浮き彫りになった“夢洲リスク” 万博・カジノ(IR)の安全性はどうなる?
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「大阪 ある地方紙 最後の日々」と銘打ったNHKのローカル番組「かんさい熱視線」が7月28日に放送された。大阪唯一の地方紙「大阪日日新聞」が7月末で休刊する直前、最後の記事を書こうとする記者たちの足取りを追ったものだったが、10年来の付き合いのある木下功記者(同社在籍22年)も登場。最後のテーマは、“ゴミの島”とも呼ばれる大阪湾の人工島「夢洲」で予定されている万博・カジノ(IR)問題だった。番組では、「予定地(夢洲)で行う土壌の改良や液状化対策などの費用を市が負担するのは不当」と訴えた裁判を木下記者が取材した場面に続いて、吉村洋文・大阪府知事会見で“夢洲問題”について問い質す場面も流れた。
木下記者 地盤沈下と液状化のリスクがミックスした場合の状況が未知だと事業者が言っていたと思う。市の債務負担が780億円以上になるのではないか。
吉村大阪府知事(以下、吉村) その範囲のなかでやるということだ。
ゴミの埋立地である夢洲は軟弱地盤なため、強固な地盤まで届く杭(80mとも推定)を打ち込む地盤改良工事が不可欠で、その費用788億円を大阪市が負担することになった。しかし地盤沈下も進むことなどから対策費の上振れ(行政の負担増)が懸念されていた。この懸念について木下記者は吉村知事の認識を問い質したのである。
NHKの番組では紹介されなかったが、木下記者は防災の専門家である河田恵昭・関西大学特命教授にもインタビューしており、「誘致場所(夢洲)が安全なのか。防災の専門家としてとても心配している」という発言を引き出していた。「大阪IRの焦点 第3部 夢洲地盤問題(下)」という見出しの『大阪日日新聞』(4月9日付)の記事で河田氏は次のように述べている。
「南海トラフが起これば液状化するし、津波も来る。夢洲を外郭施設で守るのなら、耐震や液状化の対策が必要。地盤を高くして津波や高潮を防ぐのなら、地盤の液状化対策、夢洲が孤立した際の対策がいる。夢洲にいる人を動かさずに安全を確保しなければいけない。食糧や水の備蓄も必要(以下略)」
大阪日日新聞休刊後で初めての吉村知事会見となった8月2日、筆者は河田氏が安全性を疑問視した“夢洲問題”について吉村知事に聞いた。
──防災の専門家である関西大学の河田教授が大阪日日新聞のインタビューのなかで、夢洲の安全性に疑問を投げかけているが、たとえば南海トラフ地震が万博開催時に襲ってきた場合に、基礎工事もちゃんとしてないパビリオンが倒壊するなどして、来場者らに甚大な被害が出る恐れについては想定していないのか。
吉村 夢洲が地震に弱いというものではない。
──軟弱地盤なためカジノ(IR)のエリアは杭(くい)を打って基礎工事(地盤改良)をするのに対して、万博のエリアは基礎工事をしないで、半年間の仮設の建物、プレハブみたいなものになると聞いている。豆腐のような軟弱地盤のうえにパビリオンを建てれば、地震が起きた際に液状化して倒壊するリスクも当然あるのではないか。何万人の人が来れば、当然、甚大な被害が出る恐れは十分あると考えないのか。
吉村 建設許可基準に基づいて大阪市で審査をする。よってまったく基準なく建物を建てるというわけではない。パビリオンについてはあくまでもこの建設許可基準のなかで、きちっと審査をしてやることになる。当然、安全性を配慮した建物としてつくっていくということだ。
しかし防災の専門家である河田氏が夢洲の安全性を疑問視しているのは紛れもない事実だ。そこで筆者は次のように質問を続けた。
──審査する人が、御用学者、忖度する人ばかりということはないか。だから河田教授は大阪日日新聞のなかで危険性を指摘しているのではないか。きちんとした意見をいう専門家が入って審査しているのか。
吉村 大阪市で建設許可基準があるから、それに基づいて客観的に判断していくということだ。「御用学者ばかり」というのはちょっと意味が分からないが、それも横田さんの見解として受け止めておく。
筆者の質問の主旨は、「大阪日日新聞で紹介された防災の専門家の懸念を受けて、大阪府が河田氏にきちんと聞き取り調査をして問題点をリストアップしたのかどうか、そしてそれを考慮した危険除去対策を進めているのか否か」を確認することだった。というのも、当該記事が出た4月9日以降の吉村知事会見録をチェックしても、河田氏のインタビュー記事に触れた発言は皆無だったからだ。そこで筆者は知事会見で記事内容を紹介したうえで知事に問い質したのだが、結果は、上記のような知事の認識・回答だったのである。
また、筆者は吉村知事とタッグを組む横山英幸・大阪市長(「大阪維新の会」幹事長)にも、8月10日の定例会見で同じ質問をぶつけてみた。
──大阪日日新聞が防災の専門家である河田教授のインタビュー記事を載せて「夢洲が本当に安全なのか」という指摘をしているが、実際に軟弱地盤で地盤沈下もあるところに、とくに万博のエリアは基礎工事もしないでそのままパビリオン、プレハブのようなものを建てるとなると、南海トラフ地震のような大規模な地震が万博開催中にきたら、建物が倒壊して大惨事になるのではないか。そのリスクはどう考えているのか。
横山大阪市長(以下、横山) IR用地はかなり高い建物を建てますから地盤改良をして基礎を打ち込む改良をしていくし、当然、安全対策は(万博)協会も含めて、IR事業者、万博協会を含めてやっている。
──万博のパビリオンも大型の建造物になっているが、IRカジノとは違って何十mもの杭をちゃんと打つ基礎工事(地盤改良工事)はしないのか。豆腐のような軟弱地盤の上でプレハブを建てているような状況で、大地震がきたら非常に大きな揺れになって建物が損壊して大きな被害が出るのではないかと想定されるが、そのへんのリスクは全然考えていないということか。
横山 技術的に当然きっちりと安全対策を施したうえで事業実施をしていると認識しているので、細かいことをお聞きになりたいようだったら所管の行政当局の方に聞いて欲しいと思うが、当然、何か今のままボーンと建物を建てて終わりではなくて、当然、安全に耐えうるような施行をされたうえで事業が実施されると認識している。
万博予定地はカジノ(IR)予定地と隣接、軟弱地盤で地盤沈下も進行中の同じ夢洲のなかに位置しているものの、杭を打つ基礎工事(地盤改良)は行わない。長期間使用するIR関連施設と違って、万博開催期間(約半年)が終わったら取り壊すためだ。しかし別の言い方をすれば、万博開催中に大地震が来るリスクを軽視していることになる。夢洲問題を追いかける某記者は「2005年の愛知万博の時もパビリオンの耐震性が不十分で、万博協会関係者は『東海大地震が来ないことを祈っていた』という話を聞いた」と話す。今回の大阪万博でも、人命軽視の楽観論に基づいて危険な夢洲での開催を強行しようとしているのではないかと懸念せざるを得ない。
大阪万博の前売り券は11月30日から始まるが、防災の専門家が安全性を疑問視する“夢洲リスク”を来場者らにきちんと告知することが不可欠であろう。関西広域連合長の三日月大造・滋賀県知事は「修学旅行は大阪万博へ」と呼びかけているが、災害リスクを十分に伝えない場合、国策敢行のための“現代版学徒動員”と批判されても仕方がないだろう。“夢洲リスク”にきちんと向き合うのか、大阪府を含む関西広域連合の対応が注目される。
【ジャーナリスト/横田 一】
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