低金利時代は終わっていない(1)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は5月16日発刊の第332号「低金利時代は終わっていない」を紹介する。50年ぶりのインフレ、40年ぶりの急速な利上げ・引き締め、バブル化した資産価格の下落などにより、ディスインフレ、金利低下の時代は終わったとする見解が台頭していた。ここ一年の金融市場の焦点は、レジームは変わったのかの見極めであった。武者リサーチは注意深くこの点を追跡してきたが、結論が出つつある。レジームは変わっていない、やはり低金利の時代は終わってはいないのである。世界的低金利再来の下では、日銀の政策転換は大きくずれ込もう。みすみす円高を将来招きかねない金融政策転換は、政権も世論も容認しないだろう。
ここ1年間で以下の諸点はほぼたしかになった。
1)インフレは一過性、2年もすれば元に戻る
2)低金利趨勢も変わらない。インフレが定着しないように、との予防的金融引き締めの役割は終わった、過去40年間で最大の長短金利逆ザヤの弊害は深刻化する
3)低金利時代が終わらないとすれば、資産価格はバブルではない
4)新産業革命は続いている
インフレ・高金利時代到来との想定に基づく投資ポジションは、早急に是正されるべきであろう。
(1)インフレは一過性、元に戻る
一次的インフレ要因は完全解消
一過性の資源価格、サプライチェーン混乱のインフレが、FRBの迅速な対応により、定着することはなかった。あと1年でインフレ率は顕著に低下するだろう。図表1は米国CPIの項目別寄与度推移であるが、1年前のインフレの主因である、エネルギー要因(緑)とサプライチェーン混乱要因(灰色)は完全になくなった。食料品と賃金上昇を主因とするコアサービス価格で今なおインフレは残るが、これも1年かけて大きく鈍化していくだろう。食料品価格上昇は原料・エネルギーコスト上昇が主要因であるが、それはすでに過去のものである。
タイトな労働需給の下で賃金上昇下落、賃金上昇の主因は供給制約であった
また賃金上昇は、平均時給がピークアウトしている(図表2)。なぜ労働需給の悪化と失業率上昇が起きていないのに賃金インフレが鈍化したかだが、(1)賃金は生活コストの投影的要素があり、昨年までのインフレが自動的に投影された、(2)サプライチェーン混乱の一環としてトラック運転手や接客業の人手不足が顕在化したが、それが解消されつつある、(3)高賃金セクターの金融、情報産業などでAIによる労働代替が起き、賃金下落圧力が起きていること、などが考えられる(図表3)。今後の引き締めの効果、銀行危機による融資厳格化などにより、労働需給は緩和していこう。賃金上昇圧力の顕著な低下が想定される。
現在最大の物価上昇の56%の寄与を占めている住宅コストも、利上げにより住宅価格が大きく低下しており、1年後には半減以下になるだろう。ただ、米国住宅は基本的に供給不足で、空き室率は大きく低下している。金融引き締めにより新規住宅建設が抑制され続ければ、逆に住宅不足と価格上昇を加速しかねない、というジレンマがある(図表5)。この点からも、米国利上げはインフレ抑制に有効ではないとも結論付けられよう。
金融市場で織り込み済みの2%台へのインフレ回帰
以上の物価沈静化はすでに金融市場には織り込まれている。物価連動債利回りから逆算される期待インフレ率は、2年後1.9%、5年後2.1%、10年後2.2%とほぼコロナパンデミック前の水準に低下している(図表4)。執拗に物価警戒にこだわり続けるFRBと金融市場の温度差が議論されるが、FRBは本来一過性であるインフレが根付かないようにとの予防的引き締めを行っているのであり、現在は実体以上にインフレリスクを強調するバイアスを強く持っている。FRBはいずれかの時点で姿勢を急転回させるだろう。
(つづく)
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