2024年12月22日( 日 )

低金利時代は終わっていない(3)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は5月16日発刊の第332号「低金利時代は終わっていない」を紹介する。

(3)資産バブルのガス抜きは終わっている

バブル的資産価格はすでに調整された、株価の出直り顕著

 昨年は、コロナ禍の下での極端な金融緩和が不動産や高級ブランド品、株式などの投機を引き起こしてきたとの批判が高まった。そうした観測に基づき、金融引き締めが広範なバブル崩壊をもたらすとの警報が多くの専門家から発せられた。しかし、潤沢な流動性は変わらず、世界的にハイテクと奢侈品や観光など高額消費の需要が依然旺盛である。株価がバブルとの評価があるが、低金利時代が終わっていないとすれば、国債利回りとの比較から見て、株価は決してバブルとはいえないと見る。

 図表11は米国株式バブル論者が依拠するシラー教授によるCAPEレシオ(インフレ調整後の10年移動平均利益に対する株価倍率)である。シラー教授がかつて指摘した「25倍を超える水準は持続可能ではなく、必ず下落している」という指標は、今も金科玉条視されている。

 4月末現在、同レシオは28.9倍なのでバブルだと断定されがちである。しかし、CAPEレシオが大恐慌時以降で初めて25倍を超えた1996年2月以降今日までの315カ月のうち、25倍を下回ったのはITバブル崩壊後とリーマン・ショック後の合計104カ月だけであり、全体の67%が25倍を上回っている。「バブルが常態化」しているわけである。株式が金融資産であり、金融資産の価値を計る物差しが長期金利(10年国債利回り)であるとすれば、金利低下が妥当なPERを引き上げることは論を待たない。歴史的事実は、長期金利15%のときの益回りは15%(1980~1981年)であったのであり、長期金利が大きく低下した1995年以降、PERが上昇するのは当然、高PERが新常態とみるべきであろう。

 予想益回り(予想利益/株価)=10年国債利回りという1980年から2000年ごろまで続いた相関(FEDモデル)を用いて計算される妥当株価は、10年債利回りを3.6%とすればS&P500指数で6,546ポイントとなり、現実の株価は3割強割安(図表12)、という議論が成り立つのである。金利裁定を無視したバブル説は根拠薄弱であることを強調したい。このことは、図表13による過去100年間のイールドスプレッド推移からもうかがわれる。

 2020年のコロナパンデミック勃発以降、ロビンフッドなど個人向けネット証券を通したスマホによる株式投機ブームが巻き起こり、仮想通貨やMEME(ミーム)株などで投機色が強まった。またインターネットプラットフォーマーGAFAMのPERが40倍を超えるなど、過熱色が強まった。しかし、2022年の株価急落の過程で、バブル色はほぼ一掃されたとみてよいと考える。

図表11: CAPEレシオ推移/図表12: 米国株フェアバリュー/図表13: 米国イールドスプレッドの長期推移/図表14: ビットコイン価格推移

(つづく)

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