ウクライナ危機によせて、今こそ国連改革を(2)
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元国連大使
元OECD事務次長
谷口 誠 氏名古屋市立大特任教授
日本ビジネスインテリジェンス協会理事長
中川 十郎 氏ロシアによるウクライナ侵攻は、国連の安全保障理事会の機能不全という問題を再びクローズアップさせた。元国連大使の谷口誠氏は、いまこそ国連の在り方を問い直すべきであり、日本は来年から安保理の非常任理事国となる機会をいかして改革を進めるべきと提唱する。また、谷口氏同様に豊富な海外勤務経験を有する日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏は、ロシアと関係の深いインドと連携し、話し合いによるウクライナ問題の解決を図るべきだと主張する。
(聞き手:(株)データ・マックス代表取締役社長 児玉 直)
インドと連携して平和的解決を
──ウクライナ危機の解決、国連の解決案へと議論が進みました。中国はロシアべったりではなく、インドにしてもロシアに核兵器の使用を促すことはなさそうです。インドなどが存在感を増すことで、国連改革の主役となる国が浮上してきたように思えます。
中川 インドは過去70年来ロシアと軍事および経済面で非常に深い関係にあります。隣のパキスタンは中国と密接な関係にあります。インドにはガンジー以来の非暴力主義という伝統があります。9月に開催された上海協力機構の首脳会議において、インドのモディ首相はプーチン大統領にはっきりと、今は戦争するときではないと言いました。
中国もロシアに対して一定の影響力をもっていますが、インドは過去の経験、ロシアとの関係から非常に大きな発言力をもっています。ウクライナ問題に関して、NATOはロシアに対して目には目をという感じで対抗しようとしていますが、平和主義のインドを仲介役として、ロシアとの話し合いにより解決されることを期待しています。インド、ロシア、中国はBRICs、上海協力機構などの活動を通して密接な関係にあります。インドと中国が一緒になって、ウクライナ問題の解決に動くのが良いと思っていますが、どうでしょうか。
谷口 私も中国、インドが今のロシアに対してより大きな影響力を発揮してほしいと思っています。インドは常任理事国ではありませんが、国連における外交能力は中国よりも高いです。インドの代表は国連総会において今は戦争などしている時期ではないと、ロシアから距離を置く姿勢を示しており、明るい兆しです。インドの今後の成長について、OECDは2060年以降に中国を追い越すとの長期見通しを立てています。インドがいずれGDPでも世界一の経済大国になり、アジアの時代が来るでしょう。人口もインドが中国よりも多くなります。
中国とインドの関係は、国境問題を抱えていることもあり決してよくはありません。ただ、中国が共産党の独裁政権が依然として続くのに対し、自由主義体制のインドは今後世界の動向を左右する存在となるでしょう。国連においても、インド人の活躍が見られます。インドは上海協力機構に入っていてロシアとの関係もあります。ロシアの経済は韓国の経済のレベルしかなく、追い抜かれるでしょう。
時代が変わっていくなかで、変わらないのは日本です。日本も今のままでは韓国に追い抜かれるかもしれません。アジアのなかでも遅れをとっており、大きな課題です。私は1990年代にOECDの初代事務次長として就任したころ、日本のGDPは世界トップレベルでした。今ではほかの国の存在感が大きくなっています。
中川 21世紀の前半が中国の時代であるならば、後半はインドの時代となります。22世紀にはアフリカが台頭し人口約25億人と世界人口の4分の1を占め、存在感が増すと言われています。インドは0の概念を発明しただけあり、理数系に秀でています。とくにIT関係が発展していて、世界のトップ企業のIT人材はインド人が主流となり、インドは非常に重要な存在になっていくでしょう。
キューバ危機では核戦争の瀬戸際まで進展しましたが、ケネディ大統領がフルシチョフ書記長に対して交渉力を発揮し、ソ連はミサイルをキューバから撤去しました。バイデン大統領はプーチンとの間にそのような交渉ができる関係を構築しておらず、難しいでしょう。ウクライナ問題に対し、米国はNATO加盟国を巻き込んで交渉していますが、危機を打開するには、むしろインドを通じて交渉をすべきと思います。
ウクライナ危機の回避のために
谷口 NATOは東方拡大中であり、かつてロシアとは兄弟関係にあったウクライナも加盟を申請しました。もっとも新規加盟には加盟国30カ国すべてが同意する必要があり、簡単には入れない。ヨーロッパにとって、ウクライナの加盟はロシアを牽制する効果をもちます。フィンランド、スウェーデンも加盟し拡大していくでしょう。
一方、NATOの拡大がロシアを追い込むことでさらなる危険を招く可能性があることにも注意が必要です。ロシアではプーチンを抑える人がおらず、国民のなかには国外に退避する人もおり、分裂状態です。国連が大局において大きな役割をはたすことが望まれます。
──停戦に向けた交渉への機は熟しつつあるのでしょうか。
谷口 トルコが役割を果たそうとしていますが、それほどの力はありません。トルコはアメリカにとって、同国からロシアに向けてロケットを撃ち込むという点で重要な存在です。ただ、トルコ自身にはウクライナ危機において役割をはたせるような外交上の力はありません。OECDにおいても低い扱いを受けています。中国とインドが大きな役割をはたすでしょう。
──仲介役には、それなりの国力が求められるということですね。
中川 トルコはEUにも加盟できずにいて、現状では難しいでしょう。11月のアメリカ中間選挙も考慮すると来年までずれ込む可能性があるでしょう。BRICSメンバーのブラジルも国連改革を提唱しており、インド、中国に加え、ブラジルを取り込んでウクライナ危機の解決に乗り出すことは考えられるでしょうか。
谷口 ブラジルは南米における大国でありいろいろなかたちで影響力を発揮しています。アフリカにおけるナイジェリアなども同様です。常任理事国に日本がなろうとしたとき、アジアからはインドと日本、南米からはブラジル、アフリカからはナイジェリアの名前が挙がっていました。ただ、ブラジルは間違いなく大国であるが、ウクライナ危機においては、中国、なによりもインドのはたす役割が大きいと思います。
中川 ユーラシア大陸においてインドと中国が存在感をもち、ロシアと冷静に交渉できるインドと組んでロシアとの交渉を行うというのが1つの方法ではないかと思います。NATOは当事国として武器供与などの支援を行っており、交渉役としては厳しいと思います。
(つづく)
【文・構成:茅野 雅弘】
<プロフィール>
谷口 誠(たにぐち・まこと)
1956年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在、「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、(一財)アジア・ユーラシア総合研究所代表理事。著書に『21世紀の南北問題―グローバル化時代の挑戦』(早稲田大学出版部)、『東アジア共同体 経済統合の行方と日本』(岩波新書)など多数。中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会学術顧問、中国科学技術競争情報学会競争情報分会国際顧問など。共著に『見えない価値を生む知識情報戦略』、『国際経営戦略』(同文館)など、共訳書ウィリアム・ラップ『成功企業のIT戦略』(日経BP)、H.E.マイヤー『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)など多数。▼関連記事
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