2024年06月25日( 火 )

農地転用は開発用地捻出の“切り札”となるか?(2)

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アサヒ移転を歓迎の県・市、周辺アクセスも向上へ

 佐賀県知事の山口祥義氏は、今回のアサヒビール新工場の進出に対して「アサヒビール(株)の佐賀県への進出を心から歓迎します。佐賀県の災害の少なさやアクセスの良さなどから選んでいただき、とても感激しています。ともに未来に向け、さまざまなコラボで多くの感動を生み出していきたいと思います」との歓迎のコメントを発表している。

 一方で、鳥栖市長の橋本康志氏は、「アサヒグループの次世代生産体制のモデル工場と位置付けられた新九州工場(仮称)の候補地として、鳥栖市を選定いただいたことを大変光栄に思います。本市といたしましては、アサヒグループのご決断と本市への期待を大変重く受け止めております」と歓迎の意を示したうえで、「なお、新産業集積エリア整備事業の用地取得において、地権者の皆さまをはじめ多くの皆さまにご迷惑とご心配をおかけしておりましたので、これまでご協力くださった皆さまの想いを無駄にすることのないよう、今後、市議会にお諮りし、土地売買契約の締結に向けて、佐賀県とさらに連携を密にして、しっかりと進めてまいります」というコメントを発表。これまでの新産業集積エリアをめぐるゴタゴタについても多少は言及しているあたり、これ以上ない企業誘致の成功によって停滞していた整備事業が前に進みそうで、橋本市長としても少しは肩の荷が下りたような心境だろうか。

 なお、候補地(新産業集積エリア鳥栖)の現況については、最寄り駅となるJR鹿児島本線・肥前旭駅から約500mの距離であることに加え、幹線道路である国道3号まで約2km、長崎自動車道・鳥栖ICからも国道3号を経由して約7kmと、一見、交通アクセスに優れているように思える。ただし、ICから候補地に至るまでの国道3号の区間は片側1車線となっているうえ、車両通行量も多いことで渋滞が慢性化。また、候補地の南側に隣接して走る中原鳥栖線(佐賀県道336号)も道路幅が狭く、自動車によるアクセスは決して優れているとはいえない。

 JR肥前旭駅
 JR肥前旭駅

 ただし、現在、候補地横の安良川に架かる中原鳥栖線の鳥南橋の架け替え工事(新・鳥南橋は17年11月に竣工済)が行われているほか、候補地から北東約4kmの場所では、九州自動車道・味坂スマートIC(仮称)の整備が進められている。同スマートICは、九州自動車道の鳥栖JCTと久留米IC間に追加されるスマートICで、24年3月末の開業を予定。開業すればアサヒビール新工場から高速道路へのアクセスが各段に向上するうえ、周辺道路の混雑緩和にも寄与することが見込まれる。アサヒビール新工場の開業は26年を予定しているため、開業までには周辺の道路インフラ整備などもある程度進んでいきそうだ。

整備が進む九州自動車道「味坂スマートIC(仮称)」
整備が進む九州自動車道「味坂スマートIC(仮称)」

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 ここまで前段では、アサヒビールの工場移転をめぐっての農地転用による用地確保について触れてきた。

 福岡都市圏においては、依然続く人口増を背景に旺盛な都市開発が続いている一方で、前出の鳥栖JCT周辺エリアや高速ICなどの交通結節点の至近地においても、増加する物流需要を背景に、物流拠点や工場などの開発が相次いでいる。その開発用地については、都市部では天神ビッグバンや博多コネクティッドのように既存建築物を取り壊した跡地での再開発などが多い一方で、地方部においては農地転用による開発事例が多く見られる。前述の服部知事のコメントにあるように、福岡県内においてはまとまった開発用地の捻出の選択肢として、農地転用は避けては通れない状況のようだ。

 そもそも農地転用とは、農地を農地以外に転用することをいい、農地法によって規制されている。前述の服部知事のコメントに「農地転用や用地買収に期間を要する」とあるように、いざ農地転用しようとしても、その基準や許可、煩雑な手続きなど、なかなか一筋縄ではいかないのが現状だ。ここからの後段では、その農地転用の現況やポテンシャル、是非などについて論じてみたい。

【坂田 憲治/代 源太朗】

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