自の判断で2%の物価安定目標を決め、それが政府と日本銀行の共同声明にも採用され、2013年4月から、質的金融緩和が始まったわけだが、そうしたもとで、それまで15年続いたデフレはデフレでない状況になり、ベアも復活し、経済成長も復活し、そうしたもとでデフレではなくなったわけですが、残念ながら2%の物価安定目標は達成されていなかったということです。そうしたなかで、雇用も非常に大きく拡大し、所得も幅広く上昇したことがあるので、指摘のようなことはまったくなかったというふうに考えている」

 こう答えた黒田総裁に「実質賃金は下落しているではないか」と反論したいと思ったが、「日銀総裁会見では再質問はしないのが慣例」と聞いていたので反論的な質問は控えた。

 この質問をする際に参考にしたのが、「上がらない賃金『日本だけが異常』 求められる政策の検証」という見出しの6月15日の東京新聞の記事だ。このなかで、『賃金の下落』の著者である吉川洋・東大名誉教授は「(出版した2013年)当時も今も、先進国で日本だけ賃金が上がらない異常な状況は変わっていない」と指摘し、続いて日本総研の河村小百合氏も「日銀は各国と同様、緩和政策を柔軟化して金利を上げるかどうかの検討が必要だ。生活に大きな影響を与える以上、日銀の政策も参院選で議論すべきだ」とコメントしていた。「約10年間のアベノミクスで物価高と実質賃金下落を招いた以上、継承するのか見直すのかを参院選の争点にすべきだ」と提案したともいえる。この記事内容に沿って黒田総裁に質問をしたが、答えは「見直さない」だった。

 こうしたアベノミクス継承の姿勢に野党は攻勢を強めている。立民の小西洋之参院議員(千葉選挙区)は「現在の物価高騰はアベノミクスインフレだ」と切り出し、このままでは「岸田インフレ」になるとして金融緩和の見直しを求めていた。

 「(物価高は)もちろんエネルギー問題もあるが、輸入物価全体で3分の1は円安の影響だと岸田総理も認めているわけだから、(金融緩和の推進を掲げる)『政府日銀の共同声明』を見直す気がないのであれば、異次元の物価高騰は『岸田インフレ』というべき失策ではないか」(5月30日の参院予算員会)。

 実際、アベノミクスが物価高を招くデメリット(副作用)については、2012年12月に第二次安倍政権が発足した当時から指摘されていた。『デフレの正体』『里山資本主義』の著者でアベノミクス批判の急先鋒でもある藻谷浩介氏は、「安倍の円安政策は日本を滅ぼす」と銘打った2012年12月4日の日刊ゲンダイの記事でこう批判していた。

 「円安になれば燃料輸入額は増え、ガソリンや灯油も値上がりします。円高、円安にはそれぞれメリットデメリットがある。目下の日本では円高の方が大多数の日本国民にとってプラスです」

 しかし安倍首相(当時)は藻谷氏の警告に耳を傾けず、異次元金融緩和に邁進、円安加速で国民が物価高に苦しむ事態に陥ったところに、ウクライナ侵攻による物価高騰が加わった。平時と有事の物価高というダブルパンチで国民生活は大打撃を受けたともいえる。しかし岸田首相も黒田総裁も「有事の物価高」ばかりを問題にして、アベノミクス見直しには踏み込もうとしないのだ。

 参院選最大の争点に物価高問題が急浮上、「安倍忖度の岸田インフレ」イエスかノーかが有権者に問われることになったのだ。7月20日の投開票結果が注目される。

■参考1 22日の立川駅前街宣を終えた安倍元首相への直撃(声掛け)

 ──「アベノ(ミクス)インフレ」と呼ばれていますよ。物価高の原因ではないですか、安倍さん。

 安倍元首相 視線を向けた後、何も答えずにグータッチを続ける。

 ──アベノミクスは失敗ではないですか。庶民が苦しんでいますよ、物価高で。反省、謝罪しないのか。

 安倍元首相 無言のまま。

■参考2 22日の立川駅前街宣を終えた丸川珠代議員への直撃

 ──丸川先生、アベノミクスが物価高の原因ではないのですか。

 丸川氏 まったく関係ないです。

 ──なんで関係がないのですか。円安を招いて物価高につながっているではないですか。

 丸川氏 無言。

 ──丸川先生、アベノミクスと物価高が関係ない理由、よく分からないのですが・・・。経済学の常識ではないですか。円安誘導で。

 丸川氏 無回答。

 ──先生、分からないのですが、アベノミクスの理由。(物価高が)アベノミクスと関係ない理由。教えてくださいよ。経済学の常識ではないですか。なんで、円安誘導で物価高になる理由が分からないのですか。

 丸川氏 全力疾走

 ──敵前逃亡ですか。全然、議論に答えないではないですか。

 丸川氏 車の窓を閉め切ったまま走り去る。

■参考3 22日の立川駅前街宣を終えた長島昭久議員への直撃(時限的消費税に賛成発言)

 ──アベノミクスが物価高の一因と思われないのですか。

 長島氏 全然違う。逆ですよ。

 ──円安を招いて物価高になる。

 長島氏 物価高はウクライナ戦争だから。

 ──その前にアベノミクスで円安に誘導していたのがダブルパンチになったかたちではないですか。

 長島氏 そうでもないのだって。これで金利を上げたら大変なことになる。

 ──でも(アベノミクスの)異次元緩和でこういう事態を招いた。(物価高の)土壌をつくったのではないか。

 長島氏 全然、局面が違うから。それは、前のことと今のことを比較されても困ってしまう。

 ──(第二次安倍政権が誕生してアベノミクスが始まった)10年前に比べてこれだけ円安になったから(ウクライナ侵攻起因の物価高との)ダブルパンチで庶民が苦しんでいる。これだけ円安になっているのは問題ではないですか。

 長島氏 そうね。でも、これを乗り越えれば、円安効果が出てくる。

 ──どうやって乗り越えるのか。

 長島氏 円安で海外から観光客がどんどん来て。

 ──それまでは庶民は物価高で苦しむということですか。
(聴衆との立ち話で一時中断)

 ──日米金利差でもっと円安になるのではないですか、このままだと。

 長島氏 だって向こう(アメリカ)だってドル高を容認しないから、アメリカだってこれから政策転換をしていくから。インフレを乗り切ったら今度は――。

 ──インフレを乗り切りろうとしてアメリカは金利を上げて、日本は上げないのでは(さらに円安加速で物価高になる)。これから日本も(金利を)上げるのですか。これから金利を上げていくのですか、金利を日本も。

 長島氏 日本はしばらくは上げない。だって、みんなコロナで借り入れて、これで金利を上げたら死んでしまう。(一時中断)

 ──では日米金利差が埋まらずにますます円安が加速するのではないですか、このままだと。

 長島氏 しばらくは仕方がない。

 ──その間は庶民が物価高に苦しむと。

 長島氏 そこは財政で補てんしていくわけです。

 ──消費減税はなぜやらないのか。

 長島氏 それは、やった方がいいと俺は思う。

 ──やった方がいい! ぜひ自民党で言ってくださいよ。

 長島氏 それは本当はそうなのですよ。一回暫定でもいいから。イギリスだって時限的にやっているのだから。それはそう思うね。

 ──ぜひ岸田さんに言って。「アベノミクスの失敗を埋め合わせるのには消費減税しかない」と。

 長島氏 俺のいうことは聞かないよ。

 ──安倍さんも少しは反省した方がいいのではないですか。異次元金融緩和、10年間振り返るとやりすぎたと。

 長島氏 そんなことはないでしょう。

 ──儲かったのは(円安と株高で)大企業と金持ちだけでしょう。庶民は物価高で苦しむと。

 長島氏 いやいや。

 ──庶民は物価高で苦しんでいる。こういう惨憺たる結果になっているのではないか。今でもアベノミクス称賛ではちょっと、支持者の理解は得られないのではないか。

 長島氏 いやいや、そんなことはない。

 ──ぜひ、消費減税、期待していますので。

 長島氏 はい、はい。

【ジャーナリスト/横田 一】

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