2024年07月17日( 水 )

フクシマ事故再発は時間の問題

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「岸田内閣の原発再稼働は、再度の原発事故を呼ぶ」と訴えた8月30日付の記事を紹介する。

岸田内閣が予想通り原発再稼働を全面的に推進し始めた。

7月10日の参院選まではあいまいな言い回しを続けたが、選挙が終わり発言を変えた。

8月24日に開いたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で岸田文雄首相は、

「原子力発電所については再稼働済み10基の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応をとっていく」

と述べた。

さらに、

「原発再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など」

の項目が示された。

その理由として岸田首相が掲げたのは

「グローバルにどのような事態が生じたとしても国民生活への影響を最小化すべく、事前にあらゆる方策を講じること」

「電力需給逼迫の克服のため、あらゆる施策を総動員し、不測の事態にも備えて万全を期していくこと」

だった。

経産省演出の三文芝居が演じられている。

ウクライナの戦乱、盛夏を利用して、経産省は「電力危機」を演出してきた。

多少の暑さ、多少のエネルギー価格の高騰で電力の安定供給が揺らぐのは政府・経産省(エネ庁)のエネルギー政策の失敗を示すものでしかない。

自らの失策を原発の全面推進に利用するのは「盗人猛々しい」というほかない。

選挙前は牙を隠し、選挙が終わった途端に牙をむき出しにするのもえげつない。

しかし、この路線は見え見えだった。

岸田氏は昨年9月の自民党総裁選の時点から原発稼働推進に前のめりの姿勢を示してきた。

財政運営では財務省の言いなりになり、エネルギー政策では経産省・エネ庁の言いなりになる。

官僚支配政治に先祖返りしている。

フクシマ原発事故から11年の時間が経過し、フクシマの教訓を葬り去る岸田氏が次の悲劇をもたらすのは時間の問題といえる。

日本では現在、原子力緊急事態宣言が発出されている。

2011年3月11日に発出された「原子力緊急事態宣言」は発出されたままなのだ。

一般公衆の被曝上限は法律によって年間1ミリシーベルトに定められている。

ところが、「原子力緊急事態宣言」発出中である非常時の緊急対応として年間線量20ミリシーベルトの被ばくを国民に強要している。

国際的に確立されている科学的知見は累積被ばく線量が100ミリシーベルトを超えるとがん発症率が有意に上昇するというもの。

20ミリシーベルトの被ばくは5年が経過すれば累積線量100ミリシーベルトに達する。

この殺人的施策が実行されている。

フクシマ原発事故の発生原因は特定されていない。

津波によって原発電源が失われる前に、地震の揺れによって原発が損傷した疑いが払拭されていない。

最大の問題は日本の原発の耐震設計基準が十分でないこと。

福島事故以前、日本の原発の耐震設計基準はほとんどが400ガル程度に定められていた。

福島事故を受けて基準が引き上げられたが、それでも耐震設計基準は450ガルから800ガルの水準までしか引き上げられていない。

しかし、日本では1500ガルを越える揺れの地震が頻発している。

そして、その1500ガルを越える揺れは日本列島のすべての場所で発生する可能性がある。

日本の原発の耐震設計基準が400ガル程度に定められていたのは、かつて、関東大震災の震度が7で、ガル数は350ガルないし400ガル程度だと思われていたことによる。

100年に一度、1000年に一度しか発生しないような巨大地震でも、揺れの強さを示すガル数は400ガル程度と考えられていた。

このために、耐震設計基準が400ガル程度で原発が建造された。

ところが、この見解が事実とかけ離れた誤判断であることが判明した。

現在では震度7が1500ガル以上に相当することが判明しており、しかも、1500ガルを越える地震動が頻繁に発生していることが明らかになった。

阪神淡路大震災を契機に全国にたくさんの地震計が置かれるようになり、地震の正確なガル数が計測できるようになり、かつての知見の誤りが明白になった。

ところが、日本政府はほぼすべての原発耐震性能基準を700ガル以下に留めたまま。

いつフクシマ事故が再現されてもおかしくない状況にある。

この状況下で原発稼働を推進してよいわけがない。

福井地方裁判所の樋口英明裁判長(当時)は大飯原発の耐震設計基準が不十分であることを理由に運転差止命令を発した。

日本は世界最大の地震大国。

日本では1500ガルを越える揺れの地震が頻発している。

現在では震度7が1500ガル以上に相当することが判明している。

過去20年間を見ても1500ガルを越える地震動が頻繁に観測されている。

2008年 岩手宮城内陸地震  4022ガル
2004年 新潟県中越地震   2515ガル
2018年 北海道胆振東部地震 1796ガル
2016年 熊本地震      1740ガル

これらの現実を踏まえて三井ホームは耐震設計基準を5115ガルに定めた。

住友林業は耐震設計基準を3406ガルに定めた。

過去約30年間における最大の揺れは2008年岩手宮城内陸地震で観測された4022ガル。

消費者に地震に耐えられる住まいを提供する住宅メーカーは「耐震住宅」の設計基準を5115ガルや3406ガルに設定した。

順当な判断だろう。

この事実を踏まえれば、どのような事態が生じても過酷事故を引き起こしてはならない原発の耐震設計基準を5000ガルよりもはるかに高い水準に設定しなければならないことは当然。

一般住宅と原発の耐震設計基準が同水準で良いわけがない。

※続きは8月30日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「フクシマ事故再発は時間の問題」で。


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