【時代を切り拓く女性経営者(2)】伝統を守りながら、柔軟に時代の流れに乗る
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中洲に博多割烹かじ、博多にすし割烹かじを経営する(株)かじ。今年で創業63年の老舗割烹だ。代表取締役社長加治冨美子氏に、100年企業を目指す経営者としての想い、変わりゆく時代と長いコロナ禍から学んだ企業精神、そして今後の展望について話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)
──設立の経緯と歴史を教えてください。
加治冨美子氏(以下、加治) 当社は、1959年8月1日創業のふぐ料理を主とする老舗割烹です。中洲に店舗を構えて、今年で63年になります。創業者である先代は長崎県佐世保市の出身で、もともとは銀行員でした。当時はまだ珍しい脱サラ創業でしたが、高度成長期の波にも押されて事業を軌道に乗せていったといいます。この創業年は当時の皇太子さまと美智子さまのご成婚に日本中が湧き上がっていて、中洲もとても活気づいていました。
97年に家族思いで働き者だった義父と義母から中洲店を引き継ぎ、家族で切り盛りしてきました。現在は中洲の本店と、博多駅の筑紫口すぐそばの「すし割烹かじ」の2店舗を経営しています。
──こだわりはありますか。
加治 厳選した天然ふぐの提供にこだわっています。近年の流通は養殖物が主流になってきていますが、当店は天然のとらふぐを下関南風泊市場から1年中直送しており、季節を問わず楽しめるようになっています。希少な白子刺身や白子焼き、白子蒸しなどの白子料理、独特の味わいのある白子酒やふぐひれ酒などご好評をいただいています。
ふぐは高級品というイメージが一般的に強いかと思いますが、実は栄養価も高く健康的な食材でもあります。タンパク質、コラーゲン、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ビタミン…と多くの栄養素が含まれていますので、自信をもってお勧めしています。
その他、玄界灘のイカやオコゼ、大分県の関アジ、関サバ、伊勢エビなど近海のものを鮮度の高いまま、召し上がっていただけます。
室内空間にもこだわっています。快適に過ごしていただけるように、空間の装飾品類も厳選しています。本店1階は活魚を眺めながら食事ができる、いけすカウンターがありますので、鮮度を目でも感じることができると思います。2階席は個室となっており、接待、結納、少人数の食事会から40名さままでのご宴会、ご法事の会食などの利用が可能です。
お酒や野菜類も、地元のものを中心にそろえています。中洲は博多や天神はもちろん、空港からのアクセスもよいので、国内外の旅行者の方、皆さんに立ち寄りやすい場所です。
魚介類を中心に九州のおいしいものを堪能してもらいたいですね。──コロナの影響はやはり大きいですか。
加治 そうですね、移動や酒類の提供に制限がかかるなど苦しい時期が続きました。でも、学ぶこともとても多かったですね。全員で知恵を出し合い、一致団結して立ち向かうことができました。お弁当のテイクアウトをスタートしましたし、売上を落とさないよう、みんなが自分にできるさまざまな努力を続けました。また、3週間ほどの休業期間中に外装・内装の補修工事を行いました。通常営業中であれば大がかりな工事は難しいですから、有効活用できたと思います。
何よりも休業明けには多くの常連さまが顔を出してくださったことも忘れられません。「元気にしていた?」「ずっと気になっていたんだよ」と来店時に声をかけていただき、励ましていただきました。本当に感謝しかないです。まだまだ油断はできませんが、従業員一人一人が意識を高く持ってくれたおかげで、少しずつ落ちつきを取り戻しています。
──創業して63年、時代の変化は感じていますか。
加治 近年はあらゆる面で、急速な時代の変化を感じています。店舗従業員の高齢化と若手の減少はとくに深刻ですね。社会全体で少子化が進んでいるので、この流れを止めることは難しいでしょう。教育方法もまた、現代に合わせた工夫が必要です。昔はよくあった「見て、自分で覚えて」などは、今ではもう通用しません。やはり現場の実践経験数が一番なのですが、マニュアルも併用して丁寧に指導しています。しかし、時代が変わっても、接客の基本であるおもてなしの心は同じです。「真心でお客様の心に寄り添うことは、お店だけではなく従業員個人にも還元されて、循環していくのよ」と繰り返し伝えています。
キャッシュレス化も進み、今後はさらなるIT化が必須だと考えています。見方を変えると、すべてが手作業だったころに比べると便利になりましたから、うまく活用していくつもりです。日本食は品数も多く、料理の過程と配膳にも手間がかかります。基本的なことを守ってサービスの質を保ちつつ、作業の効率化や簡素化を進めていけたらと思います。
中洲という街自体も変わってきています。スーツをきたサラリーマンの人たちは減り、少人数の若者たちが目立ちます。会社の接待や会合は少なくなり、個人がそれぞれ好きな飲食を楽しむ時代になってきたのでしょう。飲食店としては、今後の経営は一層、順応力とスピードが求められると感じています。
──次世代への事業継承について。
加治 3代目として息子夫婦へ少しずつ事業継承を進めています。継承者が決まっていることは有難いし、心強いです。世代間で多少は考え方の違いもありますが、基本は「目の前のお客さまを大切に」すること、そして「自分の家庭を大事に」すること。根本的な部分を共有して同じ方向を向くことで、尊重し合い、支え合っています。
孫たちにも長期休みに手伝いにきてもらっています。事業継承に関わらず接客を体験することは良い経験だと思いますし、仕事への理解が深まると家族間でも思いやりが生まれます。次世代へバトンをしっかりと渡すことは、今の重要課題の1つです。
──今後の事業展開について、お聞かせください。
加治 当社は、100年企業を目指しています。平均的な企業寿命は約30年といわれるなかで、当社は63年を迎えることができました。多くのお客さま、関係者の皆さまに支えていただいたおかげです。事業を存続させるためには人間関係、とくにお客さまとの信頼関係の構築が大切です。時流に乗る華やかな宣伝や広告も良いのですが、基本はコツコツ地道に積み上げていくことです。お客様お1人お1人の目に見えない希望をくみ取り、一歩先の心遣いができるようにと意識しています。
そして、日々感謝の心をもつこと。これは当社の企業理念でもあります。
お客さまへはもちろんのこと、公私問わず周囲の人々へ感謝の心を忘れずに生きること。人がひとりでできることは限られていますから。コロナが終わっても、いつ何があるか誰にも分かりません。急速な時代の変化に順応しつつ、伝統はしっかりと引き継いでいきたいです。
<RESTAURANT INFORMATION>
本店・博多割烹かじ
所在地 :福岡市中洲2-3-11
営業時間:午前11時~午後12時(オーダーストップ:午後11時)
TEL :092-291-2219
支店・すし割烹かじ
所在地 :福岡市博多区博多駅中央街1-1
JR筑紫口アネックスビル1階
営業時間:午前7時~午後10時
(オーダーストップ:午後9時半)
TEL :092-431-3104
URL :http://www.kaji-fuk.jp/
<プロフィール>
加治 冨美子(かじ ふみこ)
熊本県出身。1997年に先代女将から家族で事業を継承し、女将業を務める。福岡商工会議所女性会で24年、ライオンズクラブ国際協会で16年それぞれ活動するほか、全国防衛協会女性会でも活動。企業理念である「感謝の心」を大切に、かじのブランド料理を極め引き継いでいくために、日々邁進中。法人名
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