アベノミクスで急成長する官製ファンド(後)
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官製ファンドの新設が相次ぐのは、霞が関の各省庁にとっては、新たな組織をつくること自体に意味があるからだ。
さすがに露骨な天下りこそ手控えているが、各官製ファンドには親元の各省から現役出向する官僚が必ずおり、事実上運営を取り仕切っている。厳しい定員規制がありポストが増えない各省からすると、中高年の官僚を出向できるポストを多く持てる官製ファンドはそれだけでも魅力だ。
さらに数百億円から数千億円規模の資金を付与され、出資先をどう選定するかは官製ファンドの意のまま。ここに「権力」が生まれる。省庁ほど情報公開の義務にさらされないので外部からの問い合わせや情報公開の求めに対してはきわめて消極的。好き勝手にできるのだ。わかりやすい事例が、財務省が政投銀につくらせたファンド総額1,500億円の「競争力強化ファンド」である。同ファンドのアドバイザリーボードには奥正之(三井住友フィナンシャルグループ会長)、張富士夫(トヨタ自動車名誉会長)らが、社外取締役には三村明夫新日鉄住金取締役相談役ら財界主流の著名人がずらりと並ぶ。
そうした競争力強化ファンドがこれまで資金を振り向けた先は、昭和シェルの100%子会社ソーラーフロンティアの太陽光発電事業、NECのITソリューション事業の再構築、三井化学の歯科材料事業など大企業案件ばかりである。
財務省はこれまで支配下にあった政府系金融機関を通じて経済界に隠然たる影響力を行使してきたが、それをファンドの形で行おうとしたのが競争力強化ファンドだろう。先進国最悪の財政難であるはずなのに財務省が官製ファンド設立に異様に理解があるのはこうした事情ある。自分たちの影響力を温存したいだけなのだ。三つも官製ファンドを持つ経産省もそれと同じだ。中小企業基盤整備機構を通じて中小企業やベンチャー企業に影響力を行使するとともに、産業革新機構を通じてジャパンディスプレイの設立やルネサスへの出資などエレクトロニクス業界の再編を後押しできる。さらにクールジャパン機構を通じて、同省としては新開拓地であるコンテンツやアパレル産業にも影響力を行使できるようになった。
もっとも、そうした官の金にすがりたがる民間企業の“モノほしそうな目つき”が彼らの跳梁跋扈を許している背景でもある。万策尽きたシャープが経産省にすがり、革新機構から金を引き出したいのは見え見えだ。スポンサーが不在だった日本のコンテンツ産業にとってクールジャパン機構の持つ850億円の資金は干天の慈雨に等しい。
しかも、批判はすべてシャットアウトできる。産業革新機構の場合、批判的な報道をする記者を締め出し、どの報道機関の取材に応じるかどうかは、経産省出向の企画調整担当役員の胸三寸だった。小宮義則氏(現・内閣官房宇宙審議官)が産業革新機構の執行役員のときには、小宮氏の前職が資源エネルギー庁総合政策課長だったせいか、経産省の進める原発報道に批判的な記者は嫌われ、革新機構が取材を一切拒絶するということもあった。取材しているベテラン記者は「あまりにも恣意的。毛ほどの批判も許さない狭量さに驚いた」と指摘している。(了)
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