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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は8月22日発刊の第338号「米国繁栄、中国衰弱の二極化が始まった」を紹介する。円安から始まる
数量景気が起きつつあるこのハイテクでの対中デカップリングと軌を一にして、円が急落している。2021年には100円台であったドル円は直近では146円へと、3割以上の急落となった。米国による日本叩きの手段として、日本円は長らく異常に強い時代が続いた。1990年代から2010年頃まで、日本円は購買力平価を3割以上上回り続けたが、その結果日本は世界一の高コスト国となり産業競争力が著しく弱体化した。製造業は国内工場を閉鎖し、雇用を削減し海外に拠点を移した。銀行は日本の潤沢な貯蓄を海外融資に振り向けた。円高により人も金も工場もビジネス機会も日本を離れ、日本経済に停滞が残った。日本のハイテク産業は韓国、台湾、中国に完敗した。
それがこの円安の結果、日本は突如、世界的低物価国になったのである。2022年のOECDによる円の購買力平価は95円、それに対して実際の為替レートは現在146円なので、円は実力よりも4割近く割安になった。円高により日本から離れた世界の需要が、円安により急速に日本に集中している。米国による円安容認がこの流れの中心にあることは、さまざまな状況証拠から明らかである。
2023年の日本経済はバブル崩壊後、最も明るい数量景気の年となるだろう。Jカーブ効果により円安初期の価格面でのマイナス場面が終わり、数量増の乗数効果が表れる時期に入っている。円安で日本の価格競争力が強まり、工場の稼働率が高まる。また割高になった輸入品の国内生産代替が起きる。日銀短観、日経新聞など各種の設備投資調査では、すでに2022年に続き2023年においても設備投資が過去最高水準の伸びとなる。円安はまた、インバウンドを増加させ、外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激している。安いニッポンに向かって、さまざまなチャンネルを通じて世界の需要が集中し、国内景気を活性化し始めている。
そもそも日本のデフレは、円高で競争力を失った企業が賃金抑制に走ったことから始まった。しかし今、労働需給はひっ迫し、企業は国内生産体制の構築のために高い賃金を払ってでも良い人を採用し、競争力のあるチームをつくらなければならなくなった。連合によると2023年の平均賃上げ率は3.67%と30年ぶりの高さとなった。それを担保するものが企業における価値創造である。法人企業統計による企業業績は4~6月11%増、経常利益率は8.9%と史上最高である(図表2)。
これからパニック的日本株買いが
周期的に起きるだろうこのファンダメンタルズの大好転に加えて、株式需給が大きく改善していく。異常に現預金選好が高かった日本の家計が、NISA改革を契機に株式投資に大きくシフトしていく。金融庁、東証の誘導により企業は株主への利益還元を強め自社株買いが急増している。日本株を著しくアンダーウェイトしてきた外国人投資家は、日本株の比率を大きく引き上げることを迫られている。
過去30年間、世界株式(MSCIACインデックス)に占める日本株式の比率は、40%強から今日の5%まで、ほぼ10分の1まで低下してきた。日本株投資は売り一辺倒、アンダーウェイトに徹してきた時代が30年間も続き、日本を軽視する風潮が完全に根付いてしまっている。30年間の振り子が逆転し、ここから日本株のウェイトを高めざるを得なくなるのはほぼ確実であるが、ほとんどの投資家はその準備ができていない。今年3~6月に見られたパニック的日本株買いが、周期的にこれでもかというほどやってくる時代に入ったことを、肝に銘ずるべきである。
心配された日銀のYCCなど非常事態政策の正常化も、市場に悪影響を与えずに遂行できることがみえてきた。まさにすべての投資主体にとって、日本株のもたざるリスクを思い知らせる、秋の陣が始まったといえる。
(了)
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