2024年11月17日( 日 )

どんな小売業が生き残るのか(後)

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流通コンサルタント 神戸 彲 

 我が国の経済全般の停滞が言われて久しい。バブル以降の小売業を一言で表現すれば「供給過剰」だ。供給するモノが多ければその価格は上がらない。いわゆるデフレ状態だ。加えて、ここにきての急激な円安と原材料高が広範な業界にわたって影響をおよぼしている。消費低迷とデフレという停滞のなか、緩慢な競争を何とか生き抜いてきた小売業に、いま大きな転機が訪れている。

アナログなこだわり(つづき)

 この分野を一言でいえば、無駄の効用に価値を見出すこだわりの世界だ。そこでは、現場が主役という大手と逆の発想で店舗がつくられる。内装も売り場、商品構成も主として質をアピールする。このタイプの戦術は低、中、高の価格帯の売り場をつくり、通常型の数倍の高価格帯の売り場で全体の高質感を演出し、中価格帯の商品を販売主力にしている。松竹梅の竹の部分を選択する日本人の特性を見極めた戦術だ。戦術を重ねればそれは戦略に届く。

 さらにインストアベーカリーや高質総菜、ワインやオリーブオイルの量り売りなどの通常型とは異質の売り場構成を取り入れることでニッチさが完成する。これは働く従業員に仕事に対する誇りをもたせるものであり、従業員の情熱も売り場に反映して通常型とはまったく違った幸福感をお客に提供するという結果を生む。

 有力地方スーパーといわれる企業の特徴は2つある。1つは好立地のほぼすべてを自社店舗で抑えている企業だ。たとえば平地の少ない長崎では「エレナ」があり、適正な面積の空き地が少ない福岡では「マックスバリュ」や「マルキョウ」がある。似たような状況は狭い国土の我が国では少なくない。そうした企業は消費者のライフスタイルが劇的に変化しない限りは安泰だろう。

 もう1つは、通常型が真似できないかたちを持つ企業だ。福岡とその周辺で店舗を展開する「ハローデイ」は年商850億円(21年3月期)程度のスーパーマーケットだが、その存在感は強烈だ。とくに鮮魚と総菜というスーパーマーケットの肝の部門において、そのクオリティーは同業他社に抜きんでている。そんなクオリティー型最大手が埼玉本拠の「ヤオコー」だ。年商は5,360億円(22年3月期)。豊かな商圏を持つ関東に店舗を展開、「エイヴイ」という極めてハイレベルなディスカウント企業も傘下にもっている。長野本拠の「ツルヤ」も質的レベルでは全国屈指の企業だ。これらの企業はナショナルチェーンの「イオン」系スーパーにはない楽しさをもっている。いわゆる暮らしの豊かさであり、品ぞろえも売り場づくりも独自の理論で独自の売り場をつくり上げている。

 ポイントは現場優先の店づくりだ。本部主導の大手チェーンに対し、地方の雄は現場の意見を重視する。ヤオコーは主婦パートタイマーの知見を積極的に取り入れ、ハローデイはお客の要望はすべて聞くというのが基本姿勢だ。その結果生まれる社員の会社に対するロイヤリティーは大手とは比べ物にならない。プロがつくるハイレベルの商品を主婦パートが簡単につくれるというのがヤオコーやハローデイだ。そのレベルに消費者は感動しそれを支持する。いわゆる「メイク ア ディファレンス」。それこそが彼らの真骨頂である。

 異なる道を歩む小売業にディスカウンターがある。一般客だけでなく、大家族や個人飲食業者に人気の福岡の「ルミエール」や関東の「オーケー」である。価格重視一辺倒の戦術をとるため、売り場や商品に付加価値をつけることはできず、高質スーパーのシェアに食い込むことはできない。しかし、市場規模で見れば圧倒的な優位市場で戦っている。大手は低売上で確実な利益を出せる店、ディスカウンターは大きな売上を確保できる店をそれぞれどのような手法でつくり出すかが問題になる。

生き残る小売の条件とは

イオン
イオン

 かつて流通業界を風靡した日本型GMSもコンビニも店舗数の増加で坪当たりの売上が低下し、現在の状況を招いた。次に同じ構造に陥る業態はおそらくドラッグストアだ。アメリカでも日本でもすでに従来型のGMSの姿はない。小売先進国のアメリカではドラッグストア業界でもコンビニエンスストア業界でも極めて大掛かりなM&Aが行われ、新規参入を許さないほど巨大化している。統合して過剰な店舗を閉鎖し、店舗の適正な坪効率を確保する状況になれば、しばらくは生き残れるということだろう。我が国でも旧来のGMSで生き残っているのはイオンだけだ。そのイオンも祖業での利益は出ていない。しかし、グローバル10(世界小売企業トップ10入り)を目標として標榜するイオンは、アマゾン同様に手に入れられるもの、やれることはすべてやってみるという体質も併せもつ。

 小売業界で最後まで生き残るのは、同業態を最後まで統合しようという企業と、業態に関係なくすべてを飲み込む意思をもった企業だろう。クオリティー型とディスカウント企業は経営リーダーが強い業態こだわりを持ち続ければ、それなりの存在感をもって存在し続けるはずだ。その他、「ダイソー」に代表される100円型小売業も新たな価格帯を加えながら生き残りを図るのだろう。

(了)

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