2024年09月01日( 日 )

Z世代の就職の軸は変化 「多様性」が企業を変える理由とは(前)

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(株)JobRainbow
代表取締役CEO 星 賢人 氏

 LGBTフレンドリー(※)企業だけを掲載する求人サイト「JobRainbow」。このサイトの大きな特徴は、「LGBT当事者などに対する理解が進んだ企業」への就職を希望する人々と職場環境を整備させた企業のマッチングの機会を創出していること。(株)JobRainbowは求人サイト運営のほか、LGBTフレンドリーな労働環境づくりに取り組む企業への研修や講習も行っている。これらのサービスはなぜ生まれたのか、このプラットフォームがもたらす変化は何なのか。同社代表取締役CEO・星賢人氏に話をうかがった。

※LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)について学習・理解し、彼らが安心できる環境を整えること。

優秀な人材の活躍機会損失を目にして

(株)JobRainbow 代表取締役CEO 星 賢人 氏
(株)JobRainbow
代表取締役CEO 星 賢人 氏

    ──起業に至った理由はなんでしょうか。 

 星賢人氏(以下、星)  私自身もLGBT当事者であることから学生時代にいじめられた経験があり、不登校となったこともありました。当時、多くの時間を過ごしていたのはオンラインゲーム。このなかで顔も本名も知らないたくさんの人たちと出会いましたが、私のカミングアウトを受けてもなお「お前はお前だから」と、ありのままの自分を受け止めてくれました。「学校のクラス=自分の世界」だと思い込んでいましたが、外の世界には自分を受け止めてくれる人がたくさんいる。インターネットが存在する時代でなければこのような出会いはなく、これを可能にしたテクノロジーのすばらしさにも気づきました。

 その後、大学に入学。「自分と同じように悩んでいる人たちのセーフティネットになりたい」と思い、LGBTサークルの代表を務めました。ここで目にしたのが「就活の壁に直面するLGBT当事者」です。あるトランスジェンダーの先輩は高校まで男性として生活していましたが、大学には女子大生として入学。本当に楽しそうに学生生活を送られていました。

 しかし、3年生になり、就職活動を始めると状況は一変してしまいました。彼女はCSRへの取り組みが積極的な企業を探し、ここならダイバーシティへの理解がありそうだと思い、応募しました。面接の際、自分がLGBT当事者であることをカミングアウトし、言われたのは「あなたみたいな人はうちにはいないので無理です」という言葉。その時点で面接は終了し、帰されてしまいました。これがきっかけで彼女は就活をあきらめ、退学してしまったのです。

 同じ当事者として悔しかったのはもちろんですが、優秀な人材だった彼女が社会に出ることができなかったことが残念でなりませんでした。ほかのLGBT当事者も同じような状況にあり、このようにして社会の成長機会が日々失われていると感じました。少子高齢社会において労働人口が減っているにもかかわらず、多様な人材が活躍できないというのは日本社会全体にとっての課題ではないでしょうか。

 また、私も就活生となったとき、マイクロソフトでインターン生として働いていました。マイクロソフトはその当時からダイバーシティに力を入れており、社内にLGBTサークルがありました。実際にレズビアン当事者の女性エンジニアの方は「同性パートナーと結婚したらお祝い金と結婚休暇をもらえた」と喜んで話されていました。このように、LGBT当事者がありのままの自分で働ける環境を整備している企業が生まれる一方で、求職者の耳にはそれが届いていない。「JobRainbow」はこの問題を解決するために生まれました。

セミナーの様子

 ──貴社のサイトを利用し、採用環境が変化した例はありますか。

 星 「日の丸交通(株)(東京都文京区)」ではタクシー業界全体の問題にもなっている人員不足やドライバーの高齢化に悩んでいました。当サイトに求人情報を掲載し、半年で30代の中途社員3、4名を採用。その後、続々と20代の応募が来るようになりました。また、人事担当者の方は既存社員のなかにもLGBT当事者がいることを知り、彼らが働きたいと思える環境を整備しました。これにより、従業員満足度の高い職場を実現することができました。

 日本全国にはタクシー会社がたくさんあり、働き手としてはどの会社でドライバーになっても仕事内容や基本的な賃金はそれほど変わりません。このようななかで会社を選ぶポイントとなるのは、会社の文化やダイバーシティといった無形資産の部分になります。この会社では採用活動を通じて新しい風が吹き、会社全体が大きく変わっていきました。会社の採用不景気的な状況をダイバーシティで一気に変えることができたのです。

 ──現在の登録者数は新卒・中途合わせて32万3,600人。LGBT当事者ではない方の登録もあるのでしょうか。

 星 新規登録者が年々増加しているなかで、昨年9月にはLGBTだけではなくダイバーシティ全体に広げた求人情報サイトへとリニューアルを行いました。もちろんLGBTの方も今まで通り探すことができますが、その他の方々にとっても使いやすいものにしていくため、「ジェンダーギャップ」「LGBT」「障害」「多文化共生」「育児介護」という観点も加えるかたちでアップデートしました。

 LGBT当事者のなかにも障がい者や外国籍など、ダブルマイノリティの方も存在します。また、「LGBTフレンドリーと称しているということはジェンダーギャップの部分にも当然取り組めているのだろう」と、マジョリティの方においてもその会社の風土を見る試金石となっており、この観点からマジョリティの方からの需要も感じています。

 同一性が高いと非言語領域が増加するため意思疎通が速くなり、組織に一体感が生まれます。そのために、そこに溶け込めない人たちは排除されていく。これは軍隊と同じで、強い瞬発力を出すことができます。確かに、組織のなかにマイノリティが存在するとさまざまな意見が出るため、進みが遅くなってしまいます。しかし長期的に見ると、さまざまな人が在籍することでいろいろな角度からリスクを分析したり、環境の変化に対応しやすくなったりと、企業の成長に寄与することができます。

(つづく)

【杉町 彩紗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:星 賢人
所在地:東京都渋谷区神山町5-20
設 立:2016年1月
資本金:2,600万343円
URL:https://jobrainbow.jp


<プロフィール>
星 賢人
(ほし・けんと)
1993年千葉県生まれ。立教大学を卒業し、東京大学大学院情報学環教育部を修了。2016年1月に(株)JobRainbowを設立し、同3月にサービスを提供開始。「Forbes 30 Under 30 Asia / JAPAN」にも選出された。上場企業を中心とし、500社以上のダイバーシティコンサルティング実績を有する。

(後)

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