ウクライナ戦争1年、戦争は始めるより終わらせる方が難しい
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国際政治学者 和田 大樹
今月24日で、ロシアがウクライナに侵攻してから丸1年となる。ちょうど1年前、ウクライナをめぐる緊張が高まるなかでも、専門家の間では、プーチンは侵攻を控えるだろうとの見方が多かったことを記憶している。
プーチンとしても、侵攻すれば欧米から禁輸などの経済制裁に遭うことは十分承知していたはずだが、グローバル経済の深化が進む今日、それが断たれる危険性を犯してまで侵攻することはないだろうと多くの人が思っていた。
しかし、その楽観的予想は見事に裏切られ、我々は国家が国家を侵略するという国政政治の厳しい現実にまざまざと直面することになった。
侵攻から1年が経ち、今何が見えるだろうか。国際政治や安全保障の専門家の間でよくいわれることの1つに、「戦争は始めるよりも終わらせる方がずっと難しい」がある。今日のウクライナ戦争には、正にそれを象徴する姿が見える。
戦争を開始したロシアは、当初は軍事的に勢いがあったが、欧米から軍事支援を受けるウクライナ軍の攻勢が徐々に顕著になるにつれ、ロシアの劣勢が進んでいった。昨年秋、プーチンが予備兵など一部ロシア人の動員を発表し、ドネツクやルハンシクなどウクライナ東南部4州の一方的併合を宣言したことは、それまでのプーチンの戦略がうまくいっていないことを証明するものとなった。
また、今日、ロシア軍は兵士や軍事施設ではなく、インフラ施設や病院、一般市民の住居などを意図的に狙った攻撃を繰り返し、罪のない人々が次々に犠牲となっている。こういったロシア軍による“テロ”の連鎖もその劣勢を証明するものといえよう。
劣勢に立つロシアとウクライナの間では、1年が経っても戦争終結に向けた兆しはまったく見えない。本来であれば、こういった紛争当事国間で明るい兆しが見えない場合、仲裁者の存在が極めて重要になる。しかし今日、超大国米国の姿はない。
ウクライナを積極的に支援する米国を見れば、この戦争は米ロ間の代理戦争と表現できないわけでもなく、米国に仲裁する意思がないのは明らかだ。一帯一路を進める中国も諸外国の戦争に関与する意思すらなく、対立する米露、米中が安全保障理事会で拒否権という特権を持つ国連は、意思以上に能力面で仲裁は難しい。
今後ウクライナ戦争は再び激突がエスカレートする恐れがある。ウクライナ国防省は、今年3月の春あたりに大規模な攻勢を仕掛ける可能性を示唆し、米国の主力戦車M1エイブラムス、ドイツのレオパルト2、英国のチャレンジャー2など欧米からウクライナへ供与される最新鋭戦車は300を超えるという。当然のように、ロシアはさらなる兵力、兵器を用いて徹底抗戦することになるが、今日、ウクライナ戦争は第2章の幕開けのような様相を呈してきている。
戦争は始めるよりも終わらせる方がずっと難しいという言葉は、今日のウクライナ情勢にもそのまま当てはまる。プーチンがウクライナを自らの勢力圏と頭のなかで位置づける限り、この戦争で明るい兆しが見えてこない状況だ。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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