2024年07月16日( 火 )

菅直人元首相が原発回帰の岸田政権を批判──“拡大版ヤシノミ作戦(落選運動)”は広がるのか!?

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 22年12月22日、岸田政権はGX(グリーントランスフォーメンション)実行会議を開いて原発推進の方針を明らかにした。原発を「将来にわたって持続的に活用する」と位置づけ、原発建替や運転期間延長も基本方針に明記したのだ。

 これに異議申立てをしていたのが立憲民主党の菅直人元首相。22年12月8日、「原発政策の大転換を許すな! 東京集中行動」と銘打った集会で次のように訴えたのだ。

立憲民主党の菅直人    「原発についてはGX実行会議が非常に危ないです。GX実行会議は総理が主催をし、事務局は経産大臣が中心になり、完全に原発に戻る路線を進めようとしている最大の勢力になっています。ただ新たな原発をつくろうとすれば20年はかかるし、いろいろな要素があってそう簡単には戻れない」。

 こう切り出した菅元首相は安全保障上のリスクについても触れた。
「とくに原発はウクライナの状況を見ても、原発をもつこと自体がその国にとっての脅威になる。事故を起こしたら危ないだけではなくて、原発をもつこと自体が他国の攻撃を受けたときの最大の脅威になる」。

 原発推進の弊害を指摘したうえで菅元首相は、代替案も提示していた。
「私はこの間、一番力を入れているのは、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)です。つまりは農業をしながら農地の上に太陽光をパネルの棚をつくっていく。400万ha、日本には農地がありますから、そこに1haあたり500kWのパネルを置くことができ、年間1000時間は太陽が照りますので、『2兆kW』の発電が理屈上可能。いま日本が使っている電力が『1兆kW』だからそれの二倍です。さらに最近、ソーラーパネルを屋根のようなかたちに置かなくても垂直に置いても、太陽が動くので相当発電する。高速道路とか新幹線の両側とかにパネルを立てても、相当の電力を供給することができる」。

 この営農型太陽光発電に対しては「農林省が非常に積極的」「(同省の)ホームページには毎年拡大していく様子が出ている」と菅元首相は紹介したうえで、こう締め括ったのだ。
「原発がなくて(太陽光など自然エネルギーで)十分にやれるし、安全保障の問題から見ても原発をもつことはより危険だ。こういう観点から精一杯、残された政治の活動の時間を使っていきたいと思う」。

ポールトゥウィンホールディングス(株) 橘民義代表取締役会長とサイボウズ(株)青野慶久代表取締役社長

 菅元首相が原発推進の岸田政権との対決姿勢を鮮明にした2日後の22年12月10日、第四回武蔵野政治塾「政治を変えたい経営者たち」が都内で開かれ、ポールトゥウィンホールディングス(株)の橘民義代表取締役会長とサイボウズ(株)の青野慶久代表取締役社長が対談。そのなかで、福島原発事故時の官邸と東電のやりとりを描いた映画『太陽の蓋』を制作した異色の経営者・橘氏は、その映画の主人公ともいえる菅元首相と瓜2つの主張をしたのだ。

 「ウクライナでは、ロシアのプーチンが原発を攻めています。原発に爆弾を落とせば、核爆弾を落とすのと同じです。日本が戦争を起こしたら、向こうは、日本の原発を狙いますよ。核爆弾なんて必要ない。普通の爆弾で、核爆弾を落とすのと同じになる。それなのに、日本では原発を続ける。

 そういう原発賛成派の人たちは必ず『エネルギー、どうするのだ』と言います。自然エネルギーで100パーセントやれるのに『やれない』という嘘がまかり通っています。

 世界は自然エネルギー、太陽光に向かっています。この10年で太陽光の発電コストは10分の1、風力も7割減になりました。さらにバッテリーのコストも10分の1になりました。それなのに『太陽が照らない日がある』とか言って反対する。政府が自然エネルギーに舵を切ればできるのに、やらない。原発なんて高いものにこだわる」「それなのに原発をまだ続けるなんて、愚の骨頂です。太平洋戦争に負けてしまったのに、これから戦艦大和をつくろうとしているのと同じですよ」。

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発推進に逆戻りをする岸田政権の暴走をどう止めるのか。これについては、対談相手の青野社長がヒントを出していた。2021年10月の総選挙で選択的夫婦別姓に反対する国会議員を落選させようとした「ヤシの実作戦」のことだ。青野社長はこう振り返った。

「あれしかやる手がなかった。(選択的夫婦別姓の)裁判をやった結果、メディアも応援してくれたし、世論も動いた。いま世論調査をしたら、7割か8割が選択的夫婦別姓に賛成、残りが反対。若い世代はほぼ賛成。なんで政治家は変わらないのか。自民党の一部の国会議員が強硬に反対しているので、この問題が進められないってことがわかった。じゃ、そいつを落とすしかない。そこで反対している人をリストアップした」

 敗訴後に落選運動を始めた経緯を語った青野社長は、対談後の質疑応答でこんな補足説明もしていた。

「(選択的夫婦別姓を)いま止めている、まさに統一教会の支持を受けて当選したがために、頑なになって抵抗している人たちがいるので、『それはさすがにおかしいでしょう』ということで、やはり国民として『こいつに入れてはダメだよね』と落としにかかる。そこを頑張るべきかなと思います」

 一石二鳥とはこのことだ。旧統一教会の応援を受けて選択的夫婦別姓に抵抗する国会議員は、原発回帰を鮮明にした自民党(とくに安倍派)に多いため、ヤシの実作戦は原発推進議員の落選運動も兼ねることができるのだ。もっといえば、原発攻撃リスクをさらに増大させる敵基地攻撃能力保有や防衛費倍増を進める軍拡議員を落とすことにも有効だ。選択的夫婦別姓反対のヤシノミ作戦対象議員は、多くが原発回帰や軍拡推進に熱心であるからだ。

 ちなみに武蔵野政治塾は「停滞して動かない政治を国民の手に取り戻す実践的な知の源泉」「原野だった武蔵野から日本の政治に復活の息を吹き込む」という趣旨で2022年8月に設立された。岸田政権が原発回帰や防衛費倍増に邁進するなか、統一地方選や次期総選挙に向けて“拡大版ヤシノミ作戦”がどこまで広がり、政治を変える力となるのかが注目される。

【ジャーナリスト/横田一】

関連キーワード

関連記事