2024年12月22日( 日 )

1971年体制の終焉、ドル一強時代の始まりか(1)米国経済の突出(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は10月25日発刊の第342号「1971年体制の終焉、ドル一強時代の始まりか(1)混沌の世界・米国ペシミズムと米経済の突出した強さ」を紹介する。

米国長期金利上昇が米国潜在成長率の上昇を示唆している可能性

 ならばなぜFRBはそこまで利上げにこだわるのかだが、昨年来の500ベーシスの利上げに実体経済がまったく反応しない、その強さがなぜなのか分からないからであろう。FRBは持続可能な中立的金利水準(自然利子率)の見当がつかなくなり、よってData Dependent(データ次第)と手探り状態なのである。パウエル議長が8月のジャクソンホールでのスピーチで「我々は曇り空のもと星を頼りに航海している」と述べたのは、まさしくこのことを指している。 

 仮に技術革新とイエレン財務長官が主唱するMSSE(現代サプライサイド経済学)、高圧経済政策により、米国経済の潜在成長率が引き上げられているとすれば、当然妥当な中立金利は高くなり、金利上昇圧力が強まる。 

 このように現在の米国長期金利の上昇は、潜在成長率の上昇に裏付けられた良い上昇か、はたまたインフレ圧力や米国財政に対する信認の低下などによる悪い上昇なのか。またそれらは一時的か、持続性があるのか。正解が分からないなかで当局も市場も揺れ動いているのである。 

 現時点では不確かだが、武者リサーチはあえて米国長期金利の上昇は良い金利上昇であり、一定の持続性があると考えたい。前述のようにインフレはほぼコントロール下に入ったといえる。また財政赤字によるドル信認の低下やクラウディングアウトなどのネガティブな要因は、現在のドル高進行や、米国民間の潤沢な貯蓄と積極的米国国債投資(MMFなどを通した)などの現実とは整合的でない(図表4参照)。インフレと金利の不確実性は数カ月から半年で消えていくだろう。となると限定的ではあっても、利下げが視野に入ってくる。利下げには供給力投資を強めインフレ圧力を引き下げるという側面がある。住宅価格抑制には、利下げによる住宅供給増加というチャンネルが有効である。

図表4:投資主体別米国国債保有比率推移

 またMSSE理論に基づけば、賃金抑制には利下げが設備投資増加を通して労働代替・賃金下落圧力を生むというチャンネルにより有効であることが想定される。現在の米国では、過剰供給力が放置された1930年時代の大恐慌時と異なり、新産業革命による生産性の向上(=供給力の増加)が旺盛な需要創造でカバーされるという好循環が起き始めている、と考えられる。

(3)米国ペシミズムを打ち消す
ドル高時代到来の可能性

米国経済の強さが米国ペシミズムを打ち負かす可能性

 米国経済力のこの強さが米国のプレゼンスを押し上げ、世界秩序再構築を成し遂げることができるのか、ここに議論の焦点がある。武者リサーチは、どれほど米国経済は強いのか。その強さが米国主導の世界秩序の再構築に結び付くとしたら、どのような経路が想定されるのか、に関して検証していく。それには歴史の回顧が不可欠である。

1971年から始まった第2次戦後体制

 第二次戦後体制ともいえる現在の世界経済政治秩序の骨格は1971年の2つのニクソンショックによって形成された。今それが音を立てて崩れつつある。その第一は米中国交回復である。世界秩序のなかに共産中国を招き入れ、世界最大の8億の民(当時)が世界市場経済の一員になったが、米中対決でそれが壁にぶつかった。第二のニクソンショックはドル金交換の停止で、以降米国は貿易赤字を増やし続け対外債務が膨張した。

ドル過剰からドル不足の時代へ

 このドルの垂れ流しシステムが現代のグローバライゼーションの本質である。ドルの垂れ流しは、米国国民には消費を刺激し続けることで、海外には対米輸出を増加させることで恩恵をもたらした。日本、アジアNIES、中国の離陸で始まったアジアの時代は、ニクソンショックの賜物であった。しかしこれも限界にぶち当たっている。1970年当時10%だった米国の財輸入依存度が8~9割に達し、もう輸入を増やす余地がなくなった。他方で米国のサービス輸出と、所得収支黒字が大きく増え始めた。世界経済の最大のブライトスポットはアジアでもグローバルサウスでもなく、サイバー空間である。この急速に発展している知の塊であるサイバー空間、インターネット・AI等の分野において、米国は世界需要をほぼ独占し、その利用料金を釣り上げている。

 欧州や日本はインターネットプラットフォーマーの独占にペナルティーをかけようとしているが、代替供給者が自国に存在していないのであるから、無駄なあがきである。となると米国の経常赤字は減少に転じ、赤字垂れ流しによるドル供給は減速し、ドル不足時代が訪れることになる。またイノベーションの母国、米国の経済成長率は他国を凌駕し始め、それによる高金利が米国への資金集中を促進し始めた。その結果起きるドル高は、覇権国米国の財政力を強化し、世界秩序の再構築の推進力となるだろう。世界秩序再構築のカギは強いドルである、との想定が妥当であるかどうか、今後数回にわたって検証していきたい。

図表5:ドルインデックスの推移

(了)

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