激動の世界情勢 日本企業はどう動いたか(後) 台湾・中国
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国際政治学者 和田 大樹
今年を振り返れば、ロシアによるウクライナ侵攻と同じように大きなニュースになったのが有事をめぐる台湾情勢だ。国際政治や安全保障の業界では、実際に起こったウクライナ侵攻のほうが大きな問題として取り上げられたが、企業の世界では台湾情勢への懸念のほうが多く聞かれるように筆者は感じる。
当然ながら、台湾情勢といっても利害関係国(者)は台湾だけでなく、中国や米国、日本など経済大国を巻き込み、仮に有事になれば日中関係の冷え込みは避けられず(日本は米国の軍事同盟国である)、中国を最大の貿易相手とする日本企業にとって台湾情勢は最大の懸念事項といえよう。ロシア・ウクライナリスクの比ではない。
今日、すでに事後となったロシア・ウクライナリスクにより、日本企業の間では脱ロシアの動きが顕著になった一方、事前である台湾・中国リスクにおいて日本企業の目立った回避行動は見られない。多くの企業が脱台湾を進めているわけではないし、丸亀製麺を展開するトリドールホールディングスやニトリホールディングス、村田製作所などはむしろ中国事業を拡大させる方針を発表している。
しかし、安全保障分野の研究者である傍ら、海外へ進出する日本企業向けのセキュリティコンサルティングに従事している筆者の周辺では、台湾・中国リスクを本気で検討し始める企業が増えている。筆者は台湾有事について、(1) 今すぐ発生する差し迫った脅威ではないものの、(2)3期目に入った習体制が台湾統一において武力行使を辞さない構えで、(3)台湾が米国など自由民主主義陣営と結束を強化しており、(4)来年1月の台湾総統選挙がポイントになるが有事のリスクは徐々に高まってきている、(5)有事になれば台湾からの退避はウクライナより難しくなり、(6)それによって日中関係や日本のシーレーンが悪影響を受ける恐れがあるなどと企業担当者に伝えている。
それにより、多くの企業で有事のトリガーとなるポイント(サイバー攻撃の激化、中国軍の異常な集結、中台関係・米中関係の急激な冷え込みなど)を探り、駐在員や帯同家族の退避、台湾各地にある防空壕の確認などを現実の問題として受け止め、危機管理対策を強化する動きが見られる。また、台湾有事が日中関係に直結するというリスクを懸念し、中国に駐在する社員の安全確保や早期帰国、一方ではサプライチェーンへの懸念から、調達先を中国からASEANなど第3国へ移したり、中国にある工場の日本へ回帰させたりする動きもみられる。実際、最近もキヤノンの御手洗会長は台湾・中国リスクに懸念を示し、工場などを日本へ回帰させる意思を表明した。
とくに、こういった企業の動きは、8月はじめにペロシ米下院議長が台湾を訪問し、中国がこれまでにない規模で軍事的に威嚇して以降顕著になっているように肌で感じる。ウクライナリスクが来年、今年以上に激化する可能性は低い一方、台湾・中国リスクは来年以降さらに火花が散る恐れがある。この企業の動きは来年さらに本格化するかもしれない。
(了)
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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