ウクライナ戦争へ接近する中国 ロシアへ武器供与できるのか
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国際政治学者 和田 大樹
米国は最近、中国がロシアに対して武器支援を検討しているのではとの警戒を強めている。ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は2月26日、米メディアで言及し、中国は依然として武器供与を検討対象から外しておらず、仮に供与すれば大きな過ちであると警戒感を示した。ブリンケン国務長官も2月18日、中国がこれまでロシアへ送ってきた殺傷力のない装備に加え、殺傷兵器の提供を検討しているとの情報があると明らかにした。
また、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も、中国がロシアに武器支援を検討している兆候を確認したとして、国連安全保障理事会の一員である中国に自制を呼び掛けた。これらについては、今日でもさまざまな報道、憶測がある。しかし、下記の理由より、筆者はそれには懐疑的だ。
第1に、中国は多分野で米国との競争、対立関係にあるが、現時点で中国は米国との必要以上の関係悪化、そして欧州との関係悪化は避けたいのが本音だ。仮に、中国がロシアへ武器供与することになれば、米国との関係だけでなく、必然的に豪州を含む欧州諸国とも関係の悪化を招き、自国への経済的な制裁が強化される可能性がある。たとえば、近年関係が冷え込んでいた中国とオーストラリアの間では経済関係の再建が進められているが、それは中国も望んでいることだ。武器供与となれば、この再建に向けた動きも鈍化するだろう。
第2に、上記と関連するが、大国中国を自認する習政権の思惑である。今日の中国がロシアと大きく異なるのは、経済力や軍事力を有するのみならず、世界的な影響力を有数ということだ。21世紀に入り、被支援国中国の姿はそこにはなく、中国は一帯一路を基軸に、地域を超えたグローバルな経済支援という名の影響力拡大を続けている。習政権もそれを強く自認している分、中国としてはグローバルサウスからのイメージ悪化は避けなければならない。今日の米中対立において、中国は如何にグローバルサウスとの関係を維持、強化できるかを戦略的に重視しており、ロシアへの武器供与を実施すれば、米国による“中国ネガティブキャンペーン”に拍車がかかることになる。中国は大国化すればするほど、より客観的な部分を意識せざるを得ない。
第3に、中国は2月24日、ロシアとウクライナ双方に対話と停戦を呼び掛ける仲裁案を公表したが、これはロシアへの武器供与とそもそも相反する動きである。当然ながら、仲裁国には仲裁能力のほかに中立性と客観性などが求められるが、ロシアに武器を支援しながら仲裁するということはあり得ず、国際社会から信頼を得られるはずがない。武器供与と仲裁を同時進行でできると習政権も思っていないだろう。
第4に、中露関係である。今日の中露関係では政治的には中国が圧倒的に上位にあるとはいえ、ロシアが対米関係上の戦略的共闘相手として重要である一方、中国としては“遠い戦争”にできるだけ関わりたくないというのが本音であり、欧米との亀裂を強めるロシアとどこまで付き合っていくか悩んでいるというのが実情であろう。現に、習国家主席も核使用に反対する姿勢を示している。中露は結束、協調というイメージが先行し、それは事実ではあるが、相容れない部分があることも事実である。そう考えると、中国が積極的にロシアへの武器供与に動くとも思えない。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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