MRJ初号機の納期を5回延期、三菱重工業の組織的欠陥(前)
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日本的組織の欠陥を暴いた『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(野中郁次郎ほか共著、中公文庫)が、再び脚光を浴びている。小池百合子・東京都知事が座右の書としていたことが伝わり、ベストセラーになった。日本は太平洋戦争になぜ敗北したのか。ノモンハン事件やミッドウェー海戦、インパール作戦などの事例について、これらに共通する失敗の要因を客観的に分析している。
それは、組織が機能不全に陥った東芝や三菱重工業の姿と重なる。MRJと大型客船事業で繰り返された納期延期
三菱重工業(株)は1月23日、子会社の三菱航空機(株)(愛知県豊山町)が開発中の日本初の国産ジェット機MRJの納期が2年ずれ込むと発表した。MRJ初号機の納入時期の見通しは、2020年半ばになる。
MRJは当初、13年に全日本空輸(株)に初号機を納入する計画だったが、納期の延期を繰り返してきた。延期はこれで5回目。当初の計画から7年の遅れだ。2020年にMRJを納入できるのか。三菱重工は崖っぷちに立たされた。MRJは、大型客船事業とまるっきり同じ経緯をたどっている。三菱重工は11年、客船世界最大手カーニバル傘下のアイーダ・クルーズから大型客船2隻を受注した。だが、設計変更などにより納期遅れを繰り返した。16年3月期に、受注金額1,000億円に対して2,300億円の特別損失を計上。結局、大型客船事業からの撤退に追い込まれた。
MRJが、大型客船の二の舞にならないという保証はない。MRJと大型客船の納入延期を繰り返した組織的欠陥は相似形であるからだ。
「学習棄却」ができなかった
『失敗の本質』は、1984年にダイヤモンド社より刊行された。これを読むと、日本は追い詰められると戦略的思考ができなくなる組織だとよくわかる。軍隊は明確な目的を持って進むはずの機能体であるはずだが、それが内向し、どこからか運命共同体となり、外部との連携に拒むことで失敗に向かっていく様子が描かれる。
空気の支配と人的ネットワーク偏重の組織構造。2つの要因が強力に機能すると、致命的な失敗・敗北を生み出すと分析する。空気の支配は、日本人の特性として有名なので、ここでは取り上げない。筆者が注目したのは「学習棄却」ができなかったという指摘だ。
人や組織は、何らかの出来事に面したときに、過去に自らが経験・学習し、獲得した知識を基に対処する。とくに、大きな成果を上げた輝かしい経験は「成功体験」として、判断・行動に影響を与える。だが、想定外の出来事に対処する際、過去の成功体験にこだわりすぎると、間違った判断を下すことがままある。そのため、過去に身につけた知識を捨てたうえで、学ぶ必要がある。古くなった知識を捨て去ることを、経営学で「学習棄却」という。
『失敗の本質』は、こう書く。
〈インパールで日本軍と戦ったスリム英第一四軍司令官は、「日本軍の欠陥は、作戦計画がかりに誤っていた場合に、これをただちに立て直す心構えがまったくなかったことである」と指摘したといわれる〉
日本的組織の欠陥は「学習棄却」ができなかったことにあるというわけだ。
(つづく)
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