【福岡県議選】地元で保守分裂、負けられない蔵内福岡県議
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福岡県政のドン
福岡県議会議長、自民党福岡県連会長などを歴任し、福岡県政におけるドンとも呼ばれる蔵内勇夫氏。アジア獣医師会連合の会長として、国際組織「アジア獣医師会連合(FAVA)」の日本事務所の福岡誘致を成功に導くなど、ワンヘルス*の推進に力を発揮している。
「マスコミなどでドンとか重鎮とか書かれるが、これはごく表面だけ見たまったくの誤解である」(2月4日の蔵内県議の事務所開きにおける桐明和久福岡県議会議長の発言)という見方もあるが、自民党の地方組織である都道府県連の役員構成を見ていくと、力関係では国会議員よりも地方議員に優位性があるように見える。自民党福岡県連では、会長、副会長、幹事長、総務会長いずれも県議が務めている。
近隣ではどうだろうか。たとえば、県連会長職について、熊本県や佐賀県で福岡と同じく県議会議員が、一方、広島県や山口県などでは国会議員が会長を務めている。19年の参院選で河井克行元法務大臣が広島県内の自民党系の地方議員に現金を渡していたという買収事件が問題となったが、国会議員の選挙では地方議員が実働部隊を担っており、なかでも県員の役割が大きい。県議には、自分たちがいなければ国政選挙の票集めはできないという自負がある。
福岡県は他県と比べて県議の影響力が大きく、それは蔵内氏の存在によるものとの見方は強い。
地元・筑後での影響低下
ところが、蔵内氏の地元、筑後市において一昨年、その力関係が逆転したといわれる出来事があった。蔵内氏と17年に筑後市長に就任した西田正治氏(現在2期目)との間に溝ができ、21年11月の選挙では、蔵内氏ら自民党県連は新人の宇野晶氏を推薦したにもかかわらず、西田氏の再選を許したのだ。
選挙前には、「農業の自立を考える会」なる団体によって「全農パールライスが日清製粉工場跡地を、業者が買った価格の3倍で取得した。これに地元大物議員が関わっている」という趣旨のビラが筑後市内で頒布された。この地元大物議員とは蔵内県議を示唆する内容だった。西田氏陣営には、公明党関係者や自民党所属のはずの藤丸敏衆議院議員が出陣式に出席していたほか、八女市など近隣の公明党地方議員までもが選挙カーに乗って応援していたという。公明党の支持をとりつけたのは鳩山二郎衆議院議員だといわれる。16年の衆議院福岡6区補選の遺恨がいまだ続いており、鳩山氏は自民党福岡6区支部長に就けないままにある。ある時期から鳩山氏と藤丸氏の親分に当たる古賀誠氏が急速に接近したという。
自民党内の代理戦争
4月に行われる統一地方選挙において、福岡県議会も改選が行われ、最近無投票だった筑後市選挙区においても選挙戦が展開されそうだ。副市長・北島一雄氏が任期途中(任期は2024年12月まで)ながら1月10日付で辞職し、県議選への立候補を表明したのだ。北島氏は、立候補を決意した経緯を次のように語った。
「3年間コロナ禍で、どうやって市民の生活を守るかで、コロナ交付金の使い道などを考えてきたなかで、県は何をしてきたのか。保健所にも市の職員をかなり派遣しましたし、急に県から職員を出してくれなど電話がかかってくる。ワクチン接種は基礎自治体が担いますから、県のサポートがほしかった」「選挙がないままでは民主主義とはいえない。今回副市長職を辞して、市民、県民のために働くべく立候補を決めた」
地元関係者は「市長選も県議選も代理戦争」と話す。筑後市議会において原口英喜元議長や公明党市議など半分は市長派に属し、古賀氏・藤丸氏の系列といえよう。蔵内氏と近い市議は弥吉治一郎議長や若手の鶴佑季子議員などで、17名の市議会は真っ二つに割れている。鶴氏は同僚議員から受けたハラスメントを告発、福岡県議会に議会関係ハラスメント条例が提出されるきっかけをつくった議員だ(22年6月に可決)。
2月4日に開かれた蔵内氏の事務所開きには約400名の支援者が詰めかけた。松山政司参議院議員、県議会からは桐明議長をはじめ、原口剣生自民党県連会長、板橋聡県議、ほかには元県議で九州の自立を考える会副会長・吉村敏男氏、弥吉治一郎筑後市議会議長なども出席していた。弥吉氏は元日本社会党の議員で、蔵内氏とは立場は異なるが、親しくつきあってきたという。一方で公明党の議員の姿は見当たらなかった。
保守分裂の様相を呈しているのは筑後市の隣、八女市でも同様だ。福岡県議選の八女市・八女郡選挙区(定数2)では、現職の桐明氏(自民党)と保守系の緑友会所属で福岡県農政連公認の栗原悠次氏のほか、新人で21年衆院選に立候補した青木剛志氏が立憲民主党公認候補として立候補予定で、三つ巴の戦いとなる。栗原陣営の最高顧問を務めているのは古賀氏で、古賀氏、藤丸氏は2月26日の栗原氏県政報告会に出席する。明らかに自民党内政局の様相となっている。
福岡県議会の選挙区は44あるが、筑後市選挙区が最も注目されている。ある自治体の首長はこう語った。「県議会には55年体制がまだ残っていて、蔵内さんが主要会派をまとめているから、執行部ともうまくやってきています。今回、それがどうなるのか、我々首長の間でも、一番の関心事ですよ」。
1987年に福岡県議会議員に初当選した蔵内氏は、今回当選すれば10期目となる。国際組織の代表に上り詰め、県都福岡市に「FAVAワンヘルス福岡オフィス」を開設させるまでに漕ぎつけた。蔵内氏としては、ここで負けるわけにはいかない。一世一代の大勝負がいよいよ始まる。
*ワンヘルスとは、は人の健康、動物の健康、環境保全は密接につながっており、1つという考えのもと、人と動物、そしてそれらを取り巻く環境が直面しているさまざまな課題の解決に取り組もうという考え
【近藤 将勝】
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