エイチ・アイ・エス、澤田秀雄氏は再起なるか ハウステンボス売却、1億円減資に続く、次なる一手は? (前)
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旅行大手エイチ・アイ・エスは9月30日、長崎県佐世保市の大型リゾート施設「ハウステンボス」の全株式を香港の投資会社PAGに666億円で売却した。さらに、247億円の資本金を1億円に減資する。虎の子のハウステンボスの売却と減資のセットで累積赤字を一掃して再建を図る。再起の方向を占ってみよう。
澤田会長はハウステンボスの売却に「反対」だった
(株)エイチ・アイ・エス(HIS)の澤田秀雄会長が、ハウステンボス(株)(HTB)の売却後、初めてメディアの取材に応じた。
地元紙、西日本新聞(10月6日付)は、澤田氏のインタビュー記事を掲載した。場所は東京・虎ノ門にあるHISの本社。黒いTシャツにジャケット姿で応接室に現れた澤田会長は、ハウステンボスの売却について「僕は反対したんだけど……」と切り出したという。引用する。
理由を問うと言葉を継いだ。「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の計画もあるし、(HTB)株式上場の予定もあるし、これから伸ばせる可能性があると思っていたから」
2010年に周囲の反対を押し切ってHTBを買収した。園内に住み込んで陣頭指揮を執り、再建を成し遂げた自負も愛着もある。
だが、新型コロナ禍がHISに大きな逆風となっていた。HTB買収に名乗り上げたファンドは豊富な資金力をもつ。「新たな資金が投入され、雇用にも佐世保の発展にもつながるならいいじゃないか」。最後は受け入れた。
「役割はほぼ果たせた。完全ではないけど」。充実感を漂わせる笑顔の裏に、少しの寂しさがにじんだ。
日本政策投資銀行が「引導」を渡したか?
超ワンマン経営者の澤田会長に、「ハウステンボスを売れ」と引導を渡したのは誰か。
HISの実質的なメインバンクは(株)日本政策投資銀行である。
「ゼロゼロ融資」。企業が金利負担ゼロ(無利子)、担保もゼロ(無担保)で融資を受けられる。2年前に国が、コロナ対策として始めた制度だ。基本は中小企業向けだったが、それの大企業バージョンでHISは資金を入れてもらった。日本政策投資銀行(政投銀)が融資して(株)日本政策金融公庫(金融公庫)が保証する。
HISは政投銀のファンドを活用して、優先株の発行による資本増強を行った。政投銀が出資。これが「政府系が支える」というサインとなり、民間の金融機関もついていき協調融資に応じた。
HISは4月時点で銀行団から345億円のシンジゲートローン(協調融資)を受けている。2期連続赤字なら協調融資の財務条項に抵触する。条項に抵触すると、返済期限前でも金融機関は資金返済を要求できる。
そういう事態は絶対に避けたい。HISの21年11月~22年7月期連結決算の最終損益は332億円の赤字だった。22年10月期の通期決算では、何としてでも黒字決算に転換しなければならない。
政投銀が資本出資したことは、一種の「政府保証」。政府はHISを潰さない。その代わり、ハウステンボスの売却で黒字決算にして、経営の立て直しを図れと「引導」を渡したと読むことができる。
ハウステンボスの売却にともなう特別利益646億円を計上するため22年10月期の最終損益は黒字に転じる。ハウステンボスの売却で最終黒字になり財務条項に抵触しない。
(つづく)
【森村 和男】
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