2024年11月28日( 木 )

九州の物流の「2024年問題」対策 再配達解消とモーダルシフト推進の必要性(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 現在、九州自動車道の久留米ICと広川ICの間にスマートICの新設を目指す計画があり、九州物流の要衝である久留米・鳥栖地域の重要度はますます高まっている。その一方で、2024年度には、トラック運転手への残業規制強化を控え、その対策として、再配達を極力なくすなどして運転手の生産性向上や、物流のトラック依存を低減するためにフェリーや鉄道へのモーダルシフト(環境負荷の小さい輸送方法へ転換すること)を推進する必要がある。九州の現状を踏まえてそれらの点について考察する。

中小の物流事業者の経営環境と課題

 中小の物流事業者からは、長距離の輸送が減ることで、「売上が落ち込むのではないか」と、「2024年問題」の影響を懸念する声が聞かれる。

 コロナ禍の影響も手伝い、ネット通販などが広がるなか、運転手の時間外労働の規制強化に対し、運送費への価格転嫁が必要であるという意見もある。

 24年4月からの時間外労働の規制強化で、業務の見直しを余儀なくされると、長距離輸送の仕事を減らさざるを得ない可能性がある。そうなると労働時間の短縮などで長距離輸送を担当する運転手の給与が月に5万円ほど減ると見込まれる。その結果として離職する人が増え、人手不足がより深刻になるのではないかという懸念もある。

 このような問題を解決するためには、中小の物流事業者側も、荷物のない状態で運転手が運転している時間を減らすなどの工夫が必要だといえる。たとえば、配送先の周辺や帰る途中でも、取引先などを回って別の貨物の受け渡しを行うなど、片荷対策はいくらでも方法が考えられる。

 今後は、人口減少で運転手のなり手が減っている状況に加えて、運転手の労働環境改善を目的とした働き方改革が重なると、従来運べていた貨物が運べなくなるなど、現在の運送体制が維持できなくなる。サービス水準を維持しながら、既存のシステムをどのように改善させるかを、中小事業者も主体的な立場に立って真剣に考えなければならない時代になっている。

鉄道やフェリーなどへのモーダルシフトを実施するうえでの課題

モーダルシフト イメージ    労働力人口の減少や残業規制の強化などに対応するため、再配達を極力なくすなどの物流効率化が求められているが、それは短距離の配送への対策としては有効であっても、長距離の物流に関しては、トラックに依存した体制そのものの転換が必要である。

 そのためには、鉄道やフェリーによる国内貨物の海上運送などへの「モーダルシフト」をすすめる必要がある。モーダルシフトとは、環境負荷の小さい輸送方法へ転換することである。

 ところが、モーダルシフトを進めるにはそれぞれの地域の物流インフラの現状を考慮する必要がある。たとえば、先述した九州の物流要衝である鳥栖には、鉄道の貨物ターミナル駅がある。しかし、そこから西に向かう長崎本線の貨物駅としては佐賀市の鍋島駅があるばかりで、それより西には本線にも支線にも貨物駅がない。

 また、九州の玄関口である小倉周辺では、門司区に北九州貨物ターミナル駅が存在するが、九州の東西と南から鳥栖に集まった貨物を、鉄道で京阪神や中京地区、首都圏へ輸送するとなれば、現状の貨物路線は鹿児島本線を利用しており列車の運行密度が高い博多近郊区間を通るため、貨物列車の増発が難しいといえる。

 それを回避するため、原田(はるた)から筑豊本線を経由する方法も考えられるが、筑豊本線の原田~桂川(けいせん)間は、単線非電化であり途中に冷水峠もあるため、輸送力の面で課題が残る。この場合、鳥栖から北九州貨物ターミナル駅まで、ディーゼル機関車を重連で牽引して対応せざるを得ないだろう。

 フェリーへのモーダルシフトに関しては、京阪神地区行きであれば、新門司港に名門大洋フェリーや阪九フェリーが就航し、大分港や別府港にはフェリーさんふらわーなどが就航している。また静岡県清水市に本社を構える鈴与海運の内航フィーダー船が、神戸港を拠点に門司や大分などへ就航している。

 首都圏となれば、新門司港には横須賀を結ぶ東京九州フェリーや、オーシャン東九フェリーが就航するなどしているが、大分港や別府港と首都圏を結ぶフェリーはない。また中京地区を結フェリー航路は、紀伊半島を迂回しなければならないことから、所要時間を要することもあり、皆無である。

 名古屋から九州地区へのフェリー航路などを考える場合、比較的直線になる宮崎や鹿児島県の志布志であれば、所要時間などを考えると、設定される可能性もあるが、九州南部になれば、物流よりも観光客の需要が中心となるだろう。

 物流業界の「2024年問題」を考える場合、先ずは再配達を極力なくすことが重要でありそれには物流事業者だけでなく、荷主側や消費者側も意識改革が必要である。また片荷の状態の輸送を極力なくすには、輸送の復路で貨物を見つける努力が必要である。

 長距離の物流に関しては、何時までもトラックに依存するのではなく、鉄道やフェリーも含めた内航海運へのモーダルシフトが、不可欠である。鉄道へモーダルシフトさせるとなれば、JR貨物は自社で線路をほとんど所有していないため、JR九州の旅客列車の合間を縫って走行せざるを得ないなどの制約も大きい。だが、筑豊本線の原田~桂川間の単線非電化区間などを国が電化するための費用を補助するなどすれば、鉄道へのモーダルシフトは十分可能性があり、国の戦略としてその推進が必要であろう。

 フェリーを含めた内航海運へのモーダルシフトについても、九州地区では大分港には首都圏を結ぶフェリーなどが就航していないため、就航を促進するための補助金を設定するなど、モーダルシフトの推進について国の積極的な関与が重要といえる。

(了)

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