2024年12月22日( 日 )

『データが示す福岡市の不都合な真実』を読んで(4)建設コンサルの視点

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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘

「福岡は丁度良い都市」に満足しすぎている

(株)アクロテリオン 代表取締役 下川 弘
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代表取締役 下川 弘

 福岡大学木下教授が発刊した「データが示す福岡市の不都合な真実」を拝読した。多くの資料・データをまとめており、それに基づいての先生ご自身の見解・政策提言も当を得た内容だと非常に感心し、読ませてもらった。木下教授がとくに伝えたいことは、「終わりに」の章の最後に書かれている「問題解決は、問題に気づくことから始まる」と第2部の「はじめに」のところに太文字で書かれている「福岡市の場合には、市民が現状に気づいていないことが一番の問題です」という文に尽きるのではないかと思う。

 8月に大東建託が「いい部屋ネット居住満足度調査」を行い、その結果「住みたい自治体ランキング」で福岡市が3年連続1位にランキングされたことは、福岡市内に住む筆者としても誇らしく、自慢に思いたいものであるが、こうした良い情報ばかりを目にしていると、本当に重要な現状の問題点に気がつかなくなってしまうのだろう。

福岡空港と地下鉄整備

 昨年、筆者は「2050年代を見据えた福岡のグランドデザイン構想」連載記事において、「福岡空港は近くて便利」とよく言われているが、現実は多くの問題点を抱えていて、それに向き合っていないだけと指摘した。

 「TEAM FUKUOKA」で国際金融都市を目指し、国際金融機関を誘致しようとしても、24時間利用できない空港しか持たない都市への人流・物流は、その時間的制約によってタイミングを逸してしまうのである。ましてや24時間動いている金融の世界を呼び込もうというのなら、なおさらである。

 逆に「24時間利用できる空港があれば国際金融都市になり得るか?」というと、北九州空港が海上空港に移転して10年以上経過するが、その旅客数、貨物量およびエアラインの参入数が示す通り、必ずしもそうはならないようだ。

 また、木下教授は福岡市地下鉄線の延長に関しても言及しているが、博多の森サッカースタジアムや空港国際線ターミナル、また毎日数万人が訪れるPayPayドームにアクセスする地下鉄がないこと、さらに南区には地下鉄の路線がなく、多くの市民が不便さを感じていることなど、福岡市交通局担当者の問題意識が欠けているように思えて仕方ない。

3空港の連携について

 北九州空港と佐賀空港との3空港連携に関する政策提言については、都市計画の分野を専門とする筆者は少しだけ異なる意見を有する。現実問題として3空港を新幹線などの交通インフラでつなぐ意義は見当たらないのである。空港の利用者にとっても、航空会社にとっても、何のメリットもないからだ。先に「24時間使えない空港しかない都市が国際金融都市にはなり得ない」と述べたが、24時間使える北九州空港でさえ、旅客数、貨物量、エアラインの参入は少なく、福岡空港の約10%前後しかない。つまり需要が少なく、魅力度に欠けるということである。そこに新幹線や高速道路を通し、福岡市中心部と直結させたところで、3空港の連携は難しいということだ。

 ただし、それらを踏まえたうえで提言されている東九州新幹線のルートの一部として、そこに北九州空港が入ることは、北九州空港の活用という点では大いに意義のある構想だと考える。筑後船小屋駅から佐賀空港を経由した長崎新幹線ルートについては、残念ながらルート変更は難しい時期になっており、可能性は低いと思われる。

福岡空港の利用延長に関して

 木下教授の同書には、福岡空港の利用時間が午前7時~午後10時までである理由について国土交通省大阪航空局福岡空港事務所に尋ねたところ、4点の回答があったとし、そのうちの1つとして「利用時間を規制する裁判の判決などもない」との項目があると述べている。この部分について、少し補足すると、昭和63年、福岡空港周辺の住民が「福岡空港騒音公害訴訟」として夜間飛行の差し止めを求めた裁判があり、平成4年3月6日に福岡高等裁判所にて「民事上の請求として、運輸大臣が設置し、管理する空港整備法二条一項二号所定の第二種空港を民間航空機の離着陸に使用させることの差止めを求める訴えは、不適法である。」として棄却(福岡高等裁判所 昭和63年(ネ)873判決)。同年、最高裁判所へ上告するも、平成6年1月20日最高裁判所第一小法廷においても、福岡高等裁判所での原審の判断に違法性はないとして棄却されている(最高裁判所大法廷 昭和51年(オ)395判決)。

福岡空港騒音公害最高裁判決
※クリックで全文表示(PDF)

 本来、福岡空港の運用時間は24時間であり、このように、夜間利用の規制を求めた訴えは棄却されているために、「判決はない」とされている。ただ、この判決後、地元住民との合意の上で、福岡空港は利用時間を午前7時から午後10時の間とするように自粛するように至ったというのが実情のようだ。

 こうした歴史的背景があるため、木下教授が「空港利用時間の延長ができるがどうかは、福岡市長の熱意にすべてがかかっているというのがわかった」と書かれているが、利用時間の延長を考えるには、地元住民との合意が最も重要であり、また福岡市長の熱意だけではなく、「TEAM FUKUOKA」として福岡県知事・福岡経済界も一緒に国と地元の両方に働きかける必要があると思う。


<プロフィール>
下川 弘
(しもかわ ひろし)
1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人、本社土木事業本部・営業部長などを経て、20年9月からは九州支店建築営業部・営業部長を務め、21年11月末に退職。現在は(株)アクロテリオン・代表取締役のほか、C&C21研究会・理事やハートフルリンクアジア協同組合代表理事などを務める。

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