2024年07月16日( 火 )

台湾を同盟国化し外交特権を付与 「日米台同盟」狙う台湾政策法案(後)

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共同通信客員論説委員 岡田 充 氏

 日本ビジネスインテリジェンス協会より、共同通信で台北支局長、編集委員、論説委員などを歴任し、現在は客員論説委員を務める岡田充氏による、ペロシ米下院議長の台湾訪問後の米国の台湾政策、とくに先日米上院に上程された台湾政策法案について論じた論考「台湾を同盟国化し外交特権を付与 『日米台同盟』狙う台湾政策法案」(21世紀中国総研HP掲載)を提供していただいたので共有する。

戦争計画を有機的に結合

空母 イメージ    台湾政策法案を見れば、米国の日本と台湾への要求がほぼ同様であり、日台共にそれに応じた安保政策を進めていることは明らかだ。台湾有事を念頭に進む日米軍事一体化と重ねて法案をみると、米国の軍事情報サークルが射程に入れているのは、米国を「要」にした「日米台同盟」である。

 そのためには台湾を同盟国にし、戦争計画(共同作戦計画の策定)をはじめ、兵器支援計画と軍事訓練計画も日米台で有機的に結合させなければならない。「台湾有事」に向けた「米日台同盟」の将来を判断するうえで、台湾政策法案は示唆に富んでいる。

 台湾を同盟化し、国防予算をはじめ、兵器支援計画や訓練計画を見ると、日米安保体制下で日本を属国化したのと同様、台湾も属国化しようとする米国の意図が透ける。民主という「共通価値観の共有」とは名ばかりで、米国にとって日本も台湾も対中抑止のカードに過ぎない。

進む南西諸島の戦場化

 ここまで書けば誰も想起するのは、岸田政権が年末に改訂する「国家安全保障戦略」など安保3文書だろう。これらは、現在GDP比1%の防衛費を5年程度で2%に倍増させ、相手の脅威圏外から長射程ミサイルを発射する「敵基地攻撃能力」(スタンド・オフミサイル)の保有を提言する予定。

 政府が9月1日に公表した3文書に関する「有識者意見聴取の要旨」によると、防衛費のGDP比2%への増額を「妥当」と支持する意見が多数を占め、敵基地攻撃能力保有も賛成が多く、「専守防衛」を見直すべきとの意見すらあった。

 菅義偉前首相は21年4月の日米首脳会談で、台湾有事を念頭に日米安保の性格を「対中同盟」に変え、防衛費の大幅増額と日米共同作戦計画の策定で合意。岸田政権もこの路線を忠実に継承している。この路線の根底にあるのは「台湾有事は日本有事」と述べ台湾有事を煽った安倍晋三元首相の「遺言」である。

 安保政策で、日本を裏から操るのを意味する「ジャパンハンドラー」の1人、アーミテージ元国務副長官は22年6月、有事の際に米政府が台湾に武器などを供与する拠点を、「日本に置くのが望ましい」と述べた。浜田靖一防衛相も9月、沖縄など南西諸島に、「武器庫と燃料タンクを増設する」と表明した。日米台の同盟化とともに、ますます現実味を帯びてきた南西諸島の「戦場化」である。

敵基地攻撃のばかばかしさ

 岸田政権が、対中抑止の「神様」のように力んで強調するのが、「スタンド・オフミサイル」の配備である。しかし「中国領内を攻撃して中国を軍事的に追い込んだ瞬間、我々は中国が核兵器を使用するという致命的な危険に直面することになる。敵基地攻撃なんぞに予算を投じることは正気の沙汰ではない」と指摘するのは、東アジア共同体研究所の須川清司・上級研究員である。

 須川は①第1列島線の中国側で制空権・制海権を握っているのは中国側②中距離巡行ミサイルの場合、沖縄発射のミサイルが上海に着弾するまで1時間。極超音速ミサイルでも8分。中国の移動式ミサイル発射台は攻撃をかわせる③中国と日本の航空機戦力差は3対1で、実際は「玉砕覚悟」の戦略になる――と手厳しい。

 確かに、1基560万~2,240万円もする高額ミサイルの配備を、対中抑止戦略の柱にするばかばかしさが見える。

経済封鎖と軍用機の上空飛行

 法案が成立した場合、中国はどんな対応に出るだろう。人民日報系の「環球時報」は昨年、米政権が台湾代表機関の改名に踏み切った場合の中国側対応として「駐米大使召還は最低限の対応」とした上、台湾への武力行使を法的に容認する条件を定めた「反国家分裂法」(2005年施行)の「レッドラインを越えた」と認定し「必要な経済・軍事措置を講じる」と警告した。

 具体的には、台湾に対する「経済封鎖と空軍機の台湾本島上空の飛行」を挙げた。ペロシ訪台に対する「大軍事演習」を越える規模の演習になり、台湾海峡は「武力行使」寸前の危険な状況に陥る恐れがある。

 米中関係に詳しい米ユーラシアグループのイアン・ブレマー氏は、大軍事演習を行った中国が「台湾について新たなレッドライン(越えてはならない一線)を引く公算も大きくなった。このレッドラインを試そうとする米政府高官がいずれ現れるだろう」と予測する。「台湾政策法案」が成立すれば、「新たなレッドライン」を踏むのは明らかである。

日中対話と外交回帰を

 米中間では7月28日の首脳電話協議で、双方が対面会談の可能性を探ることで合意し、バイデンは9月初めにも、インドネシア・バリ島で開くG20首脳会合などの場で初の対面会談実現に意欲を見せる。

 日本と中国は9月29日、国交正常化50周年を迎え東京では経団連などが主催する記念行事が開かれる。秋葉剛男国家安全保障局長は8月17日、中国天津で外交を統括する楊潔篪・共産党政治局員と会談した。

 会談時間は昼食をはさんで7時間を超える長時間におよんだ。双方が日中指導者間の会談実現に向けて、論点整理したのは間違いない。いま問われているのは、南西諸島を舞台にした戦争シナリオにブレーキをかけることだ。そのためには日中双方の信頼醸成に向けた対話再開と、平和的環境の構築に向けた外交の回復である。国葬などやっている場合ではない。

(了)

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