2024年12月22日( 日 )

大量空き家時代における住宅事業者の社会的責任(5)

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未成熟なストック住宅流通市場

日本人は自宅の資産価値に関する意識が低い
日本人は自宅の資産価値に関する意識が低い

    日本は欧米と比べてストック(既存・中古)住宅流通量が少ない。おおよそのイメージではあるが、前者では住宅流通市場のうちストック住宅が占める割合は20%に満たないが、後者のうち米国では80%ほどである。では、なぜ日本のストック住宅の流通量は低いのだろうか。

 いくつかの理由があるが、大きくは第一に日本人の住まいに関する志向が新築偏重であったこと、第二にストック住宅が低質であること、第三にその流通市場が未発達であることが挙げられる。

 余談になるが、もう1つ理由があるとすれば、1980年代末のバブル経済崩壊の名残ともいえそうだ。あれ以来、日本人は一部を除いて住宅に投資する、資産として大切にするという考え方を薄れさせてしまったからだ。

 海外の人々は住宅について、住み替えるたびに資産を増やせるものという意識を有している。中国や韓国、オーストラリア、そして東南アジアでもそうだ。なかでも、欧米各国ではその意識が強く、住宅の資産価値を高めることに熱心だ。

 それは、結婚祝いの品としてポピュラーなのが大工道具であることにもよく表れている。送り主は新婚夫婦に対して、「これを使って購入した住宅を自分で修繕し、価値を維持・向上させなさい」と意思表示しているわけだ。

 彼らに比べて日本人の住宅観は明らかに刹那主義的。自分たちの代だけ、住む間だけ保てばいいという考え方を持つ人が多い。そこへもって、さらにやっかいなのが、取得時のライフスタイルを重視しがちであるため、ストック流通に向かないものが相当量あることだ。

 3階建てなどの二世帯住宅がそれに当たる。二世帯ニーズは単世帯のそれに比べ少ないことは明らかである。それは買い手が少ないことを意味し、したがって二世帯住宅はストック住宅流通市場では有利とは決していえない。

 また、最近の若い住宅取得者層についてはそれほどでもないにせよ、日本人は注文住宅、高度にカスタマイズされた住宅を好む傾向があるが、カスタマイズの度合いが高いほどストック市場では買い手が見つかりづらくなるという側面もあるのだ。

 消費者は将来的にそんな問題に直面することなど考えてもいないため、いざ住み替えを検討する段になって、市場流通性がやたらに低いことに気付く。そして、自宅の資産価値が大きく目減りしていることを知り、愕然としてしまう。

 これは、日本人が“自宅は値上がりするもの、資産として価値の維持に努めなければならないもの”ということを意識していなかったということなのである。

重い国や事業者の責任

 もっとも、それは国民・消費者だけが悪いわけではない。そうした状況を知ってか知らずかは別として住宅事業者も良くないし、おそらく知っていたであろう国はより強く責任が問われてしかるべきである。

 空き家問題をはじめとするストック住宅の問題は、行政や事業者の怠慢が原因といえるのだ。結果的に欧米の水準にはほど遠い耐久性、断熱性の住宅が多くなり、それが今、空き家問題だけでなく、ヒートショックなど国民の健康問題などとして、国全体に重い影を落としている。

 とはいえ、このまま無策ではいられない。この20年ほどで、将来的にこれ以上空き家を生み出さないようにするための施策や、所有者にとっての資産価値を落とさないようにするための施策が、効果は別として国などの行政や住宅事業者によって採られるようになってきた。

 「住生活基本法」や「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」、長期優良住宅制度などといった法整備がそれに当たる。少なくとも新築住宅の質的向上を誘導し、この20年に供給されてきたストック住宅については一定の良質さを確保してきた。

 ここで、冒頭にあげた第三の課題、すなわち流通市場の整備が絡んでくる。いくらストック住宅が良質になろうと、それが流通し消費者に選ばれなければ、空き家をはじめとするストック住宅の問題は解消に向かわないからだ。

 そこで、すでに一部の大手ハウスメーカーがストック住宅流通市場の整備と活性化に向けた取り組みを推進している。それは現状では必ずしも芳しい成果を上げてはいないが、新築住宅市場も見据えるという巧妙な思惑をもちながら取り組みが継続している。次回から詳しく紹介する。

日本における住宅流通市場の様子(国土交通省資料より抜粋)
日本における住宅流通市場の様子
(国土交通省資料より抜粋)

(つづく)

【田中 直輝】

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