2024年07月17日( 水 )

懲罰すべきは与党の「数の暴力」

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は、「平和、人権、民主主義に背を向ける岸田首相を退場させ、新しい政権を誕生させよう」と訴えた6月11日付の記事を紹介する。

 私たちにとって大事な価値とは何か。平和、人権、民主主義こそ最重要の価値だ。

 岸田首相は「価値観外交」を唱えるが言葉と行動が矛盾している。「価値観外交」が提示する「価値」は自由、人権、民主主義、法の支配、市場経済。この価値観を共有する勢力が連帯することを主張する。

 しかし、よく見ると追求している価値は、この5つのすべてではなく自由と市場経済だけであることが分かる。「価値観外交」の最大の力点は、「価値観を共有する国の連帯を強める」ことで、逆にいえば、「価値観を共有しない国と敵対する」ということ。ここに根本的な矛盾がある。

 民主主義の大切な基本は、異なる価値観の併存を認めること。世の中にはさまざまな考え方がある。さまざまな価値観、哲学が存在する。その多様な価値観、哲学の併存を認める。これが民主主義で何よりも大切なことだ。

 実際に岸田首相の言動を見ると、岸田氏が平和、人権、民主主義を追求していないことが鮮明に浮かび上がる。

 広島でサミットが開催された。広島でサミットを開催しながら核兵器禁止に明確な一歩を印すことができなかったのは致命的。「広島ビジョン」は「核兵器は役に立つ兵器である」ことを明記。

 広島開催は核兵器禁止へのメッセージを世界に発出するためにではなく、岸田氏が故郷に錦を飾るために選択されたと考えられる。ゼレンスキーを招くなら、停戦に向けての具体的方策を論議し、明示することが最重要議題であるべきだった。現実にはゼレンスキーが武器供与を求め、G7がこれに応じることを明示しただけだった。NATO軍の総決起集会にしかならなかった。平和を求める活動ではなく戦争を拡大・長期化させる活動でしかなかった。

 夫婦別姓、LGBTQ差別禁止、同性婚肯定の基本法をもたないのはG7で日本だけ。日本の人権意識が低いことが鮮明だ。

 日本政府は、国連自由権規約委員会から2014年と22年に包括的差別禁止法の制定と性的指向・性自認(SOGI)差別禁止の法整備を勧告されている。この事実が存在することから、サミットに合わせて、かたちばかりの法案提出が実行された。

 今次通常国会で法律案が審議されているが、人権保障とは程遠い悪法が制定されようとしている。入管法改定では日本に難民申請している外国人の強制送還を容認する内容が改定法に盛り込まれた。本国に強制送還された難民申請の外国人が、本国で人権侵害や殺害の被害に遭遇するとき、その原因は日本政府にあるということになる。これも日本の人権軽視、人権尊重否定のなせる業。

 岸田首相は「新しい資本主義」を掲げて分配問題の是正が大事だと述べた。ところが、あっという間に発言を撤回した。日本国憲法が定める人権の根幹の1つは「生存権」。

 しかし、いま日本で生存権が脅かされている。出生数減少、少子化が問題視されているが、少子化の最大原因は生存権の危機にある。親世代の生存権が危機に晒されているときに、結婚、出産の将来設計がなり立つわけがない。生存権が危機に晒されているという現実とは、すべての国民に対する最低保障が低すぎるということ。

 最低賃金の大幅引き上げ、生活保障制度の確立が必要不可欠だ。年間の軍事予算を5兆円から10兆円に倍増する資金余裕があるなら無駄な軍事費に回さずに生存権を守る支出に回すべきだ。

 平和、人権、民主主義に背を向ける岸田首相を退場させ、平和。人権、民主主義を守る新しい政権を誕生させなければならない。

 LGBTQ差別禁止法が制定されねばならないが、現在国会で審議されているのは「理解増進法案」。差別禁止の法律ではない。自民党内で法制定に反対する理由として訴訟乱発の懸念が提示されたが、理念法であるLGBT理解増進法は訴訟の根拠にならない。

 必要な立法措置は差別禁止法の制定だ。奈良女子大学名誉教授の三成美保氏はLGBT理解増進法案について5つの問題点を提示されている。
https://wan.or.jp/article/show/10665#gsc.tab=0

(1)「差別は許されない」(超党派合意案)から「不当な差別はあってはならない」(与党案・維国案・4党合意案)への修正。
(2)「性自認」(超党派合意案)から「性同一性」(与党案)あるいは「ジェンダーアイデンティティ」(維国案・4党合意案)への修正。
(3)「調査研究」(超党派合意案)から「学術研究」(与党案・維国案・4党合意案)への修正。
(4)学校教育条項の修正。
(5)留意条項の新設。

※続きは6月11日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「懲罰すべきは与党の『数の暴力』」で。


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植草一秀の『知られざる真実』

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