2024年07月16日( 火 )

日中不動産バブルの比較と中国Japanification の可能性(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は9月19日発刊の第340号「日中不動産バブルの比較と中国Japanification の可能性~日本のバブルは帳簿価格の膨張、中国のバブルは投資の膨張~」を紹介する。

 中国不動産バブル崩壊は世界経済の最大懸念の1つとなった。日本の不動産バブル崩壊は失われた30 年に帰結したが、中国が日本のたどった道を後追いするのか、関心が高まっている。以下、日中の不動産バブルを比較すると、中国の日本以上の深刻さが浮かび上がる。日本の場合、政策の誤りによりバブル崩壊 資産価格の過剰値上がりの是正のみならず、負のバブルの形成 本源的価値以下までの株価、不動産価格の低下があり、経済へのダメージが増幅された。他方、中国は土地バブルを原資として過剰投資を積み上げたという、日本にはない深刻さがある。

(1)日中不動産バブルの規模の検証

 中国バブルが日本以上に深刻な現実(FACTS)を4点にわたって検証する。 

 第一に、中国において、近年世界が経験したことがない不動産価格の異常な値上がりが起きたことが指摘される。不動産価格の水準を年間所得との比較で見ると、上海50倍、深圳43倍、香港42倍、広州37倍、北京36倍(2023年NUMBEO調べ)と、歴史的高水準に達している(東京は12倍、NY10倍)。バブル期の東京の同倍率が15倍であったことと比較すると、中国の深刻度は明らかである(図表1)。

 また住宅価格を年間家賃との比較で見ても東京やNYの25倍に対して、中国は全国中央値でも58倍(2023年中国不動産協会調べ)と著しく高い。住宅所有が結婚の条件という中国で、若年失業率が20%超の環境下で、この価格は異常である。結婚できない若者が続出し社会的不安が高まり、政権はそれを無視できなくなった。「住宅は住むためのものであり、投機の対象ではない」という習主席の言葉は、1990年頃の日本と同様に、イデオロギーというより、国民の強い不満に対する対応と理解すべきであろう。

 では、不動産バブルのマクロ的規模はどれほどか。日本の土地時価総額は、1980年(745兆円)、1990年(2,477兆円)、2005年(1,252兆円)、2013年(1,135兆円)、2021年(1,276兆円)と推移してきた。ピーク時1990年の対GDP比は581%であつた(図表4)。これに対し、2017年の中国の住宅時価総額は430兆元(Kenneth Rogoff, Yuanchen Yang(2020)、"Peak China Housing")という試算がある。GDP79兆元として計算すれば、対GDP比は544%と、ほぼ日本のバブル時に匹敵することがわかる。

 ちなみにFRBによる米国の住宅時価総額(家計保有)はバブルピークの2007年でも26兆ドル(対GDP比180%)、2011年20兆ドル(対GDP比129%)、2022年45兆ドル(対GDP比177%)となっており(図表5)、日本と中国のバブルはやはり桁外れに大きかったことがわかる。 

 第二に、不動産バブル発生の根本的原因において、中国には日本にはなかった能動的要因がある。日中のバブル原因には共通点と相違点がある。日中ともに不動産バブルは、ニクソンショック後のドル垂れ流しの国際分業進展の下で、対米輸出の急増で経常黒字が大きく積みあがったことに端を発する。日本では1980年代以降、GDP比3~4%の経常黒字が積み上がり、中国は北京オリンピックを挟んだ2006~10年にかけて、GDP比5~10%の巨額黒字を出し続けた。

 それは即、国内通貨の過剰供給につながり、不動産バブルの形成の原動力になった。また中国では2015~16年の金融危機・人民元安危機に対応し資本輸出規制を再導入したため、過剰貯蓄が国内に封鎖され2016~17年の不動産狂乱を引き起こした。このように対外黒字と過剰通貨発行は日中共通のバブル原因である(図表7,8)。

 日中共通の受動的バブル形成に対して、中国には政策が能動的にバブルを引き起こしたという、大きなバブル形成の誘因があった。中国国家財政は地方が支出の85%を担うという構造になっているが、地方の財政収入の4割が土地利用権売却益によって捻出する仕組みとなっている。地方政府は規制・周辺インフラ整備・金融支援込みで魅力度を高めた土地利用権を売却し巨額の収入を得続けた(図表9)。その威力は、2008年のリーマン・ショック時の世界経済を助けたといわれた4兆元の経済対策や、2015年のチャイナショック時に発揮された。 

 こうしたことから第三に、不動産金融において、中国の不動産関連負債は日本に比べて突出したレベルとなっている。日本の不動産金融はもっぱら銀行部門の過剰融資であった。それに対して中国は地方政府の別動隊であり公共インフラ整備資金の調達を担う地方融資平台(LGFV)の債務が急拡大してきた。 

 日本の不動産金融の規模は、1990年の総量規制の対象となった3業種(建設、不動産、ノンバンク)に対する銀行融資と捉えてよい。3業種向け貸し付けは1980年33兆円(総貸出に対する比率13%)、1985年50兆円(同18%)、1990年89兆円(同22%)、1997年115兆円(同22%)と急増しバブル形成の主燃料となったが、そのGDPに対する比率は1985年15%、1990年19%、1997年21%であった(図表10)。

 それに対して中国の場合、融資平台だけで債務総額は2018年35兆元(対GDP比38%)、2023年57兆元(対GDP比53%)と推移し、IMFの見通しでは、2027年102兆元(対GDP比では60%以上)となっており、日本の比ではないことが分かる。IMFはこれらを政府の隠れ債務と呼び、それを加えれば中国の政府債務残高は2027年にはGDP比149%と日本に次ぐ高債務国になると予想している(図表11日本総研三浦有志氏「中国経済の新たなリスクに浮上した地方融資平台」より)。 

 加えて、日本のバブル崩壊時には存在しなかったシャドウバンキング(貸付信託、受託債券、受取手形、 信用状、収益権等)によるデベロッパー等の資金調達も数十兆元(対GDP比10%以上)存在していると推測される。 

 また家計債務対GDPを比較すると、日本のバブル期(1980~1990年)で45%から68%へと23ポイントの上昇だったのに対して、中国は2010年の26%から2020年の62%まで36ポイントと急上昇しており、中国の家計債務の脆弱性が推測される(図表12,13)。

 第四に、不動産バブルの経済への影響において中国の比重は大きい。バブル関連産業を建設業と不動産業と定義し両者の産業別GDPを合計すると、日本の場合1990年GDP比21.0%(建設10.1%、不動産10.9%)、2021年同17.4%(建設5.5、不動産11.9%)と推移してきた。それに対して中国は2016年29%(建設+不動産)と推定されている(Kenneth Rogoff, Yuanchen Yang(2020)、"Peak China Housing")。 

 以上のように検証すると、すでに形成された不動産バブルのスケールは、1980~90年代にかけての日本のそれよりははるかに大規模なものであることが分かる。

(つづく)

(後)

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