アベノミクスの歴史的功績と日本の未来~追悼セミナー(2)(前)
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NetIB-Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は8月3日号の武者陵司代表の講演録「アベノミクスの歴史的功績と日本の未来」を紹介する。ストラテジーブレティン前号にて、産経新聞ワシントン駐在客員特派員・古森義久氏の「安倍晋三氏と日本、そして世界」を掲載している。
アベノミクスの歴史的功績と日本の未来~アベノミクスは失敗したという詭弁
武者 陵司 講演録
古森さんから安倍元首相の全体像、そして政治あるいは外交・安全保障という観点からの話をしていただきましたので、私は経済の側面から安倍政治が一体何をもたらしたのかを中心にお話を申し上げます。
(1)アベノミクスの大いなる成果
アンフェアなアベノミクス批判
アベノミクスが始められたころ、はたして今我々が目にしているような成果が得られるかどうか、疑心暗鬼の見方が満ち溢れていた。しかし、その7年8カ月の間に日本経済は劇的に変わった。そしてそのことを多くの日本人は知らない、あるいはメディアはほとんど報じていない、これは実にアンフェアである。そこで一体、第二次安倍政権の間に日本経済がどれだけ変わったのかということについて説明したいと思い、下の表をつくった。
まず名目 GDPであるが、2000年頃から2012年末に第二次安倍政権が誕生するまで、日本のGDPはほぼ500兆円でまったくフラットであったが、安倍政権が終わる直前の2019年には558兆円と1割増となった。これは年率1.2%増であるから世界のなかでは低成長グループではあるが、過去の停滞からは脱却したと言っていい。しかし株価は周知のように、安倍政権誕生時には8,644円だった日経平均が退陣時には2万3,475円と2.7倍になった。これは米国を除けば世界最高水準の伸びである。為替は誕生時84円/ドルが退陣時20年9月に105円/ドル、今日では136円/ドルと劇的な円安となった。アベノミクスが実現したのは円安と株高だけだったという冷ややかな評価が多いが、それは間違いである。
大幅な雇用増と女性の社会進出
アベノミクスで一番重要な成果は、何と言っても雇用である。2000~2012年頃まで6,300万人前後で停滞していた就業者数は、安倍政権退陣時には6,700万人と400万人の増加となった。失業率は4.3%から2.2%へ、有効求人倍率は0.83倍から1.63倍へと劇的に改善した。最低賃金も2012年の749円から2019年には901円と長期停滞を脱した。平均賃金が上昇しないことを指摘する向きは多いが、コロナ禍勃発直前までのタイトな労働需給は、賃金が上昇する寸前までいっていたことを物語る。それからもう1つ顕著なのは、女性の社会進出である。2012年の女性の労働力化率(就業率)は60.7%と先進国のなかではかなり低い方であったがこの7年8カ月の間に70.9%と米国を大きく上回るレベルまで高まった。
企業収益と税収の劇的改善
しかしより大きなアベノミクスの成果は企業の収益であろう。2000年から2010年そしてアベノミクスが始まる2012年まで40兆円台で推移していた法人企業の経常利益はアベノミックスが終わる2019年度に71兆円、2021年度には87兆円と倍増している。
図表4: 日本企業の売上高経常利益率(経常利益48.5兆円→71.5兆円→86.7兆円)
また、政府の財政バランスも大きく改善した。プライマリー財政政バランスはアベノミクスが始まる直前-8.2%であったものが、安倍政権が終わるときには-2.9%と約5ポイント上昇した。2度にわたる消費税増税と景気の拡大による所得税の増加が大きく寄与した。注目すべきは税収の顕著な増加である。2012年度の日本の一般会計税収は44兆円であったが2019年度は58兆円、2022年度の予算では65兆円と、10年前比5割増となっている。
年金財政の顕著な改善、運用益20兆円から100兆円に
さらに年金財政が運用益の増大により大きく改善した。公的年金基金(GPIF)の直近2021年度末の運用資産は197兆円、これに対して105兆円が累積運用収益である。2012年度末のGPIFの運用資産は120兆円、対する累積運用益は25兆円であった。2013年以降アベノミクスによりGPIF改革がなされてから今日までの運用資産は77兆円増加、累積運用益は80兆円増加であったから、年金財政の改善はもっぱら運用益の増加であったことが瞭然である。
なぜこれほどの運用収益改善が可能になったかといえば、そのすべてはアベノミクスの成果といえる。GPIFのポートフォリオを概観すると、2012年には62%と過半を占めていた国内債券が24%に引き下げられ、その部分を国内株式(15%→24%)、外国株式(12%→25%)、外国債券(10%→24%)にシフトさせた。2012年度末から2021年度末への累積運用収益増加額80兆円の内訳は国内株式27兆円、外国株式41兆円、外国債券9兆円となっており、2013年のGPIF改革(基本ポートフォリオの見直し:国内債券を60%±8%から35%±10%へ)が決定的に影響していたことがわかる。
これと軌を一にし、日銀はGPIF、民間金融機関、郵貯のもっている国債を量的金融緩和によって大きく肩代わりした。日銀の国債保有比率は2012年末の11%から2020年末には48%へと上昇した。リターンを生まないor 含み損になりかねない国債を日銀に肩代わりさせることで、GPIFや民間金融機関の資金運用が大きく自由化し、高い運用収益が可能になったのである。
図表8: 日本国債 投資主体別保有比率(12年:日銀11%、民間+公的74% → 20年: 日銀48%、民間+公的38%)
このように株が上がって運用益が劇的に高まっても、富裕層が報われているだけで庶民は幸せになっていないと喧伝する向きが多いが、それもまったく的外れである。
高まった幸福実感、自殺者の急減と寿命伸長
幸福感(well-being)を自殺者数と平均寿命で見ると、アベノミクスの前と後で顕著な改善がある。自殺者数は1997年の金融危機勃発・デフレ陥落以降失業率の急上昇とともに大きく上昇し3万2,000人前後で推移していたが、2019年以降2万人前後へと大きく低下している。また世界最長の平均寿命はアベノミクスの下でさらに伸びている。
図表9: 大きく低下した失業率と自殺者数/図表10: 安倍政権下で世界最長の寿命が延びた
このように見ていくと、2%のインフレ目標が達成できていないからアベノミクスは成功していない、などという主張は根拠薄弱どころか、白を黒と言い含める詭弁とすらいえるのではないだろうか。
(つづく)
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