2024年12月26日( 木 )

課題が山積し開催が危ぶまれる大阪万博の現状(中)

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運輸評論家 堀内 重人

 2025年春に大阪万博の開催が予定されているが、会場となる夢洲(ゆめしま)はゴミの最終処分場であった。汚染水やガス噴出以外にごみを埋め立てて造成した島であるから、地盤沈下の問題が避けて通れない課題だ。それに加え、大阪市が予想する来場者があった場合、地下鉄や路線バスによる輸送、下水処理などの課題が残る。開催まで残り2年となったが、夢洲にはパビリオンすら満足に整備されていない。

夢洲 イメージ    万博を進める大阪府の吉村知事、元大阪市長で日本維新の会幹部だった松井一郎氏は、「負の遺産であるゴミ捨て場の島を本当の『夢の島』として蘇らせる」という、スローガンを掲げている。

 大阪府・大阪市は日本維新の会が牛耳っているが、そのための十分な時間と資金を用意しなかった。日本維新の会は「身を切る改革」「二重行政の廃止」を掲げ、行政の予算を削ることを有権者に訴え、選挙で支持を獲得し、勢力を伸ばしてきた政党である。

 「身を切る改革」と言って削れたのは人件費の数億円であった。二重行政に関しても数億円か十数億円程度の予算が削れただけであった。また、日本維新の会は、大阪府や大阪市の水道事業を「二重行政の弊害」と主張しており、大阪府の水道事業が赤字であるため廃止を主張していた。

 大阪の水道事業は淀川から取水するのが主となっている。大阪府と大阪市でそれぞれ浄水場を有するが、給水しているエリアが異なるため決して二重行政にはならない。彼らは行政の予算を削減することしか眼中になかったのだ。

 そうした観点からすると、大阪市が夢洲の地盤改良で790億円の公費の拠出を決めたことは、「万博の開催が相当厳しい状況にある」ことの現れであり、大阪市が相当焦っていることを示す。また大阪府民や大阪市民を納得させる合理的な計画や、それに対する説明もなく、「行きあたりばったり」の対応で終始している。現時点では、大阪万博やその後のIR計画は、赤信号が灯る危機的状況であると言える。

大阪市などの甘い需要予測

 大阪万博ではUSJの4倍の来場者を想定しているが、入場料やアトラクションなどを総合的に加味して考えると無理であると言わざるを得ない。

 大阪万博の開催費は、基本的にすべて入場料収入で賄うとし、来場者については半年間の期間中に2,820万人を想定している。これを1日当たりに換算すると約16万人となる。USJは、大人気のテーマパークであるとはいえ、1日当たりの来訪客は3万4,000人である。

 大阪万博の予想来場者数は、国際博覧会である「つくば博」や、バブル絶頂の1990年に大阪の鶴見緑地で開催された「花博」の来場者数よりもはるかに高い数値である。「花博」の総来場者数は、2,312万6,934人で入場料は大人1人あたり2,990円であった。

 バブルの絶頂期に開催された花博ですら、1日当たりの来場者が12万8,500人。今日は景気が決して良いと言えない中であるにも関わらず、大阪万博の入場料は花博の約2.5倍の大人1人あたり7,500円も徴収するという。このような現状を加味すると、大阪市が予想する来場者を確保できるとは思えない。

交通アクセスの課題

 夢洲は大阪市の中心部から離れており、梅田からコスモスクエアに至るまでの間に本町などで乗り換えを強いられることから30分以上を要する。そこで主催者は、大阪メトロをコスモスクエアから夢洲まで延伸する計画がある。そして、来訪者の半数が地下鉄を使うと見込んでいる。それ以外に、近鉄が奈良や京都、名古屋から、夢洲までの直通特急を運転する計画もある。

 地下鉄の延伸や近鉄が特急の乗り入れを計画する背景として、万博終了後の跡地でのIR、カジノ建設の計画がある。

 仮に上記の来客があった場合は、毎日16万人分の交通に関して、大阪メトロを夢洲へ延伸する計画がある。地下鉄中央線は6両編成で運転されており、万博に合わせて編成両数を増強しようとすればホームの延伸が必要となり、これには莫大な費用を要する。半年程度の万博のため、全駅でホームを延伸することは非現実的である。

 そこで地下鉄以外に路線バスでも来訪者を輸送するという。仮に8万人をバスで輸送、1台あたり定員が約40人と想定すれば、往復で80人となり、バスで来訪者を輸送するには、1日当たり最低でも1,000便のバスを運行する必要がある。

 日本最大級のバスターミナルは東京・新宿のバスタ新宿であり、1日当たり1,600便のバスが発着しているという。夢洲のバスターミナルはバスタ新宿なみの運輸量が必要となる。

 仮にバスターミナルで、それだけの処理が可能となったとしても、そのバスが橋をわたって夢洲にやって来る。そして来訪時だけでなく、帰宅時も道路は混雑することが予想される。夢洲を結ぶ橋を利用するのはバスだけではない。物流トラックや自家用車も利用することから、緻密な道路交通計画を立てて交通規制を実施しなければ、大渋滞となることが必至である。

(つづく)

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