【インタビュー】コロナ禍に大胆変革 「全員経営」で過去最高益
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(株)如水庵
代表取締役社長 森 正俊 氏銘菓「筑紫もち」などを製造する(株)如水庵の森正俊氏が代表取締役社長に就任したのは、コロナ突入とほぼ同時期。未曾有の減収と向き合うなか長期戦の覚悟を決めると、多様な改革案を繰り出し2023年3月期にはついに過去最高益を叩き出した。逆境をチャンスに変えた「新人経営者」の手法とは──。この3年間を振り返っていただいた。
会長からの金言に奮い立つ
──社長就任は20年4月1日、まさにコロナと同時にトップ就任となりました。
森正俊氏(以下、森) 就任から1週間後に最初の緊急事態宣言が出たことで売上が8割減になりました。実は父(会長・恍次郎氏)も似たような経験をしています。社長就任の3年後、オイルショックで材料が入らず倒産の危機に陥りました。その際、当時の福岡シティ銀行の四島司頭取から「こういう時には一定の規模になっておかないと危ない」とアドバイスを受けました。そこから必死に事業拡大に取り組み、10年後には売上が10倍以上に成長していました。
この経験から父は常々「オイルショックのおかげで今がある」と言っています。ですから周囲が私の社長に就いたタイミングに同情するなか、父は「お前本当にいい時に社長になったね」と真顔で言ってきました。また、私は困難に陥った時ほど燃える性分です。歴史を振り返ればスペイン風邪が収束するまでに3年かかったことを考えると、コロナも3年とみて社内にはこの期間を耐え忍ぶのではなく「ウィズコロナで成長してアフターコロナで飛躍しよう」というメッセージを発信し続けました。また、自社にある価値の掘り起こしや棚卸しを行い、社歴や理念、ものづくりの技術などすばらしい価値あるものを社員に伝え続けました。そういったものは後々、必ずお客さまにも伝わっていくものですから。
──理念の浸透にも取り組まれたそうですね。
森 例年経営計画書を制作してきましたが、理念や社是など記述内容が多すぎて経営幹部にも浸透していなかったため、改善に向けて私自身が試験問題を作成して経営計画書の習熟度テストを実施しました。その結果、私が好きな経営理念の1つである「お菓子は平和の文化、家庭の平和と世界の平和に貢献する」というフレーズはもちろん、方針、計画が隅々まで浸透してきました。今後は内容の絞り込みもしていきます。
──コロナ時にどのような対策を取られたのでしょうか。
森 資金面では雇用調整助成金や事業再構築補助金など政府支援をフル活用させていただきました。そして、付加価値向上に向け7つのプロジェクトを立ち上げました。1つが「おもてなし」です。もともとの「接遇」「おもてなし」は当社の強みです。AIやIoTなど便利な時代になればなるほど、人のぬくもりやおもてなしの価値は上がると思っていましたが、コロナ禍で一層高まりました。
そのほか、福岡No.1のおもてなし企業を目指して教育・研修を充実させました。そしてDX推進として、クラウドサービスの活用やコミュニケーションツールに「LINE WORKS」を採用。人事労務管理や原価計算もシステム導入しました。ただ到達目標は付加価値の創造です。そういう意味ではAIによる販売予測システム「EBILAB(エビラボ)」が最も効果を上げました。当社の人気商品のなかに「いちご大福」など、季節のフルーツ大福があります。システム導入により日持ちしない商品でも製造計画が立てられるようになりました。そうすることで仕入れ計画や生産者への発注量が決まりイチゴの廃棄ロスが減るというサイクルができました。SDGsにも寄与し、当初敬遠していた社員たちからも「早くやればよかった」という声が挙がりました。
──職人さんが関わるプロジェクトもあるそうですね。
森 2つあります。技術力は如水庵の無形資産のなかで最大の価値です。「工房人材育成」では社内講師、社外講師招へいなどで手づくりの職人の育成や、ライン生産、品質管理、安全衛生を含めた人材のスキルアップと多能工化に取り組みました。もう1つは大福類のブランディング「おふく大福」プロジェクトです。「いちご大福」ら大福類をコロナ仕様の自家消費向けにブランディングしました。リニューアルした博多駅マイング2号店と新規出店のららぽーと福岡店を「おふく大福」専門店にして、駅前本店のリニューアル時に職人を置くミニ工房をつくりました。
──原料高騰のなか、価格転嫁に及び腰になりませんでしたか。
森 当社は製造業ながら営業利益率1%という低利益率でした。背景に「最高品質のものをできるだけ安い価格でお客さまにご提供する」という方針がありました。原料は絶対に妥協しませんが、いかんせん価格が安すぎました。お客さまに筑紫もちが最高品質であるという価値を伝えるためにも適正な価格にする必要がありました。そこでプロジェクト名を「筑紫もち適正価格」にしました。値上げに合わせて季節の包装紙展開など価値向上も同時に行いました。
──商品のスクラップも進めたそうですね。
森 おそらく1,000以上のアイテム数があります。新しい商品が生まれると増える一方でした。お客さまのなかに1人でも既存商品のファンがいる場合は減らせないし、なかには会長が50年前に魂を込めてつくった商品もあります。しかし、売り場における商品は限られているため、おすすめ商品を際立たせる必要があります。スクラップをしてコロナ用の臨時対策として商品構成や店舗ディスプレイもギフト中心から自家消費中心に変更しました。筑紫もちは3個パック、5個パックなどの販売数を増やしました。
──プロジェクトによって期間は違いますか。
森 短期的に成果が上がるものから中長期にかかるものまであります。短期プロジェクトだった筑紫もち適正価格プロジェクトは販売強化プロジェクトに名称を変更して筑紫もちの価値を上げていくチームに発展しています。物流改革プロジェクトは、物流クライシスに対応するものですが、物流部門だけでなく製造、販売を含めた如水庵のサプライチェーン全体の改革ですので時間がかかることを想定しています。ただ、いずれやらないといけなかったことがコロナで一気に加速度的に実現できました。こうしたチャレンジは財産になっていると感じています。とくにリーダーが成長しました。設定したストレッチ目標も概ね達成できました。
──会長とは経営手法が違うようです。
森 父は大学生のときに就任して以来、長期間トップを務めたカリスマとして全部自分で決めてきました。私はリーダーたちに権限委譲して、その下にいるメンバーたちにも力を発揮してもらうようにしました。プロジェクトによっては部門横断で取り組むものもあります。前述の新店やリニューアルなどもコロナのおかげで実現したと言っても過言ではありません。おかげで筋肉質な会社になりました。また、私は自分の組織をつくるのに3年から5年ぐらいかかるだろうと思っていましたが、コロナという共通の困難によって組織があっという間に一体化しました。一見やる気が表に見えないと思っていた人も、比べものにならないほど生き生きと活躍し始めました。
──社長が高校・大学とラグビーで活躍されたことは知られていますが、今回の経験に生かされましたか。
森 かなりあります。困難を乗り越えてこそ自分の成長があることを経験してきました。
また、監督は試合中に指示を出さないため、自分たちで考えながら動かなければならないところがあります。コロナ禍でも走りながら考えたところがあります。また、やっぱり自己犠牲の精神ですね。仲間のために体を張るというのは人を生かすところに相通ずるものがあります。野球の犠牲フライやサッカーのゴールアシストは記録に残りますが、ラグビーではトライする前のパスは記録に残りません。自己犠牲で体を張るのを前提にしたスポーツなのです。「全員経営」の社風になったと思います。──結果的にどういう業績推移をたどったのでしょうか。
森 コロナ前には23億円だった売上が翌年に14億円に落ちました。コロナ前より5店舗ほど減らしましたが、今はコロナ前よりも売上がよくなっています。当然、1店舗あたりの収益性はかなり上がりました。菓子メーカーは営業利益率5%が目安とされますが、前期に営業利益率が7%くらいになりました。おかげさまで過去最高の冬の賞与に加えて決算賞与を出すことができました。
最強の広告は口コミ
──入社直後の17年にまず取り組まれたのがインバウンドだとか。
森 海外客にはまったくアプローチしていませんでしたが、思わぬ経緯で筑紫もちが韓国で人気となりました。海外の親族に筑紫もちを送ったところ、知人の韓国人の方が「今まで食べた『インジョルミ』のなかで一番おいしいと言われたそうです。インジョルミとは韓国の伝統菓子のきなこもちです。筑紫もちも同じカテゴリーに入ります。ヒントをいただいたことで韓国人のブロガーを招いてSNSで発信してもらったところ大反響となりました。以来韓国のお客さまがスマホを見せながら「インジョルミはどこ」と言ってもらえるようになりました。
ただし、一方的な広告発信は昔ながらの口コミには勝てません。SNSやインフルエンサーはツールとして活用しているだけです。テレビ番組にしても3年間で30番組ほど取り上げてもらったことで周囲から「(前職の)電通ネットワークの使いすぎだ」と指摘されますが、まったくそれにはあたりません。社内に価値をしっかりと伝えて浸透したことが外部にも広がったこと。そして、会社や商品がもつバックストーリーがありそれをお伝えできたことだと思います。雑誌、テレビ、ウェブ媒体がそれぞれの目線で数多くを取り上げていただきました。結局いかにお客さまに喜んでいただくかを追求できるかだと思います。
──飛躍のアフターコロナが本格化します。プロジェクト以外で今後はどんなことに取り組んでいかれますか。
森 結局、人材育成に集約されると思います。社員1人ひとりが自分史上最高の成長を実感したときが飛躍だと思います。リーダーたちはリスキリング。若者を引き上げるためにも必要です。そして女性活用です。当社は女性が7割の職場ですし、お客さまも女性の方が多い。私が社長になってから女性管理職を何人かつくりましたけれども、もう少し比率を上げたいなと思います。シニアも大事です。先日退職された方は原店ができてから30年に渡り78歳まで働いていただきました。おもてなしのプロ中のプロで、彼女に育ててもらった店長も多い。こうした人を1人でも増やしていきたいと思います。
如水庵の「庵」は建物の最小単位です。小さい建物のなかで目の前の1人のお客さまを大切にし、そして目の前の仲間も大切にするのが“如水庵の心”だと考えています。仲間同士が思いやってこそ仕事の成果も上がります。父と母(森純子副社長)がつくり上げた大事な文化です。この財産をさらに深めていこうと思います。
【鹿島 譲二】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:森 正俊
所在地:福岡市博多区博多駅前2-19-29
設 立:1989年11月
資本金:1,000万円
売上高:(23/3)22億900万円
<PROFILE>
森 正俊(もり・まさとし)
1976年2月13日生まれ。2000年、早稲田大学社会科学部卒業。2000年4月、(株)電通九州入社。16年12月、(株)如水庵入社、20年4月、代表取締役社長就任。法人名
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