2024年07月17日( 水 )

株主総会でJAL情報開示拒絶追及か

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  NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は、「株主総会でJAL情報開示拒絶追及か」と訴えた6月3日付の記事を紹介する。

 6月1日午後1時半、東京高裁において、JAL123便ボイスレコーダーなど開示請求事件の判決が示された。結果は予想されたものであったが原告の控訴は棄却された。開廷から5秒で判決公判は終了した。政治権力に阿る裁判官では正当な司法判断を示すことはできない。

 東京高裁が控訴を棄却した最大の根拠は和解の存在。1991年3月26日、ボーイング社を被告とする損害賠償請求訴訟事件の和解が成立した。123便墜落事件発生から5年半が経過した時点での和解成立。損害賠償の請求対象はボーイング社だった。

 政府事故調は123便墜落の原因を圧力隔壁損傷にあるとした。当該123便はしりもち事故を起こしており、その際の圧力隔壁補修が不十分であったために圧力隔壁が損傷。このことによって123便の垂直尾翼が破壊・喪失され、操縦不能に陥ったとした。

 損害賠償請求訴訟事件はこの事実認識に基づきボーイング社に損害賠償を求めたもの。遺族のなかには123便墜落で一家の稼ぎ頭を失い、生活に困難を来す人も多かった。このことからボーイング社、JALの対応に不信感を強く抱く者も和解への同意を強く迫られたという経緯がある。

 今回の情報開示請求事件の原告になられた吉備素子さんもその1人。損賠賠償の部分に同意したのは事実だが、事故原因の解明を求める権利を放棄した覚えはないとする。123便墜落以来、「なぜ、どうして」という思いが離れたことはなかった吉備さんは語る。


 群馬県に設置された遺体安置所に長期間滞在し、遺体の確認を続けた。そのなかでJAL社長の不可解な言動を目にして不信と疑念の感情を持ち続けて現在に至る。その過程で青山透子氏の著作に出会い、事故原因が政府事故調発表のものとはまったく異なる可能性が高いことを知る。

 愛する夫を失った遺族として、本当の事故原因を知りたいと思うのは当然のこと。ボイスレコーダーを完全なかたちで検証できれば事故原因の真相は判明するはずだ。そのために訴訟を提起した。

 ところが、東京高裁の土田昭彦裁判長は和解条項の条文に飛びついて深い思慮もなく原告の請求を退けたと見られる。 1991年に成立した和解は日本航空を被告とするものではなかった。ボーイング社に対する損害賠償請求事件である。ところが、裁判所が勧めた和解の最終期日にJALが加わった。

 和解の条項のなかに「原告らと被告および利害関係人との間には、本件に関し、本件和解条項に定めるもののほか何らの債権債務が存在しないことを確認する」(第5項)。

 「原告らは、今後本件事故に関し、いかなる事情が生じても、被告および利害関係人両社はもとより両社の役職員、代理人、関係会社、下請業者および納入業者に対し、国の内外を問わず、国内法または外国法を理由として、裁判上または裁判外において一切の異議を述べず、また、何らの請求をしないものとする」(第4項)が置かれた。

 裁判所はこの和解条項に飛びついて原告の訴えを退けている。原告が訴えている請求の根拠としての憲法上の権利(人格権・幸福追求権の1つとしてのプライバシー権、この発展形としての自己情報コントロール権)について深い考察もなく、和解条項を前面に押し立てて原告の請求を棄却した。

 しかし、1991年の和解条項自体が奇怪そのものである。和解はこの事件について疑惑が表面化することを、あらかじめ認識していたと思われるもの。航空機または運航の側の過失あるいは瑕疵によって521名もの尊い人命が失われた。

 事故を引き起こした有責の当事者が損害賠償の債務を負うのは当然のこと。ところが、和解条項の条文は有責の当事者であるボーイング社ならびに和解の最終段階で和解に潜り込んだ日本航空が、これ以上ない高飛車な位置に立って記述されている。

 当時の原告代理人がこのような和解条項を容認したことも極めて不可解だ。原告側の代理人も事件の真相を封殺する勢力に所属していたことが疑われる。この和解条項を根拠とすれば原告の訴えを退けることは正当化されてしまう側面があるだろう。

 しかし、これを是とするわけにはいかない。原告は憲法上の権利として情報開示を求めたが、併せて日本航空に対して信義則上の情報開示義務を主張している。この点に関するJAL=日本航空の対応はあまりにも不誠実。企業の社会的責任が叫ばれる現代経済社会において日本酷空の対応は糾弾されるべきものだ。

※続きは6月3日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「結論ありきの123便事件控訴棄却」で。


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