2024年11月21日( 木 )

「不招請勧誘」をめぐる読売新聞vs消費者庁(前)~俺を笑うな

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 今、霞が関・永田町界隈で一番ホットな問題が、「不招請勧誘」規制をめぐる読売新聞と消費者庁の“激突”だ。
 頼みもしないのに勝手にやって来る訪問販売や営業勧誘(これを「不招請勧誘」と呼ぶ)によって、消費者とのトラブルが続出。とくに認知症的な傾向のある高齢者から、その財産を巻き上げるような悪質なケースが多発している。これを消費者庁が規制しようとしたところ、その動きに“待った”をかけたのが新聞業界。とくに業界盟主の読売新聞が強硬姿勢で、弱小官庁の消費者庁は、早くも全面降伏の様相を呈している。

 6月10日午後3時、内閣府消費者委員会の専門調査会。そこに現れたのは前日の9日、読売新聞グループ本社代表取締役兼経営主幹、東京本社社長に就いたばかりの山口寿一氏だった。

sinbun01 山口氏は1979年に読売新聞社に入社。社会部で東京地検特捜部など主に事件畑を歩み、特捜検事に対して適用法令や構成要件をアドバイスするなど、検事たちも一目を置く“やり手”記者として知られた。経営側に入ってからは、法務部長や社長室長を歴任し、読売に批判的な記事を書いた週刊誌への訴訟で陣頭指揮をとるなど辣腕ぶりを発揮。最近では渡辺恒雄主筆に反旗を翻した清武英利氏対策を巧みにリードし、渡辺氏の寵愛を得た。今やポスト“ナベツネ”の最有力候補として知られる。
 そんな読売のプリンスが今回、消費者行政と対峙することになった。

 消費者庁は現在、年間9万件もある訪問販売の苦情に対処しようと、特定商取引法の改正を視野に入れ、今春、内閣府消費者委員会のもとに特定商取引法専門調査会を設置した。
 すると、リフォーム業者やインターネット回線接続業者などよりも、苦情が多かったのが新聞業界であることがわかった。年間の苦情9万件のうち、新聞に関するものは実に1万件。「認知症が疑われるお年寄りに何部も新聞をとらせ、苦情を言いに行くと販売店の書類に『認知』と書いてあった。知っていて意図的に複数の部数をとらせている」「12年先まで契約させられ、途中で解約を申し込むと、景品代相当の金額を支払うよう請求された」……。こんな苦情が、後を絶たない。

 これに対して、日本新聞協会を代表して出席した山口氏はこの日、「新聞には百数十年の訪問販売の歴史がある。新聞協会としては規制に反対です」と“正論”をまくしたてた。
 新聞業界にはたしかに悪質な訪問勧誘が横行し、ひどいケースでは殺人事件まで引き起した勧誘員がいたが、さりとて数百万円を巻き上げるリフォーム業者などと比べて“悪質性”は低いという思いがある。ただでさえ部数が低落傾向にある新聞界にとって、最大の営業のツールである訪問勧誘を禁止されるのは、到底容認できない。だから新聞界は「新聞は民主主義の発展に寄与してきた」「表現の自由、知る権利が脅かされる」と、大上段に構えて規制強化を牽制しようとする。

 これに対して専門調査会の委員たちが、「不意打ち的な勧誘を強制するのはどうかと思う」「角度を変えたら見方が変わるのではないですか」と問い質すと、山口氏は「飛び込みセールスは必要です。新聞は訪問販売が軸」と言った後で、こう言及した。
 「新聞の勧誘の現場では、さまざまな接触のやり方があって、断られても、やはりとっていただくということも現実にはあるんですね。断られても取っていただくというところにこぎつけるのが新聞なんです」。

 すると、委員たちは失笑した。その回数は実に6回におよんだ。現行の特定商取引法では、一度断られたら再度勧誘してはいけないという「再勧誘禁止」規定が定められている(特定商取法3条)ため、新聞協会を代表して出席した山口氏が自ら“法違反”をしていると受け取られかねない発言をしたとあって、笑ったらしかった。

 すると山口氏の口調が突如改まり、「笑わないでください」「ぜひ笑わないで聞いてください」と制した。

 「俺を笑うな」――。このあと、失笑を買ってメンツを傷つけられた読売のプリンスの闘志が、燃え上がることになる。

(つづく)
【広田 三郎】

 
(中)

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