『データが示す福岡市の不都合な真実』を読んで(3)所得減が出産意欲減、人材離れの要因
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木下敏之福岡大学経済学部教授の新刊『データが示す福岡市の不都合な真実』を読み、共鳴することが多くあった。筆者なりの所感・指摘を5回にわたって連載する。各データは主に同著から引用している。
購読され、各データ・指数をご覧になることをお薦めする。
福岡市民の1人あたり所得減の衝撃
「九州各県からの流入人口が必ず減る」とこのシリーズ1回目で断言した。となると福岡市には自力で人口増の努力をすることが求められる。ところがシリーズ2回目では、福岡市では出生率が低いだけではなく、家族を維持すこと自体が困難だと指摘した。
福岡市の出生率は九州で最も低い1.32、さらに区ごとに見てみると中央区0.91、博多区1.21、城南区1.30とさらに低い数字が並んでいるのである。とてもじゃないが、自力更生の構図をつくるのは不可能であることは自明なり。
この時点では、筆者は「都市福岡という自由気ままに、他人の目もはばからずに生きられる空間に満悦できたからこそ、子づくりに専念してこなかった」と考えていた。だが福岡市1人あたり年間収入が減っていることを知って、驚愕したのである。1996年と2018年で比較すると、前者は343万円なのに対して、後者は334万円となる。22年間で年収が9万円減っているのだ。
仮に福岡の人口が増えても、流入してくる若者に所得増を保証できなくては、若者たちが子づくりに励む気持ちになれないのは当然であろう。やはり収入増が期待できない経済状態は厄介なものである。
昔は精神的、地域的な豊かさがあった
筆者の持論は、「世帯年収が600万円を超えれば、家庭づくりに余裕と長期的な計画性がもてる」というものである。筆者は1976年8月、28歳で家を建てたのでなく建売を買った。この当時は、意外と共稼ぎが少なかった。しかし、夫1人の稼ぎでも落ち着いた家庭環境を保つことができた。お隣さんは福岡から日帰りの距離で貨物を運ぶトラック運転手さん。朝7時半ごろに出勤して、午後6時過ぎには帰宅する。子どもも2人いた。奥さんものんびりした方であった。3軒先は工務店で現場勤務。ここの奥さんも2人の子どもを育てることに、おっとりと専念していた。ブルーカラーの家庭でも、ガツガツお金を稼がずに生活できていたのだ。
しかし、現代では父親1人の稼ぎで年収600万円をまかなう世帯はいったい何パーセントいるであろうか?共稼ぎの理想は夫の稼ぎで家計をまかない(子ども養育費など含む)、妻の年収300万円には手をつけずに貯金することだ。すると、10年で3000万円の貯金が溜まることになる。だが現代の経済状況でこれを実現しようとすると、1976年当時とは比較にならない慌ただしい生活を送る羽目になる。気分的な余裕はまったくない。
理系の人材が東京、関西へ
「大卒後、何処に就職するのか」。これも注目の案件である。とくに理系の卒業者たちがこの福岡にどのくらい定着するのかに注目したい。九州大学1学年の、学部ごとの定員数をご覧いただきたい。総定員数2,549名に対し、理系学部は1,832人になっている(73%)。この理系学部の就職先を聞き取りしてみた。福岡市および県内にとどまる人が25%、出身地で就職する人が5%、残り75%は東京・関西へ就職するとのこと。福岡には、待遇面でもやりがいの面でも、せっかくの魅力的な人材に見合う企業が少ないのであろう。
私立大学の工学系学部でも似たようなデータを得た。福岡地元に踏みとどまる人が30%前後、九州各県の出身地に戻る人が20%、そして約50%の人が中央(東京)へ活路を見出す傾向にあるようだ。福岡は卸・物流サービス業のウエイトが高く、理工系出身者を満足させる職場が少ないということを意味する。どうであれ、この数字には悲しい現実が横たわっている。
高所得を得られる機会がなく、有能な(新卒)は福岡を離れる
福岡で各人な年収を保証(毎年昇給可能)できる勤め先は、公務員しかない。国家公務員、福岡県・福岡市の職員、教職員等々だ。ある女性は長年教職員見習いの立場で務め続け、35歳になって英語教員として正職員に採用されたとき、父親は涙を流して喜んだという。お薦めなのは警察勤務だ。筆者が強調する「年収600万円」には十分到達する。商工会議所(商工会)の職員もお勧めする。公務員に準ずる立場だから確実である。結婚5年目の夫は商工会職員。夫婦共稼ぎの合わせ技で、年収1,000万円を確保している。しかし、誰も彼もが安全パイの職種に駆け込んだら、社会は成立しない。そもそも、彼らの給与は民間人が働いて納めた税金から支払われているのである。
福岡市の民間企業で、東京本社の大手企業と対等な給料を支払える実力があるところは稀有である。いわゆる七社会と呼ばれる企業間でも格差がついた。マスコミ、銀行はかつて憧れの職種だったが、一生面倒を見てくれるかどうかは怪しくなってきた。福岡本社で年収1,000億円規模の小売・流通の企業でも、年収1,000万円に辿りつく社員はほんの一部である。
目ざとい人ならば、東京本社の福岡の出先機関に入り込むことに必死になる。着眼点がすばらしい。これは一案で、おすすめする。どうであれ福岡市の産業勃興戦略には、「稼ぐ、待遇卓越」という狙いを定めないといけない。高収入、好待遇など経済的メリットがなければ、卓越した人材の福岡定着はあり得ない。
救いは建設業の活性化
あるとび・土工企業の要約貸借対照表を紹介する。2023年期は、間違いなく完工高100億円を突破する(3,000億円を超える工場建設の受注も控えている)。この勢いが続けば、同社の従業員・関係する職人には年収600万円を保証できる。ブルーカラーの職員の収入が安定すれば、社会全体に潤いが行き届くことになる。他の建設業界も同様に活況を呈している。経常利益率が10%を超える企業は数多くある。
都市福岡の大改造は、未来永劫続くものではない。今後5年間は建設・不動産業が福岡の経済を牽引してくれるであろう。この期間に新たな産業を勃興させることが、福岡には問われている。「未来に向けて稼ぐ、待遇卓越」。こんなスローガンを掲げる企業育成に、官民一体で取り組む必要がある。これが実現すれば、優秀な若手人材の福岡定着の比率はグッと高まるであろう。
(つづく)
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