大量空き家時代における住宅事業者の社会的責任(1)
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少子高齢化だけではない「増加」の要因
我が国では今、空き家が目に見えて増えている。過疎化が顕著に進む地方圏はもとより、人口が密集する大都市圏の中心エリアでも、その存在を低くはない頻度で確認できるようになっており、それは空き家問題が本格的に深刻化しつつあることを表している。原因は少子高齢化という我が国が抱える根本にあるわけだが、それだけをみると空き家増加は抗いようがないように考えられる。
しかし、本当にそうだろうか。とくに新規に住宅を供給する(してきた)事業者が取り得る対処がないのだろうか、というのが本連載で問いかけたいことである。そして、結論めいたことを先に記すと、今後、空き家の増加について住宅供給事業者への世間からの責任追及がより強まるということだ。
そんな視点で、空き家問題について9回にわけて考察し、そのなかで住宅事業者らが取るべき方向性を示したい。1回目のテーマは「なぜ空き家が増え続けるのか」だ。まずは、改めて空き家に関する現状を確認しておこう。
総務省統計局がまとめた「平成 30 年住宅・土地統計調査」によると、我が国には全国に約6,240万戸の住宅があり、そのうち空き家が 約849 万戸あるとしている。これは全住宅の 13.6%を占める。
総世帯数は約5,400万世帯。当然ながら、これが総住戸数約6,240万戸を下回っていることが空き家問題の大前提となる。では、約5,400万戸の質はどうなっているのだろうか。同調査を深掘りすると、住宅の質を大きく左右する「住宅の断熱性能」に関する全体像がみえてくる。
それによると、総住宅数約5,362万戸(世帯数とほぼ同数)のうち約3,633万戸(67.8%)が「すべての窓が一枚ガラス」、約764万戸(14.2%)が「一部の窓が複層ガラス(二重窓含む)」となっている。
増え続ける「空き家予備軍」
つまり、我が国の住宅のうち合計約4,397万戸(82.0%)が、窓の断熱対策が不十分な「断熱不足」の状態にあるのだ。これらは断熱改修により性能を高められるが、そうしなければ近い将来に解体されるか、あるいは空き家になる可能性が高い、いわば「空き家予備軍」だ。
さて、国土交通省がまとめた新設住宅着工統計によると、2021年度の総着工数は前年度比6.6%増の約86万5,909万戸(戸建・賃貸・分譲マンションの合算)となっていた。かつてのような100万戸を大きく超えることはなくなったが、それでも依然として多い。
注目したいのがその再建築率だ。再建築とは「既存住宅の全部、または一部を解体し引き続き同敷地内で住宅を着工すること」をいうが、その率は5.7%に過ぎない。新設着工住宅の大半は宅地開発などによる純粋な新築なのである。
つまり、大量にある老朽化した住宅が残されたまま、少なくない住宅が毎年新規に供給され続けているわけで、それが空き家の増加、問題を深刻化させる要因となっているといえるのだ。
空き家、あるいはその予備軍である老朽化し性能が低い住宅を更新するという側面から、新築住宅供給には社会的意義はまだある。なかでも、省エネ性にハイレベルで優れた住宅は地球温暖化対策として増やすことは大切なことだ。
ただ、現状ではそうした質の高い住宅ばかりが供給されているわけではない。新築される住宅のなかには一定数の低質な住宅がいまだに含まれ、それが空き家問題解決の足かせになっているという現実がある。
(つづく)
【田中 直輝】
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