2024年12月22日( 日 )

経営がひっ迫する精神科救急医療 求められる地域包括ケアシステム(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

岡田メディカルインベストメント(株)
代表 岡田 勢聿 氏

 2002年にスタートした精神科救急入院料病棟は、診療報酬において、1996年に新設された精神科急性期治療病棟をしのぐという意味から、「スーパー救急病棟」と呼ばれる。これは精神科で最も高い医療費が設定されていることで、精神科病院の経営上重要な位置を占めるものの、夜間・休日の時間外患者受け入れ実績や、病床の半分以上が個室であること、新規の入院患者の6割以上が3カ月以内に退院することなど、運用面での厳しい条件が経営をひっ迫させ、精神科救急医療体制に関する課題が数多く指摘されている。

実情に合わない医療体制(つづき)

 ここで福岡県における精神科救急の現状を見てみる。県内では年間で約2,000件の連絡が精神科救急システムに入ってくる。内訳は、本人および家族からの連絡が約60%、保健所からが約15%、警察・消防が約10%となっており、地区別に見ると、福岡都市圏が約50%を占めている。

 また、時間帯は日中(午前9時~午後5時)が約25%、夜間(午後5時~午前零時)が約50%、深夜(午前零時~午前9時)が約25%で圧倒的に夜間の連絡が多く、平日よりもクリニックなどが休診の土日祝が多い。

福岡県精神科救急システムへの連絡内訳(年間約2,000件)

 精神科救急システムは、福岡県内の精神科救急病棟や急性期病棟をもつ病院などが輪番制で対応している。問題となるのは前述の通り、精神科救急においては1次、2次、3次の概念が確立していないことだ。一般の疾患であれば、「この症状なら1次救急のあの病院、こちらは3次」などと判断し、該当する病院へ搬送するが、それが不明瞭なため、とりあえず当番の病院に連絡して、そこで受け入れが難しい場合は次の病院に連絡するかたちとなる。

 ある精神科医療関係者は、「非常に厳しい運用条件をクリアするために、たとえば午後1時に相談があったとしても、時間外の夕方5時以降にきてもらうようにするといった“涙ぐましい努力“をしている医療機関もあるようです。普通にやっていたら運用条件をクリアするのは至難の業ですよ」と証言する。

 福岡県の一般救急の場合、3次救急を担うのは九州大学病院や久留米大学病院、福岡大学病院といった大学病院や、済生会福岡総合病院や九州医療センターなどの救命救急センターを擁する病院だ。そうした病院に入った患者が超急性期を脱し、その後、2次、1次、在宅へという流れとなるが、前述のように精神科医療に関してはそうした仕組みが確立できていない。

精神科救急事例の分類

圏域ごとの体制整備が課題

 こうした実情に対して、厚生労働省は2017年2月にとりまとめた「これからの精神保健医療福祉の在り方に関する検討会」報告書で、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」構築の理念を示し、保健・医療・福祉関係者による協議の場を通じた関係者間の重層的な連携による支援体制の構築に向けた取り組みを進めている。

 具体的には、精神科救急に対応できる医療機関の明確化のほか、特定の医療機関に負担が集中しないように、たとえば、夜間・休日における精神科救急外来と精神科救急入院を区分して受け入れ体制を構築するなど、地域の実情を踏まえて連携体制を検討するとしている。

 これに対して都道府県や政令指定都市は、精神科救急医療体制整備事業を活用し、精神科救急医療体制連絡調整委員会の設置、精神科救急医療施設の確保とその円滑な運営を図ってきた。精神科救急情報センターを整備することで、救急医療機関や消防機関などからの要請に対して、緊急な医療を必要とする精神障がい者の搬送先医療機関の紹介などに努めるが、その精神科救急医療体制整備については精神科救急医療圏域の概念と圏域ごとの体制整備の考え方が定まっておらず、主体となる組織の欠如が顕在化している。

岡田メディカルインベストメント(株) 代表 岡田 勢聿 氏
岡田メディカルインベストメント(株)
代表 岡田 勢聿 氏

    精神科救急医療体制の確保については、精神保健福祉法第19条の11で、地域の実情に応じて体制の整備を図るよう努めるものとされている。今日の状況が続けば、いずれ国内各地域の精神科救急医療体制は破綻を免れられない。それを回避するためには、地域医療を支える医療機関が連携し、医療現場の視点から改革を主導して地域包括ケアシステムの構築を図っていく必要があるのではないだろうか。医療を必要とする患者のために、医療圏域ごとによる自律的な連携が求められている。

(了)


<プロフィール>
岡田 勢聿
(おかだ・せいいち)
1960年福岡市生まれ。福岡大学商学部卒業。83年麻生商事(株)入社。退職後、作業療法士国家試験に合格。92年に発達障害児施設「知徳学園」を開設。2005年に岡田メディカルインベストメント(株)を設立して病院経営に参画。現在は3つの病院で副理事長を務める。九州大学大学院医学研究院精神病態医学教室に専門習得生として在籍。

(前)

関連記事