カリスマ起業家、澤田氏退任 HTBの「城壁都市」は未完で終わる(中)
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カリスマ起業家として一世を風靡した旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)創業者の澤田秀雄会長兼グループ最高経営責任者(CEO)が2月1日付で退任し、取締役最高顧問に就任した。矢田素史社長は続投し、会長職は空席となる。コロナ禍で打撃を受けた海外旅行事業が復調の兆しが見えたことを受け、退任を決意したとされる。
最大の疑問は、長崎県佐世保市のリゾート施設ハウステンボスをなぜ売却したのかということに尽きる。澤田氏が情熱を傾けていたハウステンボスを壮大な「城壁都市」にする構想は実現しないままで終わった。航空業界に風穴を開けた風雲児
インターネット黎明期の1999年、日本は空前のベンチャーブームに沸き立っていた。HISの澤田秀雄氏、ソフトバンクの孫正義氏、パソナの南部靖之氏は「ベンチャー三銃士」ともてはやされた。
澤田秀雄氏は1951年2月4日、大阪市生野区の生まれ。大阪市立生野工業高校を卒業後、73~76年まで、旧西ドイツのマインツ大学経済学部に留学。留学中にアルバイトで稼いだ資金を元手に、ヨーロッパはもとより、中東、アフリカ、南米まで50カ国を旅して回った。その放浪のなかで、初めて格安航空旅行券なるものに出会った。正規料金の半額以下。こんな安い航空券があることが、新鮮な驚きだったという。
80年12月、東京・新宿西口で学生向けの格安旅行代理店、インターナショナルツアーズを設立。現在のエイチ・アイ・エス(HIS)である。格安旅行券は売れに売れ、HISは急成長した。
95年3月にはHISが店頭公開。資金を手にした澤田氏は、96年2月にスカイマークエアラインズ(2006年10月、スカイマークに商号変更)を設立、念願の航空業界に進出した。しかし、澤田氏は、2003年9月、スカイマークをベンチャー起業家の西久保愼一氏に売却するという苦い経験をしている。
航空事業から撤退した澤田氏は、金融事業に軸足を移す。99年に買収した協立証券(現・エイチ・エス証券)が2004年10月にジャスダック市場に上場。澤田氏が手掛けた3社目の上場会社だ。07年に持ち株会社体制となり、澤田ホールディングスとなる。主力はモンゴルのハーン銀行だ。
抜群のアイデアでハウステンボスを再生
10年4月、格安旅行会社HISがテーマパーク運営、ハウステンボス(HTB)を買収。HIS会長を務める澤田秀雄氏がHTBの社長に就いた。澤田氏はHTB内のホテルヨーロッパに居住し住民票もハウステンボスの所在地(長崎県佐世保市ハウステンボス町)に置いて再生に取り組んだ。
HTBは、死に体同然だった。テーマパークは、東京や大阪のようにエリアの人口が多い地域で、交通の便がいいことが立地条件だが、どちらも満たしていなかった。しかも、若い男女で沸き立つような活気はみられない。再建できるとは誰も思っていなかった。ところが、HTBの再建が軌道に乗り、HISの屋台骨を支える大黒柱に育った。
澤田氏は、HTBをオランダの街並みを再現したテーマパークから若者たちが集うレジャーランドに変えた。集客を高めるために「やったらおもしろいんじゃないか」という仕掛けを次々とつくっていった。毎年打ち出した「花の王国」「光の王国」「音楽とショーの王国」「ゲームの王国」「健康と美の王国」の王国シリーズで集客に務めた。15年7月にはロボットが接客するホテル「変なホテル」を開業。九州初の本格的な歌劇団もつくった。
園内には、100万本に及ぶ数のチューリップが咲き誇る。春、夏、秋、冬のシーズン毎に造り出す世界最大級1,100万のイルミネーションが武器だ。九州最大級の花火ショーは、いまではすっかり名物行事となった。
HTBは赤字経営から抜け出せるだろうか。そう危ぶまれていたが再生した。オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾート、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに次ぐ第3極のレジャーランドとして復活した。事業は人なりだ。
ロボットホテルとエコロジービジネスの実験場
澤田氏が事業家として傑出している点は、ハウステンボスを新しい事業の種を育てる実験場にしたことだ。その代表がロボットホテルの「変なホテル」である。
HTB内のロボットホテルは大成功。その手応えを得たことから、「変なホテル」の全国チェーン展開に乗り出した。ロボットを活用することで、同規模のホテルの約4分の1の従業員で運営するローコストホテルだ。ホテル子会社のHISホールディングス(東京・新宿)を通じて東京都心に進出攻勢をかけた。メインターゲットは観光客だ。
HTBは18年3月、球体型の船を使った「水上ホテル」の実証実験を始めた。夜に乗り込み、目的地で朝を迎える。今夏にも一般向けの導入をめざす。球体型で、1艇が丸ごと個室の水上ホテルは世界初だ。
2艇をつなぎ、船で引っ張って運航する。HTBを出発して船内で一夜を過す。翌日、恐竜の新アトラクションを始める無人島「ジュラシック・アイランド」に到着しているという構想だ。「水上ホテル」を「変なホテル」に次ぐホテルブランドに育てる。
HTBは、エコロジー技術の実験場でもある。オランダの雰囲気を醸し出す1基の風車には風力発電所の機能を備えている。7,000枚の太陽光パネルとともに、園内に電力を供給している。敷地内を走るカートは電動。ガスは排出していない。将来は園内の消費量よりも多く電力をつくりだし、電力会社のように外部に販売する。HTB電力にするアイデアだ。
(つづく)
【森村 和男】
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