2024年12月26日( 木 )

僅差の長崎4区補選、世襲隠しの弔い合戦演出作戦は成功するか(後)

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 保守分裂の長崎県知事選のしこりが補選に影響を与える可能性が指摘されている。『夕刊フジ』は11日、「岸田政権の命運左右する“大一番”2つの衆参補選に要注目」と題する安積明子氏の署名記事で、大石賢吾知事が当時現職の中村法道知事を破った2022年2月の長崎県知事選を次のように振り返った。

「谷川弥一衆院議員や、元県知事で衆参議員を務めた金子原二郎氏ら有力者が大石氏の支持に回る一方で、北村氏らは中村氏を支援した。長崎県政は混乱した。大石知事には当選直後、公選法違反疑惑が浮上した。大石陣営の出納責任者と、選挙コンサルティング会社社長が、買収容疑で長崎地検に刑事告発されたのだ。しこりは、残っている」

 この長崎県知事選については、当サイトでも何度か取り上げていた。夕刊フジの記事にある「選挙コンサルティング会社社長」の大濱崎卓真氏から暴力的取材妨害を受けたことについては「【長崎県知事選】大石新知事陣営による力づくでの取材妨害 これは暴力だ!」(2022年2月25日」で紹介、保守分裂となった背景に「石木ダム計画」(川棚町)があったことについては「【長崎県知事選】自民・維新推薦の大石候補が初当選」(2022年2月20日)で解説。石木ダム強行(強制代執行)に慎重な当時の中村知事に対して、県政実力者コンビ(金子原二郎氏と谷川氏)が新人の大石氏を擁立・支援する構図であったのだ。県政事情通は、「強制代執行が可能となっても反対派住民13世帯は水没予定地に住み続けており、力ずくで追い出すのに中村知事(当時)は躊躇。それで早期の工事着工を望む金子・谷川コンビが大石氏を担ぎ出した」と見ており、これを記事で紹介したのだ。

 そして金子家三代目の容三候補も石木ダム推進派。政党届出ビラには「国県市連携による石木ダム早期完成」と記載。10月1日の集会後に石木ダムについて聞くと、「法廷の方で結論が出ていますので」と回答。「ビジネスの世界にいた方として全然経済合理性がないと思わないのか。水需要が右肩下がりになっているではないか」「必要性がもうなくなっているのではないかという考えにたどり着かないのか」とも聞いたが、「経済的合理性だけの話ではないと思う」「県と連携してやっていく」と答えており、父親と同じ推進の立場であることを確認できた。

 世襲批判について聞くと、「世襲批判については理解しているが、私が皆様方の話を聞いて、どれだけ地元のために国のために貢献できるのかというところが重要なのかなと思う」と回答。

 集会(自民党国会議員らとの討論会)で新しいビジネス創出の重要性を訴えていたので、「(先の話と)古い世襲政治を引き継ぐのは矛盾するのではないか」とも突っ込んだが、「政治は家業ではないと思うし、これから私がやろうとしていることは新しい事業をどんどん生み出していくといったものを築いていける制度なり土壌を築いていくことなので、とくに家業を継ぐということではないと思う」と反論した。

 最後に大濱崎氏についても「刑事告発されている人間でも応援を受けるということか。一緒に街宣で同行していたではないか」と聞いたが、付き添っていた山本啓介参院議員が「もう撮らないでください」と止めに入り、立ち去ろうとする金子候補に向かって「選挙に勝てばいいのですか、疑わしい人物を使っても」と声かけ質問をしたが、「ごめんなさい」という一言が返ってくるだけで具体的回答はなかった。

末次候補の演説(10月10日の出陣式)
末次候補の演説(10月10日の出陣式)

    同じ10月1日、事務所開きを終えて囲み取材に臨んだ末次候補(このときは衆院議員)にも「石木ダムを相手(予定)候補は金子家三代にわたって推進しようとしている。組織選挙で建設業界も応援に回って、『石木ダム推進か見直しか』も争点になるような気がするが」と聞くと、次のような答えが返ってきた。

「石木ダムについては最高裁の判決が出ていますので立法府の人間が公的に賛成反対というのはちょっとおかしいということは前提としてあると思う。そのうえで、私自身の考えが変わったのかというと変わっていない。私は、それ(ダム建設)に代替するものはあると思っているし、そもそも暮らしということを考えると、全国で上から数えるほど高い水道代の佐世保で水道料金を下げる方法はあると思っている」

 これを受けて「相手候補は世襲で父親も(石木ダムを)推進して、その祖父の代から予算をつけて推進していることについてはどう考えるのか」「『土建選挙対市民選挙』という戦いになるのかなとも見ているが」とも聞くと、末次氏は「(金子候補は)恐らく賛成でしょうから、それについては明確な違いになると思う」と回答。両候補の立場が賛否で割れたことから石木ダム計画が、補選の争点の1つになる可能性が出てきたのだ。

 弔い合戦になって自民楽勝となりはずであった長崎4区補選だが、政党基礎票では大差をつけられている野党系候補が僅差で競り合っている。“叩き上げ対世襲”という構図が有権者に浸透するのか、それとも民間感覚を前面に出す“世襲隠し作戦”が功を奏するのか。岸田政権の解散戦略にも大きな影響を与える選挙結果が注目される。

(了)

【ジャーナリスト/横田 一】

(前)

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