2024年11月23日( 土 )

揺らぎ始めた維新の目玉政策・大阪万博とカジノ

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夢洲の万博会場予定地
夢洲の万博会場予定地

    維新の目玉政策である大阪万博とカジノ(IR)が揺らぎ始めている。共に予定地は“ごみの島”とも呼ばれる大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」。軟弱地盤で地震による液状化が発生、恒常的に地盤沈下している。高潮対策も必要で、防災の専門家である関西大社会安全研究センターの河田恵昭センター長は「誘致場所が安全なのか。防災の専門家としてとても心配している」(『大阪日日新聞』4月9日付)と語っていた。そもそも巨大構造物の建設に相応しくない人工島を予定地にしたことが、万博関連施設の工事遅れを招き、カジノ(IR)計画にも影響をおよぼしているようなのだ。

 「夢洲カジノを止める大阪府民の会」(山川義保事務局長)は7月20日、吉村洋文・大阪府知事と横山英幸・大阪市長と坂本篤則・IR推進局長あてに要請書を提出。カジノ計画認定の際に付された7つの付帯条件を実施しないまま、カジノ(IR)計画の実施協定締結を行わないことを求めた。要請書を大阪市の担当者に手渡した後、質疑応答の場が設けられたが、そこで浮き彫りになったのは、万博とカジノの工事を同時並行で進めることは困難で、計画変更は必至ということだった。

 「府民の会」の山川事務局長は、要請書の三番目の質問事項を次のように説明した。

 「万博は全然進んでいない。工事費は1.5倍(1,250億円から1,850億円に増大)で、もっと増えるだろうと言われている。特に自費でパビリオンを建てるところから、大阪府にいまだ申請がない(7月20日時点)。結局、『万博協会の方で負担をしてでもやりましょうか』ということを言っているが、大手ゼネコンは『もういくらお金をもらってもできない』と言っている。来年の労働法制が変わっていくこともあって、万博とカジノの同時並行の工事などできなくなっていくと考えている」。「『(万博とカジノは)同時にやれない』と言っているわけだから。どうなっているのか。万博の計画と合わせたカジノ用地の情勢および現実はどうなっているのか」。

 ほかにも質問事項がいくつかあり、その1つが「地盤沈下と軟弱地盤の問題」。ゴミを埋め立ててできた夢洲は軟弱地盤で、数十メートル下にある支持層(強固な地盤)まで杭を打つ基礎工事をする必要がある。このことについて山川事務局長は次のように述べた。

 「この間、『(夢洲の)地盤沈下や液状化は起きない。起きても問題ない』と大阪府・市は主張してきた。また、支持層が最低80メートルと考えているようだが、支持層が実際に何メートル下にあるのか科学的根拠を出して欲しい。そして何メートルのところまで杭を何本打つのかという問題もある。こうしたことを考えたときに工期は遅れる。工事の妥当性や根拠を出して欲しい」。

 万博・カジノ予定地の夢洲は、辺野古の新基地建設と同じ問題を抱えていた。両方共、豆腐のような軟弱地盤であるため、地盤が強固な支持層まで杭打ち工事をする必要があり、工期遅れや工費増大を招く恐れが指摘されていた。

大阪市のIR推進局長宛に要望書を提出する山川義保事務局長
大阪市のIR推進局長宛に
要望書を提出する山川義保事務局長

    なお万博の開催期間は半年であるため、パビリオンが建設されるエリアでは杭打ち工事は行われない。半年後に撤去する仮設プレハブ小屋のような位置づけだが、豆腐のような軟弱地盤上に杭打ち基礎工事なしにパビリオンが建てられる。南海トラフ地震が万博開催期間中に起きたら、会場が倒壊して甚大な被害者が出る恐れがあるのだ。

 防災の専門家も懸念するこうした問題についても、要請書の質問事項に盛り込まれていた。山川事務局長は、次のように説明した。

 「災害発生時に予測される対応ということで、この間の台風では咲州と夢洲を結ぶトンネルが冠水して止まりました。(夢洲を訪れる)5万人が逃げることができるのか。事故が起きたときには、そうしたことを認可した国に対しても国家賠償請求が考えられる。とすると、経営はIR株式会社と言いながら、その実施協定を結んだ大阪府・市にも責任が生じる。災害の問題、真剣に検討をして回答をいただきたい」。

 こうした質問事項を列挙した要請書に対して、市の担当者は精査したうえで回答することを約束した。

 維新関係者にも同主旨の質問をぶつけてみた。維新の藤田幹事長に筆者は7月26日の会見で聞いてみた。

 ──万博カジノの予定地の「ゴミの島」こと「夢洲」なのだが、軟弱地盤や地盤沈下でさらに工事費が増大するのではないかと言われている。それも、万博の開催が遅れるリスクになっているのではないかという指摘もある。しかも万博のパビリオンは基礎の杭も打たずに仮設のプレハブのような状態になると。ここに地震がきたら入っている人が被害を受ける恐れがあるのではないかと思うが、このゴミの島、不適切なところに万博・カジノ(関連施設を)建設する妥当性を改めておうかがいしたい。

 藤田 これは、維新の会はもちろん推進してきたが、国策として府も(万博)協会も国もテコ入れをしてやっている話だから、維新の幹事長会見で根拠なく論評をするのは意味がないと思うので、もし必要でしたら大阪府の方に行って聞いていただくのが適切と思う。ただ地元の政治家としては、期日通りにしかも盛況に行われるように、できる限りの努力はしたいと思うし、我々に努力できることがあれば、惜しみなく党としてやりたいと考えている。先日も協会から万博の説明を受けて、一致結束してこのイベントの成功のために汗をかいていこうという心合わせをした。それ以上のコメントは差し控えたいと思う。

 ──工事が遅れている最大の理由は、その予定地が不適切だからではないのか。何だとお考えなのですか。

 藤田 これについて無責任な発言をすることはできないので、行政側の資料を精査している大阪府の方に行って聞いていただきたいと思う。

 万博のキャッチフレーズは「いのち輝く未来社会」だが、開催中に南海トラフ地震が起きて大惨事となった場合、「いのち軽んじる地獄絵図」が夢洲に出現する恐れがある。徹底したリスク検証(避難計画の作成や耐震性の検証など)が必要だ。

【ジャーナリスト/横田 一】

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