2024年11月28日( 木 )

福岡市営地下鉄の現状と課題(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 福岡市の鉄道はJR、西鉄、地下鉄の3路線が担っているが、人口160万人を擁する日本有数の大都市にしては不足している感が否めない。地下鉄がもう2、3路線必要であるように思われるが、建設には莫大な費用と時間を要するうえ、需要が少ない地域では、費用対効果の観点から七隈線のようなリニア駆動のミニ地下鉄でも導入は難しい。そこで注目したいのが、建設費が安く工期が短いLRT(Light Rail transport)である。近年の軌道法の改正により、福岡市が建設を行い西鉄が運営するという「公設民営」による整備が可能となった。本稿では、地下鉄では採算性に問題の残る地域や補完輸送の手段として、このLRTの整備も視野に入れて考察する。

延伸構想

 福岡市は約160万人もの人口を擁する大都市だが、その割に地下鉄の路線数や距離数は少ない。そこで、まず空港線に関し、終点である福岡空港から東平尾公園方面へ延伸する構想がある。また、福岡空港から長者原への延伸を目指す動きもある。こちらに関しては、地域住民や飯塚市、篠栗町による運動もあり、福岡県が2021年から検討を始めているという。

 その他、アイランドシティへの鉄道を整備する構想もあった。アイランドシティは「まちづくりエリア」と「みなとづくりエリア」から成るが、福岡空港から離れており、航空法に基づく高さ制限が都心部より緩和されていることから、高層マンションの建設ラッシュとなっている。そうした状況もあって、西鉄香椎~香椎花園前間に新駅を設置し、そこから博多湾沖の福岡アイランドシティへ至る西鉄の路線を分岐させる計画が持ち上がったのである。計画当初は2010年度の開業を目標にしていたが、その後道路網やバス路線の整備が進み、この計画の実現性は低くなった。

筆者が考える福岡市の地下鉄案

 七隈線に関してはかつて、福岡空港の国際線ターミナルへの延伸計画に加え、天神南から中洲川端を経由して築港方面へと結ぶ計画があったと聞く。

 確かに、博多港には壱岐や対馬、韓国の釜山間を結ぶフェリーや高速艇も就航しているにもかかわらず、その海岸地区に地下鉄などの軌道系都市交通がないため、利便性の向上が望まれる。

 箱崎線と接続する西鉄貝塚線との相互直通運転に関しては、3両編成による乗り入れなど、これまでもさまざまな案が出され検討されたが、福岡市が直通運転による費用便益分析を行ったところ「0.42」となり、費用対効果の面から凍結された。

 筆者は、福岡市の人口規模にかんがみ、あと2~3本は地下鉄が必要だと考えている。福岡市内には西鉄が通っているが、福岡天神駅は3番線までしかないなどホームの容量が不足しており、増発が難しい状態にある(写真3)。

写真3 西鉄福岡(天神)駅はホームの容量が不足
写真3
西鉄福岡(天神)駅はホームの容量が不足

 筆者としては、薬院から各駅停車を地下へ移したうえで、天神から博多港国際線ターミナルまでを仮称地下鉄築港線として整備を行い、西鉄と相互乗り入れを行うことを提案したい。また、薬院近辺を通る東西方向の路線がないことから、七隈線のようなリニア駆動のミニ地下鉄を建設すると同時に、JRの博多~竹下間や篠栗線の吉塚~柚須間にそれぞれ1駅を設け、その駅と地下鉄を接続させる試みがあってもよいと感じる。JRに関しても、福岡都市圏にしては駅が少ないように感じる。

 地下鉄をつくるだけの需要が見込めない場合、LRTを建設する方法も考えられる。この場合、福岡市がインフラを整備して完成後は西鉄が運行する「公設民営」方式を採用し、経営に関しても上下分離経営を行う方法がある。現在の軌道法では、LRT・路面電車に関しても上下分離経営が認められるようになっているからである。

 西鉄は、かつて福岡市内で路面電車を運行していたこともあり、そのノウハウは広島電鉄などの路面電車を運行する事業者から検修を受けることで取得可能である。

 地下鉄が開業するたびに西鉄は、所要時間の面で地下鉄が圧倒的優位にある福岡市中心部と福岡空港を結ぶ空港連絡のバス路線の廃止や並行路線の整理などを行ってきた。一方で、郊外部と市中心部を結ぶ路線については、福岡都市高速道路を経由する急行バスを運行するなど力を入れてきた。福岡市の都市高速は最高速度が60km/hであるから、高速バス用の車両ではなく普通の乗合バスを用いて運行しており、立客が出るぐらい人気がある。 

 もし西鉄が路面電車やLRTの運行も担うようになれば、路線バスが路面電車やLRTと接続するフィーダー路線を充実させるようなかたちでの事業展開が見込める。そうなると、大牟田市で路面電車やLRTの運行を始める可能性も出てくるだろう。

 福岡市は、都市の規模の割には鉄道網が不十分であるが、地下鉄は建設費が割高であり、かつ完成するまでに時間を要することから、需要が少ない地域に関しては路面電車やLRTを建設して対応した方が、費用も安く工期も短いために望ましいといえる。

(了)

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