アベノミクスの歴史的功績と日本の未来~追悼セミナー(2)(後)
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NetIB-Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は8月3日号の武者陵司代表の講演録「アベノミクスの歴史的功績と日本の未来」を紹介する。ストラテジーブレティン前号にて、産経新聞ワシントン駐在客員特派員・古森義久氏の「安倍晋三氏と日本、そして世界」を掲載している。
需要創造のための良いインフレ
正しい解決策には、生産性以上に労働賃金を引き上げ、家計消費を持続的に増加させることである。そのためには、適度のインフレが必要であるが、いまの米国でそれが起きている。2015年くらいを底にして労働分配率が上昇し、またユニット・レーバーコストも上昇に転じている。こうした動きは、賃金上昇による消費の増加、格差の縮小、資本退蔵の解消という観点から望ましいことである。
現在、アメリカではインフレを抑制するための金融引き締めが行われている。しかし同時に米国政府と中央銀行は、オーバーキルを回避し、良いインフレが継続するように尽力するだろう。2023年には米国経済の立直りが期待できよう。この点はほかの機会に詳述したい。
図表14: 現在の米国・先進国経済の基本問題-高利潤と低金利の併存/図表15: 米国労働分配率と景気推移/図表16: 米国単位労働コスト推移
長期停滞に入りつつある中国経済
それに対して中国経済は困難が強まっていくだろう。IMFは2022年の中国GDP見通しを3.3%へと引き下げたが、これを機に中国は長期経済停滞に陥っていくだろう。1. 投資減→バブル溶解・投資余地なし・地方財政困難、2. 輸出減→世界需要減速・対中貿易摩擦、3. 消費困難→失業増・家計債務余力無・企業賃上げ余力無、の3重苦が続いていくことは避けられない。緩慢なる不動産バブルの崩壊と金融の不良債権化が進行していくだろう。
外貨市場に不審な動きが起きている。2021年経常収支の黒字は3,173億ドルと巨額なのに、対外純資産は3,035億ドル減少した。合計2021年6,208億ドルの対外純資産消滅が起きている。アンダーグラウンドの資金流出か、巨額の投資損失か、帳簿の改ざんか、要警戒である。一帯一路構想により中国の新興国への投融資が急増、新興国債務2,300億ドルのほぼ5割を中国に負っており、それが不良資産化するリスクもある。
2022年は中国経済の減速、米国のインフレ、ドル高もあり、名目経済成長率において初めて米中格差が拡大する年になるだろう。中国経済は中進国の罠に陥る公算が高まっており、永遠に米国に追い付けないという可能性も出てくるのではないだろうか。
困難化に向かうユーロ圏経済
もう1つ重要なポイントはヨーロッパにおける変化である。ユーロ圏の一体化と成長は、ドイツによって牽引されたわけだが、ではドイツの飛躍は何によって可能になったのかというと、それは対中・対ロシアとの連携強化によってなされた、と言ってよい。エネルギーのロシア依存を大きく高め、通商を中国に依存するというシフトがユーロ圏の繁栄の背景にあった。図表18は中国の国別輸出入の推移だが、2011年頃からの10年間、中国の対日本、対米国、対韓国からの輸入はほとんどフラットであったのに、その間大きく伸ばしたのがユーロ圏、とくにドイツからの輸入である。こうしてドイツは巨額の貿易黒字を築き、その余剰を南ヨーロッパ(スペインやイタリア、ギリシャなど)にECBのユーロ・システムを通してファイナンスするというパターンがユーロ圏成長の土台となった。
そうしたドイツ主導のユーロ圏の繁栄は持続可能とは思われない。まず対中関係はこれから悪化していく。そしてまた、ロシアに著しく偏ったエネルギー依存体制は、ウクライナ戦争によって破綻した。つまりユーロ圏全体の成長のスキームに大きな疑問符が付きつつある。
しかし、欧州のなかで唯一イギリスだけはそのような制約から離れている。イギリスはブレグジットによりEUから離脱した途端、ユーロ圏に対する貿易赤字が大きく減少している。
このように、アメリカの繁栄そしてユーロ圏の困難化、中国のますますの停滞という中長期展望が描かれる。そのなかで、日本はアメリカあるいはイギリスと連携を進めようとしているが、それはまさしく経済という観点からも適切な戦略であるというように言っていいように思う。
安倍政権が外交面で打ち立てた構想は、経済面でも大きな成果に結びつく可能性が高いものといえる。以上が、武者リサーチが安倍政治を歴史的なものと高く評価する理由である。
(了)
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