麻生太郎氏の「公明党はがん」発言は事実上の宣戦布告
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9月24日に福岡市内で行われた講演会での麻生氏の発言が政界で波紋を呼んでいる。公明党(以下、公明)幹部や創価学会(以下、学会)を名指ししての発言は、連立関係を揺るがす挑発、事実上の宣戦布告とであるとの見方があるが、真意を考察したい。
連立への不満
「麻生先生の発言は、20年におよぶ自公連立に対する不満の表れともいえますね」
こう語るのは、福岡の自民党所属の地方議員。麻生氏の発言は次の通りである。
「北朝鮮からどんどんミサイルが飛んでくる。やられたらやり返す能力を我々はもっている。だったら『使いますよ』と相手に言わないのはおかしいと自民党は言っていたが、公明党は専守防衛に反するという理由で反対。現実をよく見てみろ、と。今は時代が違う。ウクライナみたいに日本が戦場になると言い続けた。
公明党は一番動かなかった、がんだった山口那津男代表、石井啓一幹事長、北側一雄副代表ら一番上の人たち。その裏にいる創価学会も含めて、納得するというかたちになった」
麻生氏は、岸田政権が昨年末、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有などを明記した安保関連3文書を閣議決定したことに関して、山口代表など公明党幹部、さらには支持団体の創価学会を含めて、がんであったと発言したのである。
麻生氏の「公明党嫌い」は知られているが、衆議院議員を中心とする多くの自民党議員は、公明および学会の支持を受けられなければ、厳しい選挙戦を強いられるため、内心は公明や学会を快く思っていなくとも、表立っては批判しない。
近年は、いわゆる岩盤保守層の公明・学会嫌いもあって、若手議員を中心に政策で公明に譲歩することや選挙協力を行うことに否定的な議員もいる。
公明票に依存した自民議員
昨年、奈良市で殺害される直前に安倍晋三元首相から参議院議員選挙の応援演説を受けた岡山県選出の小野田紀美参議院議員は、公明の推薦を求めない主旨をSNSに投稿した。その結果、選挙では公明票が入らずその前回選挙と比べ得票数を約4万5,000票減らしながらも再選したが、そうした議員は、例外的と言ってよい。
地元福岡の自民党国会議員でも、麻生氏以外、関係性の濃淡はあるにせよ、公明や学会の支援を受けている議員がほとんどである。
公明が、先日の内閣改造でも国土交通大臣のポストを引き続き獲得するなどしていることに、自民党内には不満が相当にある。なかでも麻生氏は、安倍政権時代の安保法制でも事前の折衝において公明に配慮した経緯を認識しており、今回の発言につながったのは間違いない。
公明の反対で抑制的に
『公明党に問う この国のゆくえ』(田原総一朗・山口那津男、毎日新聞出版、2020年)によると次のようにある。
「安倍総理は、アメリカが武力攻撃された場合、日本が集団的自衛権を行使できるようにしたかったのだと思います。いわゆるフルスペック(全面的)な集団的自衛権です。(中略)公明党はフルスペックの集団的自衛権を決して許してはいけない、何があってもこれに歯止めをかけなければいけないという立場で、断固として反対し続けました」
つまり、国民の間で賛否が分かれた安保法制(政府与党は平和安全法制と呼ぶ)は、公明党に配慮したものであり、フルスペックのものではないということになる。
14年7月の閣議決定で3要件が定められた。日本への武力攻撃が発生した場合だけでなく、日本と密接な関係にある他国に対する攻撃が発生した場合でも、これにより日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される「明白な危険」がある場合に限って、「自衛の措置」をとることが可能となった。
しかし、自衛権の発動に当たっては、国の存立を全うし国民を守るために、他に適当な手段のない場合にのみに限定し、あくまで「専守防衛」「自国防衛」に限るものとされた。
麻生氏としては、ウクライナ戦争や台湾有事などがあるなかで、制限付きの自衛権行使では、現実に対応できないと考えているのであろう。
麻生氏の発言は、安全保障問題だけでなく、国民民主党との連立が実現しなかったことに対して、公明が足を引っ張ったとの思いが根底にあるとの見方をする政界関係者が多い。
いずれにせよ、麻生氏の発言は、連立相手を「がん」と呼び、否定するものであり、公明に対する事実上の宣戦布告といえる。
ただ、名指しされた公明側は、表向き静観する態度を示した。公明の山口代表は26日の記者会見で、麻生氏が公明幹部や学会を「がんだった」と主張したことに対し「麻生氏がどういう意図で話したかわからず評価は控えたい」と慎重な姿勢を崩さなかった。麻生氏の挑発に乗るのは、得策ではないと判断したと思われる。
公明やその支持団体である学会の政治姿勢に対して、さまざまな主張があることは事実だが、安全保障上の国是の転換を行うに際し、公明が慎重な態度を崩さなかったことは、評価すべきであり、麻生氏の発言は適切ではないと申し上げたい。
【近藤 将勝】
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