窮地か?ドイツ企業の対中戦略検討とEU(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は10月5日発刊の第340号「窮地か?ドイツ企業の対中戦略検討とEU~三菱自工中国撤退vs対中投資double downのドイツ企業~」を紹介する。(4)悪くはない日本企業のグローバルな立ち位置
そもそも完全EV化の前に過渡期としてのHV、PHVをかませることで移行がよりスムーズになるとのトヨタの主張にも道理がある。WSJ紙は「欧米流のがむしゃらなEV移行を再検討する必要がある」との豊田章男氏の主張を勇気ある正論として、社説で次のように評価している。
「トヨタはBEV(バッテリーEV)に代わるものとして、HVおよびプラグインハイブリッド車(PHEV)を推進している。PHEVは内燃機関を搭載しており、バッテリーの残量が少なくなったときにそれを稼働できるため、航続距離に関する不安が軽減される。それらはまたEVより安い。性急な完全EV化の問題は大きい、(1)2030年までに全米で120万カ所の公共充電設備が必要となり、毎日約400カ所の充電設備の新設が必要だが、その目標達成にはほど遠い。(2)2035年までに想定されるバッテリー需要を満たすには300カ所以上の新たなリチウム、コバルト、ニッケル、グラファイト(黒鉛)鉱山が必要になり、その開発には何十年も要する、(3)航続距離の長いバッテリー搭載のEVに使用される原材料があれば、PHVを6台、HVを90台生産できる、(4)これら90台のHVの全使用期間中に達成される温室効果ガス削減量は、BEV1台による削減量の37倍に達する。この不都合な真実は、気候変動対策推進の信奉者や政府の要求の根底を崩すものだ」(WSJ紙6月4日)。
6月に米国で実施されたビューリサーチセンターの世論調査によると、2035年からの内燃機関車の新車販売禁止という政策に対する反対意見は2021年4月の51%から59%へと上昇している。EV移行のロードマップをもちつつキャッシュフローを継続的に創出し続ける戦略が必要であろう。EV化に遅れていると評価されているトヨタなど日本企業の立ち位置は、必ずしも悪くはないのかもしれない。
(5)欧州スタグフレーション、楽観できず、破綻した露中偏重の欧州経済戦略
米日欧、先進国経済のなかで欧州経済の困難化が浮上している。IMFの直近の各国GDP見通し(2023年)は米国1.8%、日本1.4%に対して、ユーロ圏平均0.9%とユーロ圏の停滞が際立っている。とくにユーロ圏GDPの3分の1のウェイトをもつドイツは▲0.3%とG7のなかで唯一のマイナス成長見通しである。ドイツ経済はウクライナ戦争開始後の22年2Qから今日までほぼ横ばいで、23年に入ってからは、1Q、2Qとも前年同期比▲0.2%と停滞色を強めている。
インフレの高進は、世界共通の困難であるが、経済成長率の顕著な鈍化、それによるスタグフレーションは欧州固有の経済情勢といえる。ブルームバーグのコンセンサス予想によると、市場は2023年と2024年に欧州においてスタグフレーションが深刻化すると予想している(アポロのチーフエコノミスト、トースタン・スロック氏指摘)
ユーロ圏の困難の根源には、ロシアと中国に依存しすぎた経済戦略の失敗がある。ロシアからの天然ガス輸入完全ストップに対応して、他の供給源への切り替えで高コストになった。独露蜜月時に天然ガス輸入の55%をロシアに依存するというドイツの戦略が挫折した。加えて原発の完全停止など、ドイツの性急なゼロカーボン政策の問題が露呈している。それが電気料金急騰などインフレの悪性化の懸念を引き起こしている。これに先述の、対中貿易の悪化が加わる。長期にわたって大幅な経常黒字を謳歌した、ドイツの黄金時代は過去のものになるかもしれない。
これまでのユーロ圏安定の基礎にはドイツの大幅な経常黒字に支えられた金融力があった。このドイツの金融力にイタリアやスペインなど南欧諸国が全面的に依存する、という仕組みが持続可能か、心配される。盟主であるドイツの経済困難はユーロ圏全体の問題に転化するかもしれない。ユーロ圏のスタグフレーションは長引く恐れがある。
(了)
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