岩手県知事選、少子化対策が争点に(前)県選出参院議員も参加した仏視察の成果は
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事実上の与野党対決で、立民の小沢一郎衆院議員の「最後の戦い」ともいわれている岩手県知事選が8月17日に告示された。野党(立民・共産・国民民主・社民)が支援する達増拓也知事と、自公が支援する新人の千葉絢子・前県議の一騎打ち。これが全国の注目を集めているのは、「小沢王国・岩手」の最後の砦(知事ポスト)を死守できるかということに加え、フランス視察で批判噴出の広瀬めぐみ参院議員(岩手選挙区)が千葉氏を応援していることもある。
2021年の総選挙で小沢氏は小選挙区で初めて敗れ比例復活したが、昨年の参院選でも元秘書の現職・木戸口英司氏(立民)が自民党の新人・広瀬氏に敗れた。参院岩手選挙区で自民が勝利したのは30年ぶり。その余勢を駆って、自民党は地元テレビ局出身の元女子アナで前県議に出馬要請、「女性知事誕生を」を合言葉に、小沢氏最側近の達増知事の5選を阻もうとしていたのだ。
知名度の高い女性候補の擁立で「激戦必至」と見られ、危機感を抱いた達増陣営は、総理大臣待望論も出始めた泉房穂・前明石市長が講演する県民集会を7月13日に開催したが、広瀬参院議員も参加した7月末のフランス視察が報じられたことで、潮目が変わったという。岩手県政ウォッチャーはこう話す。
「参院選に続いて県知事選でも女性候補勝利を狙う自民党は、6月に党女性局と千葉選対女性部とが合同集会を開くなど、『女性候補』を前面に出す選挙戦を展開してきた。実際、小沢元秘書の現職を破った広瀬氏は小沢系知事の刺客となった千葉氏と一緒に活動。広瀬氏が応援演説する姿や千葉氏とのツーショット写真がネット発信されてもいた。ところが、7月末に例のエッフェル塔写真が広まって以降、二人三脚が頓挫。広瀬氏はSNSでの更新(発信)を8月2日に停止。勝利の女神になるはずの広瀬氏が一転、足を引っ張るマイナス要因となったのです。」
告示2日前の8月15日、日刊ゲンダイは「自民党“エッフェル騒動”が岩手県知事選を直撃!渦中の広瀬めぐみ議員がSNSストップし雲隠れ」と銘打ち、広瀬氏を「(フランス視察で)SNSにピースサインしている写真や飲食の写真とともに観光旅行記さながらの投稿をして、大ヒンシュクを買った問題議員」と紹介。「地元では『広瀬さんを街頭に立たせず、徹底的に隠す』という噂も流れているという」とも報じていた。
この“雲隠れ(ステルス)作戦”が実行されているのか否か。2日後の告示日、盛岡市内で千葉氏の第一声を聞きにいくと、応援演説をした鈴木俊一大臣のすぐ隣に広瀬氏が立っていた。終わりには千葉氏らと並んで拳を振り上げてもいた。徹底的に隠しているわけではなかったのだ。
そこで筆者は終了後に広瀬氏を直撃、「表に出るとマイナスになるという指摘もあるが」「フランス視察批判が出ている」と声をかけると、「コメントできない」「(選対)会議があるので」と言うだけで質問に答えない。「フランスに行くよりも(泉房穂)明石前市長に話を聞いた方が早いのではないか。明石に行ったのか」とも聞いたが、無言のまま立ち去った。
同日夜の個人演説会を終えた千葉氏にも同主旨の質問をすると、「私が聞いたところでは、大船渡魚市場で鈴木大臣と一緒に演説をやったときに、広瀬議員はフランスの少子化対策の研修の話をした」と淡々と答えた。そこで、「フランス視察で広瀬議員が聞いてきた話で、県政にすぐに活かせそうな施策はとくになかったのか」と尋ねたが、次のような否定的な回答しか返ってこなかった。
「今のところはないのではないのでしょうか」「他県、他国でやっている施策を岩手ですぐにというのは、少し性急すぎるかなと思う。」
正直驚いた。「広瀬氏から聞いたフランス仕込みの少子化対策を、県知事になったら実行する」といった回答が返ってくると予想していたからだ。そもそも岩手選出の広瀬議員がフランスまで行って、県政に活かせる施策が何もないというのでは、「観光旅行」と批判されても仕方がないだろう。
泉前市長がフランス視察議員に明石視察を勧めていたことをふまえ、「むしろ明石市のほうが国内なので参考になるのではないか」とも尋ねたが、千葉氏はこう答えただけだった。
「う―ん、そうでしょうか。私はその論点は分からないです。」
最後に、「広瀬議員が一緒に街宣をしたらマイナス効果にならないか」と、同じ質問を千葉氏にもぶつけたが、「メディアがそう書くからそうなるのだと思う」と報道に批判的な回答。質問の意図が不明とも言ってきたので、「『表に出ない方がいいのではないか』と日刊ゲンダイの記事に出ている」と補足説明をすると、千葉氏は逆ギレ意味にこう言い放った。「日刊ゲンダイがどれだけ権威があるのか。私はそうは思わないので、その手の質問には答えない。」
岩手選出の広瀬氏がフランス視察に参加したことで、少子化対策が大きな争点の1つである岩手県知事選への注目度が高まりつつある。子ども予算倍増以上で10年連続人口増を達成した泉房穂・明石前市長は、フランス視察議員に成果を示してほしいと発信すると同時に、明石視察も勧めていた。筆者はこれをふまえ、岩手県知事選告示日に千葉氏と広瀬氏を直撃、フランス視察の成果や明石視察の意向などについて質問したのだ。
しかし、広瀬氏からは「フランス視察でこんな成果があった。千葉県政ならフランス仕込みの少子化対策が具体化する」といった話を聞くことはできず、千葉氏も「フランスの少子化対策や明石市の成功事例を県政に取り込んでいく」のような意気込みを語ることはなかった。
一方、泉前市長は旧ツイッターで7月30日、「自民党女性局のフランス研修が少子化対策につながるのでしょうか」という質問に対し、次のように答える発信をしていた。「私はつながると信じています。研修に参加された自民党女性局の国会議員の皆さん、フランス研修の成果をしっかりとお示しいただくよう、よろしくお願いします。期待しています。」
そして、8月9日のアエラドットのインタビュー記事でもこう語っていた。「フランスは90年代前半は出生率が低かった。ですが、政策として子どもと子育てに関する公的支出を増やし(GDPの3.6%、日本はその約半分の1.79%)、出生率が上がりました。日本は、抜本的な改革が必要なんです。議員さんたちはそれを変えることができるお立場なのですから、本気であれば行動で示すでしょう。」
フランス視察で批判噴出の広瀬氏にとって、岩手県知事選は「フランス視察は観光ではなく研修」と反論する絶好の機会。「千葉知事誕生ならフランス仕込みの少子化対策が具体化する」と訴えることができるからだ。しかし今のところ、そうした政策論争が活発に行われているとは言い難い。
フランス視察に加えて、泉前市長が勧める明石視察を広瀬氏が即断即決すれば、国内外の少子化対策の成功事例を紹介することができるが、これも実行に移されていない。
広瀬氏応援の千葉氏は、フランスも明石もあまり参考にならないという立場だが、本当にそうなのか。
(つづく)
【ジャーナリスト/横田 一】
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