中国で人気が高まる日本の介護器具:勝負はこれから!

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、7月17日付の記事を紹介する。

歩行器 イメージ    高市首相の「台湾有事」発言をきっかけに、日中関係は停滞を余儀なくされています。中国からの訪日客は急減中で、かつての「爆買い」は影を潜めてしまいました。しかし、その一方で、中国における日本の介護サービスや介護機器の需要は、かつてないほど急増中です。2026年現在、中国では65歳以上の高齢者人口が2億2,365万人(高齢化率16%以上)に達しており、国家規模での介護需要が爆発しています。

 これまで日系企業は、文化の違いや収益化の難しさから苦戦・撤退する事例もありましたが、「28年末までの長期介護保険制度の全国導入」という国策の決定や、「自立支援」という新しい価値観の浸透により、日本式介護の市場はかつてない活況を呈するようになりました。

 中国政府は28年末までに、14億人の人口すべてをカバーする「長期介護保険制度」を全国で本格導入することを決定。これにより、これまで「高額で富裕層しか利用できなかった日本式の高品質な介護サービス」に公的資金(給付)が下りるようになり、「中長期的に安定した収益基盤が形成されるだろう」と日系事業者の期待が高まっています。

 従来の中国の介護は、家族や家政婦が「至れり尽くせり」で、希望すれば何でもやってあげるスタイルが主流でしたが、結果として高齢者の寝たきりを進めていました。これに対し、日本式の「高齢者自身の残された能力を活かし、再び自分で歩けるようにする自立支援」の思想が、「尊厳ある老後」として評価を高めているのです。現地で施設やデイサービスを展開する日系大手は、中国のシニアが好む賑やかな雰囲気に合わせて毎日のようにイベントを開催するなど現地化を徹底しています。

 また、日本の介護機器(電動ベッド、車いす、入浴補助具など)は、その細やかな品質と安全性から「銀髪経済」と呼ばれる中国の巨大市場で非常に高く評価されるようになっています。

 これまで中国の福祉用具はネット通販での安価な買い切りが主流でしたが、利用者の身体状況に本当に合っているかを専門スタッフが評価する「アセスメント」の重要性が認知され始めたのです。

 日本の福祉用具レンタル最大手の「ヤマシタ」などは、アース製薬やウェルファンなど日本の介護関連企業12社と共同で、上海市や成都市などのイトーヨーカドー等の商業施設内に「銀髪生活体験館」を次々と開設しています。

 26年6月に上海で開催された中国最大級の福祉展示会「CHINA AID」では、日本式介護の導入を求める中国企業からのフランチャイズ商談が100件以上に達するなど、凄まじい引き合いが起きていました。

 需要が急増する一方で、日系企業が直面している新たな現実も見逃せません。日本と同様、中国でも介護職の確保と、生活習慣の異なる現地スタッフに「日本式の細やかな気配り」を教育する難しさは依然として残っているからです。

 中国政府は26年に入り、排せつ介護や移乗補助を行う「介護ロボット」の普及や、AIを活用した高齢者の健康リスク予測モデルの構築(スマート養老)を国策で猛烈にプッシュしています。日本の企業は、従来の「丁寧な対面サービス」だけでなく、日本の介護機器と中国のAI技術を融合させたハイテク介護ソリューションの提示を求められているわけです。 

 かつては「文化や制度の違いから日本式は定着しない」と言われた中国市場ですが、背に腹は代えられない猛烈な高齢化の進展と28年の介護保険全国化により、日本のノウハウは「今すぐ取り入れるべき最高の手本」として完全に受け入れられています。

 中国の高齢者は「老けて見えないこと」と「安全性」を強く求めるため、日本発の高付加価値商品が売れ筋となっているようです。例えば、デザイン性と機能性を両立した4万円の高額な杖です。中国ではこれまで安価な金属の杖が主流でしたが、日本の「幸和製作所」や「須恵廣工業」などが手掛ける立ち座りが楽になる2段グリップ式や、花柄・格子柄といった美しいデザインの高級多点杖が、高価格にもかかわらず飛躍的に売れています。子供から親へのプレゼントとしても定着しつつあり、お年寄りも外出時に自慢して歩けるステータスシンボルとなっているほどです。

 また、利用者のスピードに同調するスマート歩行器も人気です。「星光医療器製作所」などが開発している、利用者の歩くスピードに合わせてブレーキが自動でゆっくりかかる機能や、体格に合わせてワンタッチで高さを変えられる日本の歩行器が施設・個人向けに大ヒットしています。中国の安価な歩行器は、前に突っ走って転倒するリスクが高かったため、「転ばない安心感」に数倍の価格を払う顧客が急増しているわけです。

 要は、中国の介護市場は「安いものを大量に売る」フェーズから、「高くても、親の命を守り尊厳を保てる日本製品を選ぶ」フェーズへ完全に移行したと言えます。日系企業にとっては、現地の公的介護保険(28年全国化)の指定事業者となり安定した給付を得つつ、こうした高付加価値な福祉器具を「体験型店舗」で供給していくビジネスモデルが成功確率の高い王道となりつつあります。

 表向き、日中関係はギクシャクしていますが、現場では日本式のサービスや製品が中国の消費者のマインドをがっちり掴んでいることは冷静に注目すべきです。


著者:浜田和幸
【Blog】http://ameblo.jp/hamada-kazuyuki
【Homepage】http://www.hamadakazuyuki.com
【Facebook】https://www.facebook.com/Dr.hamadakazuyuki
【Twitter】https://twitter.com/hamada_kazuyuki

関連記事