2024年12月23日( 月 )

快方に向かう世界経済と市場(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2月6日号の「快方に向かう世界経済と市場~懐疑のなかで強気相場が育っている可能性」を紹介する。

イノベーションと企業部門の資本生産性の向上

 1980年以降、長期金利の低下が景気悪化の前兆ではなかったように、今の長期金利の低下も別の要因によるものである可能性が考えられる。それは何かといえば、企業部門の生み出す価値が企業部門が必要とする投資より大きく、恒常的資金余剰が起こっていると考えられるのではないか。その背景には資本生産性の恒常的上昇がある。設備、機械、知的資産などの価格が大きく低下し、設備などの再取得価格が低下し、必要な投資額が減少するということが起きている。

 またGAFAMではリストラが進行しているが、そこではAI、ロボットによる労働力代替が起きており、大きな生産性上昇ゲインが、企業部門の金余りを引き起こしている可能性がある。図表6,7に見る米国企業の大幅なフリーキャッシュフローの存在は、企業部門に潤沢な資金余剰が存在していることを示している。

図表6/図表7

米国当局の真の敵はデフレ、インフレではない

 第二に見過ごされている要素があるとすれば、米国政策当局の真の敵は何かの見極めである。詳述は別の機会に譲るが、FRBの最大の脅威はインフレではなくデフレ化であり、Japanification(日本化)であることははっきりしている。オーバーキルに結び付くような利上げは起きないと安心して見ていてよい。このことが明らかになれば、株価は急騰するだろう。

 FRBは本質的にデフレと戦っている。デフレとは潜在的に存在している成長可能性未達の結果であり、それは政策のサボタージュを意味し、必然では決してない、というものが米国の経済学者と政策当局にとってコンセンサスである。日本ではあいまいにされているが、米国の経済政策の最終ゴールは生活水準の向上であり、FRBの2大任務(dual mandate)とされている最大雇用と物価の安定はそのための手段に過ぎない。FRBは無理かつ不必要な引き締めは早晩転換させるであろう。

過度の賃金上昇を抑制している米国労働市場の効率性

 第三に見過ごされていることは、景気減速の下でも好労働需給が続き、かつ賃金上昇率がピークアウトしていることである。明らかに労働市場が弾力的に動き、資源配分をさい配しているといえる。コロナ禍の下での異常な労働需給ひっ迫が引き起こした、トラック運転手やウェイター、ウェイトレスなど接客業での人手不足は緩和に向かい、賃金上昇率は鈍り始めている。また高給セクターの金融や情報部門での雇用の伸びが低いことも全体の賃金水準の伸びを待引き下げている。

 しかし企業の求人意欲は強く、すべてのセクターで雇用が増加している(図表10参照)。旺盛な消費が広範な雇用機会をもたらすという好循環は、まったく損なわれていない。1990年代前半の情報化革命、BPR(ビジネスプロセスリ・エンジニアリング)革命のときは、機械に置き換えられたホワイトカラーが失業し、労働市場が不振のままのジョブブレス・リカバリーが続いた局面があった。当時と比較すれば、現在がいかに新規雇用機会の創造が旺盛であるかがわかる。

図表8/図表9/図表10

 以上のように底流にある要素を考慮に入れるならば、2023年1月の意外な世界株高は大きな上昇サイクルの初期場面である可能性が十分にあることを、念頭に置きたい。とくに日本の場合、徹底的に市場フレンドリーであった黒田日銀総裁の退陣が目前に迫っており、金融政策転換の懸念から株価に下押しの圧力がかかっている。岸田首相が次期日銀総裁として黒田総裁の異次元金融緩和の正しい継承者を指名するとすれば、それをきっかけに大きなラリーが始まるかもしれない。

(3)悲観に傾いている心理と需給、バリュエーション調整は終わっている

 株式バリュエーションから見て米国株式の割高感はまったくなくなっている。ピークでは40倍弱まで高まったGAFAMのPERは25倍まで低下し、S&P500のPERも23倍から昨年10月に16倍弱まで低下した後、現在は18倍弱と過去平均のレンジに戻った。図表11に見るFEDモデル(株式益回り=10年債利回り)に基づけば、4%の米国長期金利は25倍のPERが正当化できることを考えると、バリュエーション調整はほぼ完了したといえるのではないか。

 また市場心理は極端に悲観に振れている。世界株式市場は、心理、バリュエーション、需給から見て過度のネガティブバイアスをもっていることは否めないだろう。米国株式バブル崩壊説を強く主張してきた多くの悲観論者の根拠は崩れているといえる。以下図表11~15を参照されたい。

図表11/図表12/図表13/図表14

図表11/図表12/図表13/図表14/図表15

(了)

(前)

関連記事