ロシアのエネルギー戦略:ヨーロッパや日本を排除し、インド、中国を抱き込む
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、7月8日付の記事を紹介する。ヨーロッパの国々はロシアと戦争状態にあるウクライナへの連帯と支援を表明しています。戦争の終結が見通せないまま、ウクライナの戦後復興に向けての国際会議も開かれ、日本政府もできる限りの協力を行う用意があると前向きの発言を行いました。
しかし、ヨーロッパ正面において対ウクライナ支援のリーダー役を期待されているドイツでは危機的なエネルギー問題が発生しています。EU諸国はロシアへの経済制裁の一環として、ロシアからの原油や天然ガスなどの輸入を制限しており、最終的には全面的な禁輸を意図しているようです。とはいえ、これまでロシア産のエネルギーに大きく依存してきた国々にとっては容易ならざる事態に直面することになっています。
その最たるものがドイツです。ドイツの経済大臣兼副首相のハベック氏によれば「ロシアからの天然ガスの輸入が完全にストップすれば、この冬にはドイツ経済は立ちいかなくなる」と危機感を露わにしています。緑の党に所属するハベック大臣曰く「このままではドイツの製造業や物流は崩壊する。国民生活は災禍に見舞われるだろう」。
要は、「リーマン・ショックのエネルギー版が間近に迫っている」というわけです。これまでドイツは自然再生エネルギー政策を推し進めており、原発も廃止し、石炭火力も徐々になくし、太陽光や風力発電を重視してきました。もちろん、それだけではエネルギー需要を賄えないため、ロシアとの間でパイプラインを建造し、安価な天然ガスを輸入するという道を選んだのです。
今回の対ロ経済制裁の影響で、ロシアからのエネルギー供給がストップし始めており、今後3カ月ほどで、国民の経済負担は2倍から3倍に増大すると試算されています。そのため、ドイツ政府は国民に対して電力消費を大幅に減らすように呼び掛けを始めました。ハベック大臣は「皆で節電を心がけ、困難を乗り越えよう」と訴えていますが、工場や農場でのエネルギー不足への抜本的な解決策は見当たりません。政府のエネルギー庁の長官によれば「ドイツ経済はもってあと3カ月」とのこと。
現在のエネルギー備蓄量はロシアからの補給がストップすれば2カ月半でカラになります。これまで、あまりにもロシアのエネルギーに依存し過ぎてきた結果に他なりません。こうした状況では、ウクライナへの連帯や支援も「絵に描いた餅」になりかねないでしょう。もちろん、アメリカの思惑としては、ロシアとドイツを離反させることで、双方の力を削ぐことによって結果的にアメリカの影響力を温存することにあることは明白です。
実は、この状況は日本にとっても「他山の石」にすべき点は多々あります。なぜなら、三井や三菱が開発や投資に関わってきた「サハリン2」パイプラインもロシアが国有化を宣言し、日本への供給も停止する可能性が出てきたからです。日本政府はドイツと同じで、「国民への節電」を呼びかけるだけで抜本的な解決策を示していません。これでは日本経済も国民の生活もいつまで維持できるか怪しい限りです。
亡くなった安倍元首相はプーチン大統領と28回もの首脳会談を重ねてきました。しかし、戦後処理の一里塚となる平和条約の締結も実現できませんでした。そこに加えて、今回、対ロ経済制裁の先頭に立つことになり、ロシアからは「非友好国」と認定されてしまう有り様です。これでは念願の北方領土問題の解決はあり得なくなりました。それどころか、資源大国であるロシアと対立することで、中国や南北朝鮮とも交渉カードを手放すことになります。なぜなら、ロシアは日本との関係を放棄し、中国や北朝鮮、韓国との資源外交を加速しているからです。
日本は「サハリン2」の行方に関心が集中していますが、実は「サハリン1」も日本にとっては重要な資源調達のパイプラインに他なりません。サハリン2は天然ガスですが、サハリン1は原油を日本へ供給する役割をはたしてきました。このサハリン1の権益をインドの石油企業が買収すると名乗りを上げました。
これによって、ロシアは自国産のエネルギー源をウクライナ戦争が始まる前を上回る勢いで輸出できるようになったわけです。アメリカ主導の経済制裁はまったく効果がないどころか、ヨーロッパや日本の経済事情を悪化させるという逆効果を生んでいると言っても過言ではありません。
要は、BRICSの中心メンバーであるロシア、インド、中国がかつてないほど連携を強めているのです。さらに驚くべきことは、サウジアラビアの動きでしょう。現在、バイデン大統領はイスラエルを皮切りに中東歴訪の途上にあります。最大の狙いはサウジアラビアに対して原油の増産を要請することに置かれているようです。
なぜなら、アメリカ国内のみならず世界的なエネルギー価格の上昇を受け、最大の産油国であるサウジアラビアを説得することが西側のトップであるアメリカの責任と見なされるようになったためです。ところが、肝心のサウジアラビアはアメリカに門前払いを浴びせるかのように、「原油の増産は行わない。BRICSへの加盟を検討し、裏付けのないドルに代わる資源を背景に持つ新たな国際資源通貨の創設に加わりたい」と言い始めました。
これにはバイデン大統領もビックリ、真っ青でしょう。一事が万事です。ウクライナ危機をきっかけに、ロシアとアメリカの代理戦争が継続中ですが、BRICSを中心に途上国の大半はロシア、中国、インド連合体へ与する動きを加速させているのです。日本はアメリカと違い、エネルギーも食糧も自給率は最低レベルにとどまっています。アメリカのいうなりになるのではなく、独自の資源獲得外交に知恵を絞るべき時だと思います。
次号「第304回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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